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オススメはNPOか社会的企業〜#就職は大手かスタートアップか

今回は、日経COMEMOからのお題である「#就職は大手かスタートアップか」に答える形で書いてみたいと思う。なぜなら、この「大手かスタートアップか」という二択に疑問を感じたからだ。なぜ三つ目の選択肢にNPO(または社会的企業)が入ってないのか、という話をしたいと思う。

Kくんという奇跡

まずは、昨年度修了した、KIT虎ノ門大学院の私のゼミ生のKくんについてお話ししたいと思う。KITに入学するとき、彼はいわゆる中間支援団体(他のNPOを支援する立場)のNPOで働いていた。

初対面はMBAコースの入試の面接だったのだが、私と一緒に面接をしていたもう一人の教授が、彼にこう聞いた。
「ずっとNPOをやってきて、ここでビジネスを学んだら、そのあとはコンサルとかビジネスサイドで働く希望はあるの?」
これに対する彼の答えが秀逸だった。

「今後、NPOとビジネスの壁はなくなっていくと思っています。ですから、私の中にNPOとかビジネスという境界はありません」

MBAコースに入学すると、彼はNPOに務めていることを活用し、コレクティブインパクト(企業・行政・NPOが協力して社会課題解決に取り組むこと)に関する最先端の考え方や事例を集めた。そして、企業がコレクティブインパクトに取り組むためには、どんな条件が必要なのかを研究した。社会実験を行う際には、有力NPOをテーマオーナーに据えて、自治体や大学関係者も仲間に引き入れ、さらにはビジネススクールの教授陣の人脈も活用し、そのプロジェクトに関わってくれる可能性のある企業にコンタクトしていった。

そんな彼が、修了を控えたタイミングで、独立すべきかどうかという相談をしてきた。所属しているNPOのトップからは、独立を応援すると言ってもらっているという。具体的には、独立後もプロジェクトベースの契約で、仕事を続けていけるというのだ。私も他のゼミ生も彼の独立を応援すると言った。

そして修了と同時に、彼は独立をした。そのとき彼は、多くのNPOとのネットワークを持ち、自治体のネットワークや企業のネットワークも持っていた。独立直後から彼の活躍はどんどん広がっていった。東京に加え、地元にも拠点を構え、その地域のクロスセクター協働のアドバイザーを歴任するようになった。

もちろん彼の努力や才能のおかげだと思うが、何より、彼が20代でこのような活躍ができたのは、彼自身がNPOで働いていたということが大きいと思う。NPOは、知識は豊富だが組織力がないため、最初から知識武装して一人前として働くことを期待される。だからこそ、彼は急速に成長し、ネットワークを広げていけたのだ。

そして振り返って考えると、彼自身のキャリアそのものが、彼が面接で宣言した「NPOと企業の壁のない仕事」を体現していたというわけだ。

コロナ禍で信頼できる人間の価値が増す

次の記事では、コロナ禍でリモート会議が広がったことにより、「相手がどんな人物なのか、情報を得にくい。協調関係を築くのが難しくなっている」という専門家の声が紹介されている。そして「新型コロナが人類に突き付けたのは、私たちが農耕を始めてから脈々と築いてきた協調関係の危機だ。この変化をどう乗り切るかが試される」という。

「協調関係を築くための信頼」が重視される時代に突入したことも、Kくんの活躍を後押ししていると考えられそうだ。社会的に影響力の大きい人たちと、どれだけ幅広くネットワークしているかが、独立後に頼まれる仕事の質と量にダイレクトに響いてくるだろう。とくにアドバイザーなどの目に見えないアウトプットで仕事をする人たちについては、なおさら「信頼できる人からの紹介」が重要になる。

大企業でもコンサル会社や広告代理店で長く働けば、こういった能力やネットワークを構築することができるかもしれないが、仕事を任せてもらうまでにもっと時間がかかってしまうだろう。

逆にスタートアップ企業は、ネットワークを広げるよりも、特定のステークホルダーに絞って資源を集中する傾向があり、幅広い信頼のネットワークをつくることには不向きだ。

そして何より、社会課題解決を志していること自体が、その人の信頼を増す、つまりブランドイメージを高めることにつながる。だから若いうちこそ、NPOもしくは社会的企業(株式会社でも具体的な社会課題解決を明確に打ち出している会社)に入って、多様なネットワークを広げ、自身の人としての信頼を高め、その後のキャリアを開いていってほしい

こういう人が増えることで、社会はすこしずつ変わっていくのだから。

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