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メタバースが変える近未来のリモートワークスタイル

 ネット社会ではSNSを通して個人が自由に情報発信できるようになり、音信不通になっていた友人との交流が再開したり、趣味の仲間を増やすこと、さらに、ユーチューバーやインフルエンサーを職業とした成功者も登場するようになった。

現在のSNSは、世界人口の4割にあたる30億人が利用しており、生活や仕事のインフラとして欠かせないものになったが、見知らぬ相手からの誹謗中傷やストーキングの被害も深刻化しており、実名、写真、顔出し動画などの個人情報を公開することのリスクも高まっている。

欧州(EU)で2018年に施行された個人データ保護法(GDPR)では、ネット事業者が、個人を識別できる身体の特徴を取得することの規制が強化されており、SNS上でも、仲間と撮影した写真や動画を気軽に投稿することが難しくなってきている。若い世代ほどSNSへの依存度は高いが、一方で、メンタルヘルスの不調を引き起こす要因にもなっていることから、これまでの交流スタイルが見直されていく方向にある。

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そうした中で、「メタバース(Metaverse)」と呼ばれる仮想空間の概念が注目されるようになってきた。これは、ネット上に構築された3Dの仮想空間で、自分の分身となるアバターを介して、他のユーザーと交流するコミュニティを指している。アバターは、自分のキャラクターを擬似的に作ることができ、人種、性別、容姿などの差別を受けることなくコミュニケーションできる利点がある。

メタバースのコンセプト自体は新しいものではなく、2003年頃には「Second Life(セカンドライフ)」という仮想空間が人気化した過去がある。この中では、アバターによる仮想住民との交流や、カフェやフィットネスジムなどの商売を立ち上げたり、イベント開催でファンを集めることにより、リアルビジネスと結びつける手法が提唱され、大企業がセカンドライフ内の土地を競って購入するようなバブルが起きた。しかし当時のネット回線やPC環境は、3次元の仮想空間を表現するには力不足であったことから、ユーザー数は予想よりも伸びずに、ブームは数年で終焉を迎えた。

それから18年が経過して、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)のテクノロジーも進化したことで、メタバースのブームが再燃したきたのが今の状況といえる。 Facebookは、2019年にVRデバイスを開発するOculus(オキュラス)を買収したことをバックボーンとして、今後はメタバースを主力事業と捉えて、社名を「Meta(メタ)」に変更する発表を行った。

メタバースが目指すのが、リアルとバーチャルが融合した三次元の空間で、プライバシーに配慮された形で、多様な人達とのコミュニケーションができる世界だが、それが具体的にどんなイメージで、消費者の生活やビジネスに与える影響をいち早く把握することが重要になりそうだ。

【メタバースで変わるリモートワーク】

 オンラインゲームの世界では、既にメタバースの世界が多数開発されており、自分の分身となるアバターが、他のユーザーと交流したり、協力しながらミッションをクリアーしていく仮想空間が展開されている。それと同じことは、コロナ禍で定着したリモートワークの世界にも導入されてはじめている。

Facebookが2021年8月にβ版としてリリースした「Horizon Workrooms」は、自分の顔出しをせずに、アバターを利用して参加できるバーチャル会議室になっている。ミーティングの参加者は、Oculus(オキュラス)のVRヘッドセットを装着してバーチャル会議室の仮想空間に入室すると、アバターで出席しているメンバー達とコミュニケーションすることができる。

アバター同士の会話の他にも、ホワイトボードへの書き込みや、自分のPC画面を表示してメンバー間で共有することもできる。視覚的には、ヘッドセットの目線で、会議室全体の様子や、各メンバーの動作を捉えることができるため、リアルなオフィスと同じような臨場感で会議を進められる。また、VR環境を用意していないメンバーは、従来型のビデオ通話で同じ会議に参加することも可能だ。

アバターによるバーチャル会議の利点は、見た目による偏見を無くして、メンバー同士が対等な立場でコミュニケーションできることで、ビデオによる顔出しを強制しない配慮からも、男女差別や人権問題を重視する企業を中心にして導入されていく可能性がある。

日本でもオンライン会議中に、「自分の顔を映したくない」という人は潜在的に多く、ビデオ会議用の機材を販売するGNオーディオジャパンが行ったアンケート調査では、相手の顔が見えているほうが話しやすいと答えた人が7割以上ある一方で、「毎回自分の顔を映している」と回答した人は3割にとどまっている。

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メタバースに対するイメージは、なかなか掴みにくいもので、熱狂的なゲームユーザーやSNS信者でもなければ、あまり自分とは関係無いと思ってしまいがちだが、ビデオ会議に顔出しをせず、アバターで参加できるのであれば活用したいと支持するビジネスパーソンは、意外と多いのではないだろうか。そうしたネット社会でプライバシーを晒したくない潜在ユーザー層をバックボーンとして、メタバース市場は数年先のワークスタイルを変えていくのかもしれない。

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