ヘッジファンドが独自データで探るコロナショック復活のサイン
世界ではコロナ感染者数が140万人を超えて、死亡者数は8万人超と深刻さを増している。各国の経済に与える影響も大きく、米国では失業者数が3月後半からの2週間で1000万人を越してきている。世の中は総悲観といった状況だが、意外にも株価は3月後半から上昇トレンドを描き始めている。主な買い手となっているのは、ヘッジファンドのようである。
ヘッジファンドや高速売買系の投資運用会社では、およそ7割がAIによる投資分析の手法を導入して、自動売買のアルゴリズムが組まれている。AIが分析データとして活用しているのは、経済指標、企業業績、新聞記事などの他、SNSの投稿内容、各企業の動向をリサーチした情報なども含まれている。これらの情報は、金融データプロバイダーとよばれる業者が複数のルートから収集して、リアルタイムまたは数分に1回程度の間隔で配信されている。
投資会社にとっては、どんなデータを採用してAIに機械学習させるのかによって、投資成果が異なってくる。逆に言えば、皆が同じデータセットを利用して自動売買を行うと、相場が一方向に偏りやすく、隠れた有望銘柄を探すことが難しくなる。現在の金融市場は、AIの性能が進化している一方で、独自性の高いデータは不足している。
そこで注目されているのが、従来の金融分析では使われなかった新種データの発掘である。これはオルタナティブデータ(代替データ)と呼ばれて、特定の分野や業界にフォーカスした、以下のような情報が投資分析で活用されるようになっている。
近年のヘッジファンド業界はユニークなデータを全国、世界規模で収集して、AIに機械学習させることで、他の投資家が気付いていない株価変動の兆候を察知しようとしているのだ。
《投資分析で活用される代替データ例》
○各Webサイトのアクセス数
○SNSの投稿内容
○衛星画像
○クレジットカードの利用履歴
○駐車場に止まっている車の数
○スーパーのPOS情報
○飛行機や貨物船の位置情報
○賃貸物件の家賃推移
ヘッジファンドや投資銀行の関心事は、新型コロナウイルスの拡大が各国の経済に与える影響と、収束に向かって経済活動が再生していくタイミングを予測することである。そのためのAI分析に有効なデータセットへの需要は急速に高まっている。
具体的には、感染の拡大に伴い、消費者の行動がどのように変化しているのかを携帯電話のGPSから把握できるデータや、中国を起点としたサプライチェーンの稼働状況を確認できるデータ、企業の雇用減少を監視できるデータなどへのニーズがある。
シンガポールが本社の「Kumi Analytics」は、衛星画像の分析を専門とした投資家向けのデータ配信会社で、通常は、石油はジェールガス生産設備の稼働状況を衛星からモニタリングして、ヘッジファンドが原油相場の変動を予測することに役立てている。この技術は、コロナショックで停滞しているサプライチェーン物流の状況を把握することにも応用可能で、感染が拡大している地域の工場、貨物港、鉄道、高速道路などの様子を、人工衛星から24時間体制で監視することができる。
こうしたテクノロジーの進化により、現在のヘッジファンドは世界から「株価上昇」に繋がる科学的根拠(データ)を独自に収集して、個人投資家よりも数歩先にトレードを仕掛けるようになっている。もちろん今回のコロナ相場は、一本調子で上昇トレンドを描いていくものではなく、企業の決算動向によっても乱高下を繰り返すことになるだろうが、株価の値動きには「何らかの根拠」が隠れていることは意識しておくべきだろう。
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