大都市から地方へと回帰しはじめるエリート人材の異変
現状の生活に対して不満を抱えている場合には「住む場所を変えること」が、効果的な改善策の一つになるが、収入の高い仕事を求めるのであれば、地方よりも都会のほうがチャンスは大きく、人口分布でみると、それが東京圏への一極集中に繋がっている。
住民基本台帳人口移動報告によると、転出者よりも転入者のほうが多い“転入超過”となっているのは、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県などの東京圏を中心とした7都県のみで、残りの都道府県はすべて“転出超過”となっている。ただし、この特徴だけで、今後の変化を読み取ることはできない。
東京圏への人口流入が最も大きかったのは、戦後の高度成長期にあたる昭和30~40年代で、ピーク時には年間で40万人を超す転入超過があった。しかし、現在の転入超過は年間で7.4万人に落ち着いている。昭和40年代の東京は、文化、教育、仕事、すべての面で地方に勝っており、東京の大学に進学をして、東京の大企業に就職することが、サラリーマンとして出世する道筋になっていた。
東京優位の特性は今でも変わらないが、仕事以外の面では、地方のほうが暮らしやすく、東京を離れる人が次第に増えている実態もある。東京都の年齢別にみた、平成29年の転入転出データでは、転入超過となっているのは18~34歳の若年層であり、35歳を境にして、転出者の数が上回るようになる。そして、50歳以降の世代では、東京から離れる傾向が顕著に出ている。
これからの人口移動は、仕事を求めて大都市へ向かう人達がいる一方で、住みやすさを求めてして、再び地方へと回帰する人達も増えてくる。これは世界の先進国に共通した傾向で、背景には、仕事の形態や家族関係が多様化していることある。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事でも、米国では新たな仕事を得る目的で転居する人の減少傾向が鮮明になっていることが言及されている。
都会では年収の高い仕事を見つけやすいが、シリコンバレーやニューヨークの住宅コストは高騰しているため、収入アップのために転居をすることの魅力は薄れてきている。また、母親と父親が協力で子育てをする風潮が高まっているため、子どもと離れた都会に単身赴任することを望まないケースが増えている。これは、離婚した夫婦の子育てにも共通した傾向である。
こうした価値観は、日本人の中にも芽生えてきており、東京で働き続けるだけでは、本当の幸福感を得ることは難しく、地方で暮らすことに憧れを抱く人達は、30代以降の世代に増えている。日本政府としても、東京圏の人口集中を是正する政策を掲げていることから、2019年は「地方移住」がビジネストレンドとしても浮上してくることになりそうだ。
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この記事はJNEWS会員向けに発行したレポート(2019.1.9号)の冒頭部を抜粋したものです。レポート全文を読みたい方は、JNEWS有料会員(月額500円)の登録を行うことで、過去20年間のバックナンバーを閲覧できるようになります。詳細はJNEWS公式サイトをご覧ください。
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