イスラム金融に学ぶ営利ビジネスの健全化と懺悔の方法
どんな起業家や経営者でも、自分が行なっている事業は「世のために役立っている」と思いたい。事業で利益を得ることは正当な経済活動だが、その儲け方について、世間からの非難や批判を浴びるビジネスでは長続きしないものだ。銀行やカード会社が行っている個人向けローン事業にしても、金利を高く設定すれば一時的に儲けは大きくなるが、債務者の負担は重くなって結局は返済不能となり、元金を回収できなくなってしまう。
そうした利益追求の考えから一定の距離を置き、世界の金融業界で影響力を高めているのが、石油産出国が連なるイスラム諸国の金融ビジネスである。オイルマネーを牛耳っているイスラム諸国は、常に魅力的な投資先を物色しているものの、投機的なビジネスに直接手を下すことは無いため、過去の世界的な金融危機でも、被害は比較的小さいと言われている。
それはイスラム教の教典、コーランの中で利子を取るビジネスは悪徳なものとして禁止しているためである。そのためイスラムの銀行では“無利子”による融資が基本になっている。
ただし、無利子の融資では実際のビジネスは立ち行かないため、教典に反しない抜け道が存在している。それは「利子で稼ぐこと」は認めないが、「利益を得ることならOK」というもので、金利収入ではなく商品の販売益や手数料収入の形で稼ぐことがイスラム商法の特徴だ。
たとえば、Aさんが自動車の購入資金として 100万円を銀行から借りる場合なら、まず銀行が販売店から 100万円で自動車を購入した後に、銀行がAさんに対してその自動車を「10万円×11回払い」で販売するという契約の流れにすれば、銀行は10万円を「利子」ではなくて「利益」として得ることができる。つまりローンを回避した月賦販売の取引になるが、このような方法であれば悪徳なビジネスではないというのがイスラムの解釈だ。
この他にも、企業が事業資金を銀行から借りた後の返済は「元本+利子」ではなく「元本+配当」という名目にする。借りた資金を事業に投下することで得られる見込みの利潤の一部を、銀行が“配当”として受け取る契約なら、利子による収入を得たことにはならない。
保険事業や年金基金についても、契約者から徴収した掛け金を、投機的なヘッジファンドなどで運用することは禁止されている。こうした宗教的なルールが防波堤となって、ビジネスや投資に対する秩序が一定のところで保たれている。
利子や投機的な行為の禁止以外でも、豚肉、酒類、タバコ、武器などを取引することも禁止されている。イスラム教で豚肉を禁止しているのは、食物資源が乏しい砂漠の中では食欲旺盛な豚が自然のバランスを崩してしまうためという説もある。
また、最低限の生活をする以上の財産を所有している者は、その一部(2.5~10%)を寄付することが課せられている。これは「ザカート」と言われるもので“喜捨”の意味がある。ザカートは法律で定められた税金とは異なるが、道徳的なルールとして維持されているもので、寄付された資金は貧困者を救済するために使われる一方で、資産家(金持ち)の立場からみた寄付は、世間からの反感や恨みを和らげる効果がある。
《イスラムで禁止される営利取引》
○利子を徴収するビジネスは認められない(利潤を得ることは可)
○豚肉、酒類、タバコ、武器などの取引をしてはいけない
○投機的な金融投資は不可(高倍率の信用取引、株の空売り等)
○儲けた財産の一部は寄付しなくてはいけない(ザカート)
○男性は妻子を扶養する義務がある(扶養できなければ離婚要因)
世界的にみると、ビジネスと宗教の関係はかなり密接で、キリスト教でも旧約聖書の中で利子を禁止している。では、現在の金融業はどこから発生しているのかというと、ユダヤ人が起こしたという説が有力だ。
ユダヤ教徒は「キリストを十字架にかけて殺した罪人」という理由により迫害を受け、土地を所有することや、ほとんどの職に就くことも禁止されていた。その中で唯一残されていたのが、世間から忌み嫌われていた「利子を扱う仕事」で、彼らは少ない資金を利子で効率的に増やす方法を考案し、そこから両替商や銀行業で成功する者が現れた、という説である。
興味深いのは、いずれの宗教でもビジネスの功罪について説かれていて、同じ教徒(仲間)に対する利子の徴収が禁止されていることだろう。じつはユダヤ教の中でも、利子の徴収は原則として禁止されている、しかし例外として「異教徒から利子を徴収すること」については許していたのだ。
聖書に「借りる者は貸す人の奴隷となる」という言葉にあるように、高い利子付きの資金に手を出せば、自転車操業から抜け出せなくなることは、何千年も前から伝えられていた。利子はビジネスの取引相手を窮地に追い込むことを意味している。
しかしそんなことを言えば、金融業が主体になっている現在の経済は成り立たない。そんなビジネスを浄化するためにも「奉仕活動」や「寄付」という行為が重要になってくる。ある意味、企業が行う寄付や社会貢献活動は、現代ビジネスにおける懺悔の形ともいえる。
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