
副業制度は従業員のキャリア開発の一部として考えよう
人材育成に活用したい副業制度
これまで禁止されてきたのが嘘のように、副業解禁に向けて積極的な取組みをみせている企業が増えている。企業が副業に対してどう向き合うのか、労務上の諸問題やリスクについて議論が必要な余地はあるものの、副業解禁によって働き方の自由度が高まりをみせている。
副業を解禁する理由は様々あるが、企業側の思惑として主要なものは人材育成だ。副業で詰んだ経験や学んだ専門性を本業に活かしたり、社外の経験を積むことで視野を広げることが期待されている。人事育成を主目的とした副業では、副業先を限定することが多い。例えば、KDDIでは社内副業を推進している。オンラインでプロジェクトへ参加する人材を募集し、応募者は他部署のプロジェクトに携わることができる。
職務経験だけで身に着けることができない専門性をどう身に着けるか?
一昔前までは、仕事で必要な専門性は職場で詰むことができる経験で十分身に着けることができると考えられてきた。しかし、このような考えは2つの限界から時代に合わなくなっている。
1つ目の限界は、目まぐるしいビジネス環境の変化だ。グローバル化やDX、GX、ダイバーシティ推進など、ビジネスを取り巻く環境は凄いスピードで変化している。それに伴って、従業員に新たな専門性を身に着けることが求められている。グローバル化では海外展開するためのグローバルビジネスの専門性や言語能力、DXではデータや多種多様なアプリケーションを使いこなすデジタルスキルを身に着けることが変化するビジネス環境に対応するために必要とされる。
しかし、このような新しい専門性は日常の仕事をしているだけでは身に着けることが難しい。加えて、世に出て間もない専門性は身に着けたとしても実際に使う機会に恵まれるかというと不確定要素も強い。そのような専門性に、個人が身銭を切って自己啓発するというのもハードルが高い。
そこで、副業と言う形で半ば業務の一環として新しいことに挑戦してもらうことで専門性の幅を広げることを後押ししたい。加えて、ビジネス環境の変化に対応するためには、そもそも変化に対する感受性を高める必要がある。この感受性を高めるためにも、日常業務の枠を超えて、職場外との交流を進めることは効果的だ。
2つ目の限界は、キャリア自律を促すことだ。90年代のバブル崩壊以降、キャリア自律の重要性は30年以上繰り返し強調されてきた。その成果が出たのか、キャリア開発を目的として転職をする個人も珍しいものではなくなっている。しかし、企業としては、できることならば社外に出るのではなく、社内でキャリア開発をしてもらうことが望ましい。だが、なかなか思うようにいかない現実がある。
加えて、終身雇用の性格が強い企業では授業員が自分のキャリアを自律的に考えることが難しいところもある。その背景にあるのが、日本企業の特徴である会社都合の異動だ。
ジョブローテーションと称して定期的に職種や部署の異動することが、「次はどこにいくのかわからない」という思いを持たせ、キャリアは会社が決めるので自分で意思を持つことの必要性が薄くなる。難しいのは、会社としては専門性を尊重するために、これまでの経験とは全く関係のない職種への異動を控えていたとしても従業員には伝わっていないケースが多いことだ。異動のようなセンシティブな情報は秘匿されることが多く、その不透明さが従業員にとって自律的に考える切っ掛けを損なわせる。
副業制度を上手く使うことで、自分がどのような専門性を身に着けるのか選択の自由度を高めることができる。特に、KDDIの事例のように社内副業ができると、入社時にやりたかったが中々機会に恵まれない業務に自分の意思をもって参加することも可能だ。
キャリア開発に副業を上手く使おう
キャリア開発の議論が出始めたばかりの当初、多くの企業は乗り気ではなかった。というのも、従業員がキャリアを自律的に考えるようになると離職者が増えるのではないかと考えたためだ。しかし、キャリアの重要性が認知されるとともに「会社都合の異動の合理性」と「自律的なキャリア」のジレンマに悩まされるようになった。
副業は、抜本的な解決策にはならないかもしれないが、このジレンマを解消するための一助とはなるだろう。社内外との副業のネットワークを創ることで、従業員のキャリア自律を促しながら、ビジネス環境の変化に対応した人材育成ができると、企業にとっても従業員にとっても好ましい制度となる。