
この2年半の間にどんな準備をしていたかが問われるインバウンドビジネス再開
水際措置の緩和で再開されたインバウンドビジネス
昨日(2022年10月11日)から日本の水際対策が緩和され、個人旅行を含めた外国人の観光客も日本への入国が比較的自由に行われるようになった。
これに伴って、多くの外国人が日本に観光目的で来訪し、またこれを受けて日本の多くの観光関連産業がいわゆるインバウンドビジネスを再開するといったニュースが多く見られる。
2020年春の新型コロナウイルスの爆発的な流行開始以降、外国人に対して国境を事実上閉ざすに等しい状態にあったことを考えると、約2年半ぶりの「開国」となったことは、遅きに失する感じもするが、ともあれ喜ばしい。
ただ、多く報道されるニュースを見ていると2020年春以前までのインバウンドビジネスを単に再開しただけ、というケースがほとんどのようにも感じる。
コロナで起きた社会の変化は旅行・観光にも影響
この2年半の間に世の中は大きく変わった。一つは新型コロナウイルスの流行によっていわゆるリモートワークやオンライン会議が多くの人たちにとって当たり前になったということだ。
これはつまり、職種等によっては働く場所の制約が少なくなったということである。現に日本の企業でも NTT やヤフーが勤務地・居住地の制限をなくする働き方を導入し始めている。
これは裏返せば、外国人が日本を拠点として働くことも、時差の問題さえ克服できれば可能になった、ということである。こうした働き方こそ、いわゆるウィズコロナないしアフターコロナにふさわしいスタイルだし、そうした人々を受け入れるビジネスが、ウィズコロナ・アフターコロナのインバウンドビジネスではないだろうか。日本の中で、こうした人の受入を検討したり、具体的に取り組みとして起きていることはあるのだろうか。
例えばポルトガルでは、リモートワーカー向けのビザ(デジタル・ノマド・ビザ)を発給し、最低賃金の4倍以上の稼ぎがある人であれば一年間の居住権がもらえるそうだ。
減る出張、増えるリモートワーク・デジタルノマド
オンライン会議の浸透で、今後出張の需要は減るのではなか、という見方がある。これに、昨今のエネルギー不足問題や、環境意識の高まり、進行するインフレ、といった要素を考えると、ビジネス移動の需要回復は、思っているよりも時間がかかりそうだし、元の水準まで回復しない可能性もあるだろう。
そうしたなかで、出張に代わって需要の伸びが期待出来るのが、滞在型あるいは(半)移住型のリモートワークであり、そういう需要の開拓と取り込みを狙ったのが、上に紹介したポルトガルの取組みだと解釈できる。
日本では一部の都市を除けば、ほとんどの地域が少子高齢化に伴った人口減少に苦慮しており、移住・定住による人口維持・増加の施策を取っている自治体は多い。しかし国全体として人口が減っている以上、日本国内で人を取り合ったところで、ゼロサムゲームどころかマイナスサムゲームにしかならない。
それを解決しようと思えば、海外から人を呼んでくることが選択肢としてあるはずなのだが、海外からの外国人の受け入れに向けて動いている自治体はあるのだろうか。 それに向けてこの2年半で、例えば街を挙げて英語の学習に取り組んだり、海外の地域とのオンライン交流を進めたりしていただろうか。
エネルギー危機・インフレが変える観光スタイル
ここまで先に進むことは難しいとしても、日本の今のインバウンドビジネスは、全体として2020年以前と同様に団体さんを念頭に一見さんを繰り返し迎え入れては送り出すという発想が根底にあるように感じる。
これは、かつての修学旅行や会社の慰安旅行などの受入れスタイルであり、コアなファン、コアなリピーターを作って繰り返し来てもらい、長くいてもらう発想とは異なるものだ。
最近では「交流人口」といういい方で地域との関わりを持つ人を増やそうという動きが見られるが、その時にキーとなるのはファン・リピーターを獲得する施策だろう。だが、交流人口という言葉を聞くわりには、一見さんのインバウンドをファンやリピーターに育てていく取り組みは、聞こえてこないように思う。
例えば、台湾は、直近1年以内に3回以上台湾に来訪すると、通常長い行列ができる入国審査を、優先レーンを使って短時間で通過できる「常客証」を入管に相当する国の組織(内政部移民署)が発行してリピーターに対する便宜を図っている。しかも、オンラインで簡単に発行できる手軽なサービスだ。台湾も10月13日からの海外からの渡航者受入れ再開をみすえて、コロナの期間に無効となった常客証の有効期限延長を行っている。
京都のような世界的にも著名な観光地であれば、一見さんだけを受け入れ続けてもビジネスが成り立つのかもしれないが、知名度が低く特筆すべき見どころがないような場所であれば、数は少なくてもその土地を気に入ってくれた人を大事にして、何度も来てもらい、一回来たら長くいてもらうための知恵と工夫を凝らす必要があるのではないだろうか。
時を同じくして始まった国内向けの「全国旅行支援」の施策も、一時的なカンフル剤にはなるだろうが、これまで旅行できなかったことの反動による盛り上がりが一巡してしまえば、再び元通り、ないしはそれ以下の旅行・観光需要に落ち込んでいくと見ておかなければならないだろう。出張に関して指摘した通り、エネルギー不足やインフレといった要因が長期化すれば、国内外を問わず、旅行に要するコストが上がり、それに応じた収入・賃金の上昇がなければ、観光旅行の需要も回復しにくいと考えられる。
この2年半の間に世の中の変化を見極め、それにどのように対応するかを考えておき、人の往来が戻ったこの時期から新たな施策を実行出来ていることが理想だったが、今からでも、一時的かもしれない需要が盛り上がっているうちに、次の施策を考えて手を打つべき時にあるのではないだろうか。