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「脱炭素元年」の年の瀬に。ーグリーンイノベーション戦略をどう読むかー

あと数分で2020年が終わります。
今年はコロナですべてが停滞した一年と言われますが、その中で前を向いた動きもありました。世界が脱炭素化に向けて動き始めたことです。

これまでエネルギーの消費をすることで経済成長を続けてきた人類が、初めて、大量消費に支えられた社会の発展・成長のあり方の転換という壮大な変革を実現するには、イノベーションが欠かせません。そういった意味で、重要な戦略が今月末発表されました。
25日に成長戦略会議で公表された「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」です。この計画の骨格となった「グリーンイノベーション戦略」について議論する「グリーンイノベーション戦略推進会議」の委員を拝命していましたので、この戦略について私が思うところをお伝えすることで、この年を締めくくりたいと思います。

この計画の評価できるポイントは

菅総理が2050年の実質ゼロカーボン社会を目指すと表明されたのが10月26日。そこからわずか2カ月で取りまとめられたことは率直に評価したいと思います。
霞が関もてんやわんやでしたが、このグリーンイノベーション戦略推進会議、水素・燃料電池戦略協議会、資源・燃料分科会など、毎日のようにいろいろな委員会で議論していたような気がします。
関係者の皆さんには落ち着いた年末を迎えておられるでしょうか。大変お疲れ様でした。
(誰か私にも「お疲れさまでした」って言って・・・)
網羅的にまとめられているし、市場に対しても明確なメッセージを伝えるものだったと思います。
ただ、一方で課題も多くあると思っています。課題を3点にまとめて指摘したいと思います。

① 計画がinvention頼み

計画全体が、innovationというよりinvention(発明)に近い技術に拠り過ぎています。innovationは決して「発明」ではありません。いまフィージブルな技術のコストをあと2割、3割低下させること、あるいは利便性を向上させること。これらは日本語では「改善」と表現されるかもしれませんが、ビジネスモデルを変えうる立派なinnovationです。フィージブルな技術というのは、既にそれがフィージブルであるがゆえに地味な存在です。

これは政府が掲げるネットゼロの期限が「2050年」ということが大きく影響しています。わずか30年後に社会の隅々まで実装までされなければ、ネットゼロ社会は実現しません。そう考えれば既にコスト低減が大きく進んでいるものの改善の余地がまだまだ大きい太陽光発電と原子力発電に関しての言及が非常に薄いことが懸念されます。

太陽光発電には、これまで多額の研究開発費や国民の莫大な賦課金を費やしてきました。そのおかげもあってコストダウンも進んできたのです。ただ、太陽が出るときしか発電しないという致命的な欠点はそのままですので、蓄電技術も含めてよりコスト低減が進むことが必要です。また、FIT買取期間終了後に再投資させる仕組みもありませんし、家庭での太陽光発電導入も下火になっています。
社会転換を図るうえで、太陽光発電は究極の分散電源であり、他の産業や技術との掛け算を考えうる技術です。太陽光発電については次世代太陽光への言及しかなく、既存太陽光に政府の姿勢が見えないのは、市場に残念なメッセージを送ることになりかねません。太陽光は次世代だけではないことを明記していただきたかったと思います。

原子力も同様です。
この気候変動対策の盛り上がりを考えれば、2030年を待たずして温暖化目標の引き上げが議論されるでしょう。米国や中国、ロシアなど各国が激しい開発競争を繰り広げている次世代原子力開発に「ご一緒する」ということで、間に合うはずがありませんし、技術を自分たちのものとして使いこなす姿勢としてどこか違うと思います。
既に成熟した技術と言われる軽水炉をさらに安全性・経済性を高めた上で活用することが2050年の実質ゼロカーボン社会を責任を持って語るうえでは必須といえるでしょう。資金調達のあり方、効果的・合理的な規制のあり方、技術の担い手確保など検討すべき課題は多々あります。ですが、次世代型軽水炉の検討は学術界などで細々行われているに過ぎません。政府が原子力に関して腰が引けた状態を続けるのであれば、この技術がわが国で継承されることはなく、従って2050年実質ゼロカーボン社会も遠のくこととなりかねないことを危惧します。

② 視点が供給側に拠っていること 

大幅な低炭素化に向けては、電化と電源の低炭素化の同時進行が必要ですが、需要側の電化技術に関する言及が手薄です。電化の難しい、100度以上の産業の熱利用に応える技術開発や、水素についても、化石燃料代替になる熱利用で需要家技術の開発を進める必要があります。
需要側の技術開発は、まさに社会変革を国民が実感することにもつながります。こちら側にもう少し目を向けてほしいと思います。

③ コストへの意識を

イノベーション戦略推進会議において、各省が分担して資料を説明してくださったのですが、その中で農林水産省さんの資料に「漁業者や地域に所得向上等のメリットをもたらすことが技術の普及・実装に不可欠」という記載がありました。これは農林水産業だけでなく、他の産業、ほかの国民にも同様です。
エネルギーは何かを行う「手段」でしかありません。消費者が選択する際には、コスト次第になります。そのことを計画全体に通底させるべきです。
その文脈で気になったのが、洋上風力について「導入目標にコミット」と表現されていることです。洋上風力のコスト目標が、掲げた通りになるのであれば良いのですが、価格が想定通りに下がらなかった場合は、より安い技術が優先されるべきです。なぜ洋上風力はこのように強い表現になったのか、政治的な動きがあったのかはわかりませんが、エネルギー政策を縛る書きぶりには違和感を覚えました。
2050年ネットゼロを実現するには、徹底してコストの安い技術から活用される必要があります。政府が技術に予断をもった制度設計をすると非常に非効率です。洋上風力や水素を含めて、導入量はコスト次第で考えないと日本国民・産業界が下手に高い技術をその電気代や税金で支えるということになりかねません。カーボンニュートラルの実現は技術ニュートラルな施策で進めるべきであることを、計画の柱にしていただきたかったと思います。

脱炭素元年がもうそろそろ終わり、脱炭素二年目の始まりです。
その前途は決して容易なものではありませんが、冷静かつ現実的に議論を続けなければと思います。






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