企業内スタートアップの罠とジレンマ⑦ 〜3つのWと指標をめぐる冒険〜
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どうもこんばんは、uni'que若宮です。
なんだかんだ7回にも渡ってしまった企業内新規事業論も今回でラスト。
全体をまとめるとともに、それを事業として推進するための「指標」について書きたいと思います。
前回までのあらすじ
ここでこれまでのストーリーを振り返ってみます。
未読の方はこちら↓。時間ない方は以下のあらすじだけでも読んでいってください。
https://comemo.io/entries/10700
・第一話「企業か起業か、それが問題だ」(事業ミッション編①)
最初に書いたのは、企業内新規事業における大きな誤解についてでした。
企業でやる新規事業は起業とはちがい「他由」なので、会社の中でその事業をやる意義(=事業ミッション)をちゃんとすり合わせないとみんなが不幸になるよ、という話をしました。
・第二話「事業ミッションと赤ちゃんへの期待」(事業ミッション編②)
そしてその事業ミッションによって、どのように事業を組み立てるべきか、事業のタイプがちがうことも書きました。たとえばすぐに規模の大きな売上が欲しい場合、0→1型のイノベーション的新規は向きません。
また企業における「事業ミッション」は本来的には、売上や利益のような一般的なミッションではなくて、経営層と現場との間でその企業”ならでは”の事情や戦略に沿った「やる意義」を握れているのが理想、と述べました。
「企業にとっての利益とは、人間にとっての酸素のようなものだ。足りなければ、死んでしまう。しかし、もし人生で最も重要なのが息をすることだと思っているなら、その人は何かを見落としている」。(ピーター・ドラッカー)
・第三話〜第五話「ユニークじゃなければバリューじゃない」(コアバリュー編)
「なぜその事業をやるのか?」という事業のゴールがしっかり定まったら、次は自分たち"ならでは"のコアバリューを起点に考えましょう。
(前編)特に企業が大きくなると、いつのまにかコアバリューがぶれたり、ツギハギの寄せ集めになってしまっているケースがあります。自分たちは誰をどんな風に幸せにするのか?根っこにあるバリューは何なのか?「あれもこれも」にならず取捨選択と優先順位をしっかりしなければいけません。
(中編)大事にするコアバリューは、「世界平和」のように誰もが賛成するものではなく、他には無い"ならでは"のものでなければならない。コアバリューの要件は①ユニークである、②浸透する、③やらないことを決める、の3点。それがないコアバリューは「箱ティッシュ」のような特徴のないコモディティになったり、ブランドを毀損してしまったりしてしまう。そのことをスターバックスやディズニー、コカコーラの事例を引いて述べました。
(後編)といっても、言うは易し、「ユニークさ」というのはなかなか見つけるのが難しい。「大きなものに隠れる」「欠損と捉える」「自分には当たり前で気づかない」などの罠があり、自分たちだけだとどうしてもこの罠にはまりがちなので、外部のファシリテーターが必要だったりします。
いずれにしても任天堂のように、自分たちだけのユニークさをみつけられて初めて、コモディティのように過当競争に巻き込まれず、他社に真似されても勝ち続けられる”ならでは”のコアバリューが発揮できるのです。
・第六話「VUCA時代の子育てと新規事業」(フェーズ編)
事業を作る目的が決まり、自分たち"ならでは"の攻め方が決まったら、いよいよ事業開始。スタートしたら今度は徐々に育てていかなれければなりません。そして子育てと同様に、育っていくにつれ大事にすべきことは違ってきます。赤ちゃんにとって大事なことと大学生にとって大事なことは違います。一度成功したメソッドがあっても、それは時間ごとに変わっていくので盲信しすぎず、変化を意識し成功した事例を「後ろから見ない」のが大事だよ、ということを書きました。
まとめると、
・なぜやるのか、その企業"ならでは"のゴールをはっきりさせ、
・自分たちを知り、自分たち"ならでは"の闘い方で、
・時間を意識し、その時々"ならでは"の育て方をしていく。
という感じです。
KGIとKPI
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以上が僕が企業内新規事業のメソッドなのですが、もう一つ、実際に企業の相談にのるときには必ずやっていることがあります。
それは「指標に落とす」ということです。
ミッションやバリューは言語化がまず大事ですが、言葉はエモーションを伝えることができる反面、多義性を残すというデメリットがあります。同じことを考えて走っていたはずがメンバーそれぞれ微妙にずれてくる。
そうならないために、きちんと「この数字の達成をめざすぞ!」という指標を定めることが大事です。
・事業ミッションに関しては、「事業KGI」を定めます。
売上や利益なのか顧客数なのか、もしくはそれ以上にその企業にとって大事な達成したいゴールがあるか、しっかり定める。たとえば任天堂でいえば「ゲーム人口の拡大」というのがあります。任天堂にとっては売上よりゲーム人口を増やすほうが大事なのです。だから課金廃人を増やしてユーザー当たり売上を上げまくる沼よりは、間口を広げて多くの人に楽しんでもらうことを目指す。
・コアバリューに関しては、「ユニークKPI」を定めます。
「KPI」はKGIを達成するための指標です。KGIは結果指標なので、終わってからしかわかりません。ゴールしてみたらビリだった、というのでは遅いので、走っている最中にフォームや足の回転数などを意識することで良い結果につなげるわけです。
「ユニークKPI」というのは僕の造語ですが、「ユニークさを表す指標」です。コアバリューを定めた際、他でもない自分たち”ならでは”のユニークさが大事、と言いましたが、そのユニークさが上がっているか、下がっているかを測る指標です。
これが下がっていくと箱ティッシュに近づいている、ということになります。見かけ上売上やユーザー数が伸びていても中期的には価値が毀損されてしまいかねない。
たとえばスターバックスが「第三の場所」をコアにするなら、客単価よりは「居心地の良さ」がKPIになります。飲食店のセオリーのように回転率をあげようと居心地を悪くすれば短期的には売上があがるでしょうが、結果として他のコーヒーショップとのちがいがなくなり、客は他店に移っていくでしょう。
任天堂wiiの場合は「家族の真ん中にある鍋」というのがコアでしたが、これを大事にするため「居間設置率」というのをKPIにしました。コンソールゲーム機としては子供部屋に一台ずつ買ってもらったほうが販売台数があがるのですが、居間はだいたい家に一つしかありませんから、居間設置率をKPIにすることは販売台数的には不利な戦略にも思えます。
ですが、先に述べたように任天堂の事業ミッションは「ゲーム人口の拡大」です。子供が部屋にこもってゲームをするより、居間でゲームをするほうがゲーム人口は拡大するし、なによりも「ファミリー」という任天堂のユニークさが強化される。だからwiiがどれだけ居間においてもらえるかをKPIにする。こう言われるとなるほどと思いますが販売数を下げるようなKPIを設定するのはかなり勇気がいりますし、これを徹底する任天堂は本当にすごいと思います。
・フェーズに関しては、「フェーズKPI」を定めます。
前二者とは異なり、フェーズKPIは刻々と変化していきます。いまその事業が何歳で、何を大事にすべきで、だから「今」どういう打ち手を取るべきなのか、それをそのタイミングごとに見てKPIを選び意識合わせしつつも、次のフェーズへの移行タイミングを逃さないよう、機をはかります。このタイミングを読むのがとても難しいわけですが、とにかくフェーズ的にふさわしくないKPIを追いかけて混乱しないようにしましょう。
おわりに
さて、ここまで色々と書いてきたのですが、全編を通じて通奏低音となっていたことが2つあります。ちゃんと読んでくださった素敵なあなたならもうおわかりのように、それは"ならでは"と”時間”です。
企業内新規にかぎりませんが、この2つの要素はとても大事なのに、まだまだ等閑視されている気がします。そしてこれは製造業時代の名残があるためだと僕は考えています。製造業時代には、ユニークさよりも「部品のように代替可能で、不良品率が低い均質さ」や、マニュアル化された「無時間的な再現性」が効率を生みましたし、長く成功要因として信じられてきたからです。
ですが、何度か述べてきたように「VUCA」と言われるこれからの時代、そのセオリーはおそらくどんどん通用しなくなっていくはずだと僕は想います。
以上が、これまで大企業からスタートアップまで色々なケースの新規事業をやってきて、そして失敗してきて、(外部のコンサルではなく)自らもがきながら事業をしてたどり着いた僕なりのメソッドです。
新規事業を立ち上げる、というのは外から見ている以上に本当に苦しみの多いものです。(もちろん喜びもあるので続けているわけですが…)
特に企業内新規事業では、マネジメントと現場の齟齬や組織の問題、色々な妄想のためにみんなが不幸になるケースをたくさん見てきましたし、経験してきました。
いまそんなまっただ中にいて、苦しみながらも事業を産もうとしている戦友の皆さんの参考に少しでもなれたら幸いです。
※ここに記載されたメソッドも例に漏れず、「無時間的な真理」ではありません。それはこれからも変化していきますし、あくまで2018/11/22時点のものにすぎないことをご了承ください。
↓9月からKOLとして不定期で投稿しています。興味持っていただけたら他の記事も読んでいただけたら嬉しいです
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