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「割り算」で克服する、数字が読めないビジネスパーソンからの脱却

ハイテク化していく社会では、 STEM(科学・技術・工学・数学)を専門とする人材へのニーズが高まってくことは各所で指摘されている。AIの開発現場でニーズが高まっているデータサイエンティストや、事故や病気が発生する確率に基づいて保険商品を開発するアクチュアリー(保険数理計算人)などは、高度な数学を駆使した新職業として注目されている。

こうした最先端の仕事で高年収を稼ぐのは、一握りの数学エリート人材に限られるとしても、一般のビジネスでも数学知識が求められるシーンは確実に増えている。たとえば、「この商品の原価率と利益率はいくらか?」といった計算が直感的にできることは、セールスの現場でも必要になっているし、eコマース事業を手掛ける会社では、見込客のリーチ数に対する成約率、解約率、さらにアクセス統計からの詳しい分析などで、数学知識が求められる業務は増えている。

このようにビジネスのデータから重要な指標を視覚化して、業績を伸ばすための糸口や問題点を見つける手法は、KPI分析(重要経営指標)と呼ばれている。具体的な計算はPCに任せられるとしても、その指標がどのような計算式によって成り立っているのか、数字の意味がわからなければ、実際の業務で活用することはできない。

日経記事によると、作業服チェーンのワークマンでは、入社2年目以降の全社員に対して、エクセルの「関数」を必須スキルとした社員研修を徹底させている。それにより、各店舗の社員が地域毎の売れ筋商品や販売ピーク月、各商品の適正在庫量などをデータベースから導き出すことができるようになり、同社の業績を急成長させる原動力となっている。

【ビジネスパーソンの中で人気化するウェブ解析士】

会社からの強制ではなくても、自己投資として数学のスキルアップに磨きをかけることも、意識が高いビジネスパーソンの中では人気となっている。

「ウェブ解析士」は、Webサイトの運営やネット広告のマーケティング効果を測定するのに必要な、アクセスデータの分析方法・計算方法などを取得するための民間資格として2010年に創設されたもので、「ウェブ解析士」、「上級ウェブ解析士」、「ウェブ解析士マスター」という3段階の認定資格が設けられている。その中でも、初心者が取り組みやすい「ウェブ解析士」は、これまでに3万2000人が受験して、2万2000人が資格を取得している(合格率69%)。

ウェブ解析士の資格が、就職や転職に即役立つわけではないが、日常業務として定着してきているWeb運営業務の中で、アクセス解析の知識を活用できるメリットは大きい。

【割り算の基本に立ち戻る、大人の数学教室】

一般ビジネスパーソンの中でも、数学知識が必要となる業務が増える中、学生時代から数字を苦手としてきた人は多く、原点に戻って学び直したいというニーズも高まっている。基本的な四則計算の中でも、割り算の応用問題が直感的にできない人は多く、それがビジネスで使われる経営指標を読み取れないことに繋がっている。

マミオン有限会社(東京都新宿区)では、大人向けの数学教室「大人塾」を2011年から運営しており、現在までの受講生は2000名を超している。主に受講しているのは、採用試験における数学対策をしたい就活生や転職者、各種の資格試験対策や、社内業務の中で数学知識を求められる現役のサラリーマン、趣味として数学を学び直したいと考えているシニアまで幅広い。

通学型の指導は、高田馬場にある教室で行われ、フリータイム制で都合の良い時間に通学することができる。指導方法は、複数の受講生に一人の講師が付く個別指導型で、実力に応じた学習項目に沿ってスライドに表示される解説と問題を解き、わからないことを講師に質問する形式になっている。

2018年6月からは「ビジネス基礎数学Eラーニングコース」を立ち上げている。このオンラインコースでは、数学に対して苦手意識のある人が、22時間分の学習でビジネスに必要な数学の基礎と論理的な思考能力を身に付けることを目指している。

同社代表の森 万見子氏は、大人塾のスタート時に「数学を苦手とする人がこんなに多いのか」とショックを受けたという。有名企業に勤める社員の中でも、逆算ができない、損益の計算ができない、消費税の割り戻しができないというケースは珍しくない。数学が苦手になったのは、いじめによる不登校だったり、学校が荒れていたため授業が成立していなかったり、親の転勤、帰国子女、先生との相性など、様々な原因が挙げられるが、「できない」と言えないまま大人になり、正社員登用や昇格試験で数学に対峙せざるを得ず、同塾に通い出した受講生も多い。

働き方改革が叫ばれる中、個人の実力や生産性を高めていく上では、基礎学力の見直しが欠かせない。社会人向け教育というと、高度な学習内容に走る傾向があるが、じつは中学時代の学習内容にさかのぼって、基本を学び直すことが、各種のITツールを使いこなしてビジネスに役立てるための、攻略点になるのかもしれない。

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