今の時代に、むしろ「定価」サービスの方が珍しいのでは

「定価」や「希望小売価格」という表記は、あまり見なくなった

 最近、お店で「定価」とか「希望小売価格」という表記を見たことがあるだろうか。石鹸や洗剤などの日用雑貨品も、昔は「希望小売価格」があり、多くのお店で、同じ値段で売られていた。しかし、最近はお店や時期によって、その価格は変わる。そのことを、私たちも知っているので、特に大きな混乱もない。

 最近では、飛行機のチケットでも、価格が変動する。いわゆる、ダイナミックプライシング(変動価格制)で、売られている。買った時期により、飛行機のチケットの値段が異なるということは、同じ飛行機に乗っている、隣の乗客が自分と同じ値段で買っているとは限らないのである。しかし、特段そのことで問題が起きているという話も聞かない。

「定価」があるものもある

 一方、まだ定価のあるものもある。書店での書籍は定価がある。どのお店でも、販売価格は同じである。そして、スポーツ、エンタメ ライブチケットである。そのことについて、「スポーツ、エンタメ ライブチケットに『時価』の時代」というコラムが目に留まった。このコラムでは、その仕組みや、導入する意味などについて、書かれている。そこで、私はアメリカン・フットボールのファンとして、自分の経験を交えて少し考えてみたい。

定価+転売可能で実現する、ダイナミックプライシング

 私は、毎年のようにアメリカン・フットボールを、現地アメリカで観戦する。15年前には、日本から観戦ツアーも多かったので、旅行代理店に、飛行機、ホテル、観戦チケットをまとめて手配してもらっていた。しかし、今は違う。すべて、個人で手配をして出かける。それだけ、インターネットの旅行に関する予約サービスや、チケット販売は充実した。自分の好きなホテル、自分の好きなスタジアムの席を簡単に予約できるようになった。

 ここから、スポーツのチケットの話に焦点をしぼる。通常のアメリカン・フットボールの観戦チケットは、チームから直接買う場合と、チケット購入者から買う場合の2種類に分かれる。日本では、「チケット転売規制法」が成立したので、チケットの転売に関して、きわめて行いにくい。が、アメリカン・フットボールのNFLでは、転売を許可している。シーズンチケットの購入者が、そのチケットをチケット交換サイトで販売することを許可している。チームの公式サイトでは、このシーズンチケットによる投資シミュレーションのページも用意されている。

 私は、せっかく試合を見るのであればということで、前の方の席を買う。多くは、シーズンチケット・ホルダーからの転売である。しかし、この転売でも、価格は大きく変動する。シーズンに入る直前であれば、どのチームも転売の価格は高い傾向になる。しかし、そのチームの勝率が良くなければ、定価割れということもあるのである。

 つまり、スポーツにダイナミックプライシングを導入すると、チケット価格の高騰になるという意見があるが、必ずしもそうではないのである。価格が下がることもあるのだ。

もっと、ダイナミックプライシングの議論をしても良いのでは

 ダイナミックプライシングを導入すると、チームも必死になる。シーズンチケットを早く、多く売りたいチームは、そのチケットの市場価値が高くなるように努力する。例えば、スタジアムの環境を良くしたり、スタジアムでの食事のサービスを高めたりである。

 もちろん、ダイナミックプライシングには、課題や問題もある。が、海外でも行われており、日本のプロ・スポーツでも導入が始まった、ダイナミックプライシングについて、もっと盛んな議論を行ってみてはどうだろうか。

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本間 充 マーケティングサイエンスラボ所長/アビームコンサルティング顧問
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