見出し画像

「複数肩書き」、まずは想像してみよう

●はじめに

#肩書を複数持つ必要ありますか のお題に答えみよう。

このお題については各方面、各立場から意見が挙がるだろうから、マクロな視点はすっ飛ばして、私見どっぷりの見解を示しておきたいと思います。

結論から言えば、「複数肩書きは新しくない」「でも求められている」「メリデメあるけどなんとかなる」「複数肩書きを取り巻く環境はまだまだ変わる」「とりあえずやってみて」ですかねぇ。

●私の働き方〜多様化する「複数肩書きスタイル」

まず自分の働き方は、、問いの一つにも挙がっていた「フリーランスでもなく、1つの会社の正社員としてのみ働くのでもなく、社外の仕事を複数持つ、つまり複数の肩書、名刺をもつような働き方」と言えます。

厳密には、「フリーランス」「大企業の正社員」「ベンチャー企業の経営者」「ベンチャー企業の社員」などを経て今のスタイルに行き着いたわけですが。

現在は、「1人会社の経営者」「イベント企画会社の経営者」「社団法人の理事(x2)」「業界団体の委員」「エンジェル投資」「まちづくりプロジェクトのエバンジェリスト」「広報勉強会コミュニティの主宰者」「(元)バー経営者」などなどを並行して手がけております。

「肩書き」という観点だと、一体今いくつの「肩書き」を拝命しているのか、自分でも把握しておりません。もちろん、それぞれの活動においては、時期によって濃淡の変動はあれど、それなりにアテンションを高め、その場その場で求められている自分の役目を果たすべく向かい合っているつもりです。自分のリソースをうまく按分し、期待値調整もしながら、必要に応じて外部リソースなどをうまく取り込みながらも、求められるもしくは自分が得たい「成果」に導くべく向かい合っている感じですね。

この働き方の様子は、ちょうど一年前、年始の特集で紹介いただいておりました。

雇用というくくりを完全に飛び越えた自由な働き方をする人もいる。名刺管理のSansanなど10社近い企業と業務委託契約を結びながら働く日比谷尚武さん(43)だ。人や情報を必要とする人につなぐ「コネクタ」という肩書などで、広報支援や講演活動を手掛けつつ、報酬が発生しない社団法人での活動などにも取り組む。「1日に7~8件の案件があるのは普通」と話し、夜にはロックバーまで共同運営する

こちらの記事では、働き方が多様化する中で特に当時目新しかった「ギグワーカーが増加」という事象を紹介する文脈の延長として紹介いただいておりました。ギグワーカーなる言葉、どこまで普及しましたかね、、個人的にはあまり広まったとは思ませんけど、コロナ禍の影響もあって、都内では飲食配送サービスのバイクや自転車が疾走する姿が当たり前化しておりますな。(個人的には、ギグワークと聞くと「家族を想う時」が表す世界を連想し、ちょっとせつない気持ちになるのですが。)

ちょっと脱線しましたが、多様化な働き方を表すワードはこの数年で多々登場しておりまして、パラレルワーク、ビュッフェキャリア、最近ではマルチワークなる定義もあるようですが、、丁寧に咀嚼してみると、それらの意味する働き方は微妙に異なるスタイルでして、「複数の肩書きを持つ働き方」も多様化、細分化しているよなぁ、と思います。

●「複数の肩書」は「新しい働き方」なんだっけ?

ただ、自分の働き方をなんて呼ぼうんだろうと考えてみると、しっくりくる定義が存在しない。振り返ってみても、「複数の肩書きを持つ働き方」について、どんなカテゴライズの働き方に属すかとか、どう呼ばれたいか、などと考えたことはなかったんですよね。

学生時代から複数プロジェクトを掛け持ちしたり、都内と藤沢を往復しながらフリーランスとして活動したり、先輩のベンチャーを手伝ったりなど、、20年以上前から「複数の肩書き」で並行的に複数のプロジェクトに関わる動き方をしていたのですが、学生時代に付き合っていた周りの方々はみんなそんなスタイルだったんじゃないかなぁ。これは特別なスタイルではないと思っていますし、もちろん多くの人がそんな働き方をしていたとは思っていませんが、でも、別に目新しくもないよね、と。

●「複数の肩書」の意味するところ

では、なんで今回このようなお題が掲示されたんだろう。

これは、「複数の肩書き」が新しいからではなく、これから必要とされる働き方だからなんじゃないですかね。

働き手のキャリアの自律性が求められるなか、注目を集めるのが学び直しを意味する「リスキリング」だ。

似た概念に「リカレント教育」があるが、リカレントが通常、キャリアを中断して大学などに入り直すことを意味するのに対して、リスキリングは仕事を続けながら自身のスキルを継続的にアップデートしていくことを指す。

複合的な背景があろうと思いますが、人材政策における生産人口不足解消の打ち手の一つとしての人材流動化促進(とそのためのリカレント教育もしくはリスキリングの促進)、もしくは産業政策におけるイノベーション誘発の打ち手としての越境促進、もしくは大企業等で(敢えて書きますが)だぶついた人材の流動化促進による経営のスリム化など、、これからの社会構造の変化を見据えると、「複数の肩書きを持つ働き方「も」普通だよね!」、と受け止められる社会でないと、社会も企業も個人にとっても成り立たなくなってくるってことなんじゃないかと。

ちなみに、名刺管理アプリEightでも、数ヶ月前にようやく兼業複業に対応した仕様になったんですが、着々と複業利用ユーザが増えているようです。

●「複数肩書き」のメリデメ

では個人目線での「複数肩書き」のメリットデメリットにはどんな点があるか。こちらは私見とし、自分の経験に基づいてご紹介してみたい。

「複数肩書きは胡散臭い?」

よく言われるデメリットとして「何をやってる人か分かりにくい」ケースがありますね。名刺交換の際に複数名刺を渡したり、自己紹介をした時のリアクションは様々。ですが、交流を目的としている状況では話題が広がって助かることが多い。相手からすると「ツッコミどころ」が増えるのかもしれない。

画像1

もちろん「胡散臭がられる」傾向はあるので、ある程度「相手にとって信憑性が高そう」な肩書きを冒頭に提示するなどの工夫をしています。例えば広報関係者にはPR協会や広報勉強会の話題から、スタートアップ関係者にはSansanでの経歴やVCとの仕事などをまず説明、といった感じで。

つまり、複数肩書きであっても、「使い方」次第で特に困ることもないのでは、という印象だ。

「アイデンティティが揺らぐ時」

一方で、アイデンティティが揺らぐ時も。複数のプロジェクトを並行して手がけていると、一つのプロジェクトが佳境に差し掛かったり、炎上しかけたりして集中せねばならないなど、、各プロジェクトにかける時間は均等にはなりません。自分は昔から「並行進行」は苦ではないし、頭を切り替えることができる方ではありますが、でも時折「自分は何をやってるんだっけ」と混乱する時があります。

そんな状態の時に、「最近何やってるんですか?」とか「で、メインでやっている活動は何なんですか?」などと聞かれると、真顔で固まって、「いやぁ、色々です。。」とそこから会話が広がりそうにもない、つまらない回答をするしかないんですよね。そうなると、相手も「はぁ、お忙しそうですね。」などと返事するしかないし、こちらも「(ああ、なんてつまらない自己紹介をしてしまったんだ。横石さんの本でも読み直すか。。)」と心の中で反省するわけです。

最近は、コーチングなり、日々の棚卸しのタイミングを設けることで、揺らぎを補正するようにしておりますが、多様化する自分の状況にアイデンティティを揺さぶられないようにする工夫は必要ですな。

「”立場”が複数あった方が何かと便利」

「複数肩書き」が成り立つのは、そもそも「複数の立場」を持っているからこそ、ですね。そして「立場」が複数あることによって得られる機会も多々ありまして、例えば肩書きがパスポートになる時があります。

特定の人を対象とした会合に参加する時、専門家にヒアリングする時、どこかに潜入して諜報活動をする時など、、何かしらの活動をするにあたって、特定の立場に就いていることでコトがスムーズに進む場合があります。私はやったことはありませんが、知人の某広報氏は、某IT媒体のライターの名刺を持ち(実際に複業でライターをやっている)、各社の記者会見に参席して業界情報を収集したり、記者とのネットワークを広げたりもしているそうな。

また、よく言われることですが、越境による複眼効果もありますね。多様な視点を持ち、多様な情報を得ることで、結果的に多様性を受け入れる思考になってくる。そもそも、多様性に対する受容度が高いから、複数の肩書を使い分けられるとも言えましょう。

また、「弱いつながり」論で言い倒されていることだけど、「ストラクチャーホールを埋めるブリッジ」として、イノベーションの誘発や促進を担う役目を担うこともありますね。

ちなみに自分は昔から「複数の肩書き」を使っていることもあって、自然と「複眼思考」「ブリッジ機能」を身につけていたようで、「コネクタ」として活動するためのスキルは、意図せず副次的に会得したものなんだろうと思っております。

●「複数肩書き」を取り巻く状況と今後

最後に、ちょっとマクロな視点、および今後の展望についても触れてみましょう。

多様な働き方を認め促進し、労働力として盛り立てていこうという動きは政府の成長戦略にも反映され、兼業複業やフリーランスも推奨されていく方向性。「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」も策定に向けてパブコメ中ですね。(2021年1月25日まで募集中)

フリーランスについては、多様な働き方の拡大、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人で働く就業形態)の拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などに貢献することが期待されています。

令和2年2月から3月にかけて、内閣官房と関係省庁が連携し、一元的にフリーランスの実態を把握するための調査を実施し、当該調査結果に基づき、全世代型社会保障検討会議において、政策の方向性についての検討がなされました。

また、同年7月に閣議決定された成長戦略実行計画において、フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、政府として一体的に、保護ルールの整備を行うこととされました。

これらの動きを見るに、まだまだ「複数肩書き」のパターン全ては考慮されておりません。多様過ぎて定義が難しく、網羅的に制度でカバーするのは難しいかもしれません。でも、数年前まで日陰の存在だった兼業複業が当たり前化した先には、より複雑なワークスタイルにについてもフォーカスされるかもしれませんね。

複数肩書を考慮した各種制度の促進

現在進行中ではありますが、、今後も、柔軟な雇用形態の促進(において既存の就労形態にかぎらず業務を委託することの推奨)、労働管理&成果管理の観点での時間管理方法の明確化、所得徴収方法の進化などなど、、もっと少しフリーランスや兼業複業を起点として、多様な働き方「も」認めることを前提にした社会制度が整ってきますよね。

複数肩書きを支援するサービスの増加

また、民間サービスにおいても、キャリアのポータビリティの支援、リスキル支援、「複数肩書き」のマネジメント支援、アイデンティティ揺らぎに伴う不安除去(セルフマネジメント、メンタルケア)などなど、、「複数肩書き」で働く人々を支えるサービスは発展しそうですよね。(以下は、以前書いた「選択肢が増える事により生じる不安」に関する記事ですが、その中でもいくつか課題や新サービスの兆しについて触れております)

「複数肩書」が当たり前化する世の中を妄想しながら、社会構造や制度の変化を妄想してみると、取り組むべき課題や求められるサービス、つまりはビジネスチャンスが見えてくるかもしれませんねぇ。

●まとめ

この数年あちこちで語られておりますが、これからはVUCA(*)の時代であり、また労働人口減をはじめとしたダウントレンド下の社会において、行政や企業が個人を支える力は相対的に下がっていき、「個人がむきだしになっていく社会」ですよね。となると、どうしても自衛は必要です。

(*)VUCA:Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)

そんな中で、「複数肩書き」は、スキルの習得、視点の広がり、新たな仕事のトライアル、ブリッジ効果などなど、変化に対応していく観点でのメリットは多々あると思いますよ。

ああだこうだと展開してみましたが、環境的に許される状況であるならば、「複数肩書き」を選択肢の一つとして、ちょっと試したみたり、「もし自分がもうひとつ肩書きを持つとしたら、、」などと想像してみてはいかがでしょうかね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?