一組限定サービスをウリにした隠れ家商売と自宅店舗の採算
コロナ禍からアフターコロナの社会では、接客を伴う店舗の大半がソーシャルティスタンス(社会的距離)の確保が求められるようになり、隣合う座席の間隔を離すような、店舗の改装が必要になってくる。政府が飲食業界に示した指針によると、人同士の間隔は最低1メートル、できれば2メートル間隔。テーブルやカウンター席にアクリル板やビニールカーテンを設置することを推奨している。
しかし、消費者にとっても、混雑する店はできるだけ避けたいため、これらの対策を施したとしても、客足が戻るとは限らない。席数が多い店舗では、家賃や人件費の負担も重いため、休業補償や持続化給付金などの公的支援が途絶える2020年後半からは、倒産や廃業する店が、全国的に増えていくことになるだろう。
その一方で見直されているのが、料理人が自宅を店舗にしているような、一組限定のレストランである。以前から、腕利きの料理人が隠れ家的に経営する店は、グルメ通の間で密かな人気があったが、コロナ後はそうした個人店の付加価値が高まることになりそうだ。
【自宅レストランの開業モデル】
有名ホテルの料理長を退職したシェフが自宅に顧客を招く形で一日一組限定の隠れ家的なレストランを開業したところ、数年先まですぐに予約で一杯になったという。有名シェフといえども、脱サラをして自分の店を持つことにはリスクが伴うことに変わりはない。そこで自宅に顧客を招く形で隠れ家的なレストランを開業した。「本格的な店を構えるだけの資金的な余裕がないから」というのが本当の理由ではあるが、顧客の側ではそうは受け取らなかった。凄腕シェフの料理を一日一組限定で、しかもシェフの自宅でご馳走してくれるのは最高の贅沢と、普通のレストランよりも高い評価をしたのだ。
自宅レストランの採算性で特徴的なのは、一般のレストランよりも赤字になるリスクが少ないという点だ。自宅の一部を店舗とすれば、新たな家賃はかからないし、1日の来客数は限られるため、従業員を雇う必要もない。来客は、完全予約制で受け付けるため、仕込んだ食材が無駄になることもない。
家賃や人件費などの固定費を抑えられる分は、食材の原価率を高めて、豪華なメニューをリーズナブルに提供することもできる。ホテルでは1人2万円で出しているのと同等のコースディナーも、自宅店舗であれば半値以下で提供することも可能だ。
飲食店の集客で問題となるのは、店舗の立地条件だが、SNSで良い評判が立てば、遠方からでも訪れてくれる客は多い。完全予約制の店であれば、派手な看板を掲げる必要は無いし、逆に目立たないほうが“隠れ家”としての価値が高まる。数台分の駐車場さえ確保してあれば、あとは客のほうがカーナビやスマホで店を探し当ててくれる。
一般住宅でレストランを開業する上での注意点は、保健所の営業許可を取得する上で、2槽シンクや手洗器を備えた、業務用の調理場への改装が必要になることだが、工事費用としては数十万円の予算で行うことも可能だ。
このようなレストランの小規模開業は、料理人の起業手法として以前からあったものだが、アフターコロナの新業態として増えていく可能性もある。完全予約制で、昼と夜それぞれ一組ずつの限定、メニューはシェフお任せのコース料理のみ、予約の入らない日が定休日。という条件でも、コンスタントに予約客を獲得できれば、従来の店舗経営よりも採算性は高いものになる。
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