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アニメはイノベーションの玉手箱

まつもとあつし

実務経験を経てかれこれ20年以上アニメ産業と向き合っています。振り返るとこの産業はめまぐるしいメディア環境の変化に適応してきました。2010年前後のいわゆる「DVDバブル崩壊」からNetFlix・Amazonプライムをはじめとした外資大手による配信権の獲得競争=作品調達価格の高騰までわずか10年余り。その間、制作工程のデジタル化も急ピッチで進んでいます。アニメ産業はイノベーションが起こりにくい、産業構造の転換が上手く進んでいないとも指摘される日本において、もちろん労働環境の厳しさなど課題込みでありますが、実はお手本のような存在ではないかとも感じるのです。

制作におけるゲームエンジン活用の可能性

東京ゲームショウが3年ぶりに一般開催され注目を集めています。特に個人・小規模なチームで制作される多種多様なインディゲームは、ゲーム機の性能向上に伴いハリウッド映画並の制作体制が求められるようになったビッグタイトルと対をなすかのように、プレイヤーの支持を集めています。

インディーゲーム開発の急速な拡がりを生んだのが「Unity(ユニティ)」を始めとするゲームエンジンです。アセットと呼ばれる「部品」を画面上で組み合わせて行くことで専門的な知識がなくても粘土細工のようにゲームが作れるゲームエンジンをアニメ作りにも活用出来ないか、様々な試行錯誤が行われており、劇場作品の一部を再現するという段階まで進んできています。

実は私が代表を務めるNPOでも、ユニティジャパンの協力を得て「アニメ×ゲームジャム」というハッカソンを開催しました。はじめてタッグを組むチームがゲームエンジンを用いてわずか1週間でアニメ映像を作るというイベントからはユニークな作品が生まれています。

既にCGをアニメの中で用いることは当たり前となっていますが、ゲームエンジンを用いることで、キャラクターやカメラ・光源などの動きをリアルタイムで確認したり、物理エンジンを用いて様々な動きを即座に反映させるといったことが可能になります。アニメ制作におけるイノベーションの最新事例の1つが生まれていると感じます。

資金調達手段としてのNFTの現実と可能性

アニメはインターネットによる変化にも適応してきました。当初は違法配信に悩まされながらも、現在ではTV放送を起点にTwitter・YouTubeなどのSNS系サービスで認知向上を図り、定額配信サービスでの製作費の回収を図るというメディアミックスのお手本のような展開が当たり前に行われています。

クラウドファンディングを用いた製作資金調達もさまざまな事例が生まれています。わずか11時間で目標額の1080万円を集め、その後も支持を拡げ記録的なロングランとなった『この世界の片隅に』は、熱心なファンの「熱量」がSNSで拡散する様を可視化されたものでした。

片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援|マクアケ https://www.makuake.com/project/konosekai/ より

しかしテレビアニメや劇場アニメの制作には数億円の費用が掛かります。熱心なファンの存在を前提とするクラウドファンディングが、あらゆるケースで有効とは限りませんし、「配信バブル」とも呼ばれる現在の状況がいつまでも続くわけではないでしょう。制作技術と同様、資金調達にもイノベーションが求められています。

そこで注目したい技術の1つがNFTです。アイコンのようなデジタル画像の高額取引が引き合いに出されることが多いのですが、そういった過熱した投機的な動きが落ち着いたのちには(配信が登場当初は海賊版によって産業構造を揺るがした後に資金回収のための有効な技術に進化したように)当たり前の商流や資金調達手段の1つになるのではないかと期待しています。アニメは完成品の映像だけでなく、絵コンテから原画まで大量に生み出される中間成果物にもファンは高い価値を見いだします。NFTとの親和性も高いのではないでしょうか?

産業界はWeb3のような新しい技術動向とどう向き合えば良いのか? については、高木先生の以下の記事に整理されています。「イノベーションのジレンマ」で示されたように革新的な技術には機会と危機の両方の性質が伴っており、方法論を確立した組織ほど適応が難しいのが常です。

Web3を構成する要素の1つDAO(分散型自律組織)と、スタジオ内外のリソースを組み合わせながらプロジェクト毎に集合と離散を繰り返すアニメ制作・製作体制との相性も気になるところです。アニメはイノベーションの玉手箱であり、これからもさまざまな事例を生み出すことになるでしょう。

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NFTとアニメについては来週末、以下のようなオンラインセミナーを3夜連続で開催します(無料)。ご関心あればチェックしてみてください。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。



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まつもとあつし
日経COMEMO KOL。ジャーナリスト・プロデューサー・研究者。新潟の小さな大学でメディア・コンテンツを教えています。 → http://atsushi-matsumoto.jp ※ヘッダー画像はうめ先生。同じ記事に繰り返し「スキ」を送信される方はブロックする場合があります。