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昨日書いたnoteで、電力会社にとってみれば広域災害が発生した場合に他電力から応援が駆け付けるのは長年行われてきたこと、と書きました。
東日本大震災(2011)でも、熊本地震(2016)でも、昨年千葉を襲った台風(2019)でも、被災した電力会社からの要請に応えて、応援要員や資機材を送り支援するということが行われてきました。
今回のこの台風10号では、どのような支援体制が取られているのでしょうか。また、コロナ禍においてはいろいろと課題もあると思われますが、どのように対策を取っているのでしょうか。

<応援は「要請があってから」が原則>

電力会社間では、これまでも相互応援の仕組みが構築されていましたが、今年成立した「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(以下、強靭化法)」で、それがより明確になり、充実が図られていることは昨日のnoteでも言及しました。
具体的に言えば、復旧の工法を予め明確にすることや(早期復旧を前提に、仮復旧をまずやって、その後本復旧)、電線サイズが違ったする場合でも接続できるよう電源車接続に使う共通工具を全電力共通化する開発を行ったり、高圧発電機車の運転マニュアルを整備して、他社の電源車でも運転できるようにしたりという細かい改善が図られつつあります。


他社から送られる応援部隊は、被災した電力会社からの要請を受けて発動します。災害時に重要なのは、指揮命令系統がきちんとしていることであり、勝手に動くということは基本的にはあり得ません。また、まだ災害のさ中に現地入りしてしまえば、応援部隊が被災してしまうことにもなりかねないからです。さらに言えば、今回の台風はほぼ九州のみを通るコースでしたが、場合によっては日本を縦断することもあります。そうした場合に事前に他社に応援を送ってしまえば、自社エリア内が手薄になりかねません。

しかしながら今回の台風10号は、数日前から既に、九州地方に甚大な被害を与える影響が懸念されていたものです。要請が出るのは確実と見て、自主的に応援部隊を組織して西への移動を始めた会社もあったそうです。
応援部隊は災害の都度、また、会社によっても異なりますが、数十名規模の要員が、電源車、高所作業車などと共に被災地に向かいます。被災地で、様々な作業服を着た方たちが一緒に作業したりしているのは、こうした各地域の電力会社からの応援要員かもしれません。

<停電した場所の間近で発電してくれる電源車>

電線や電柱などの設備が折損して停電してしまった場合、頼りになるのが自家発電設備を搭載した電源車です。今年成立した「エネルギー供給強靭化法」に基づいて策定された災害時連携計画の応援実施要領 にも、各社が保有する高圧・低圧の電源車の台数やその仕様が一覧として掲載されています。こうした車でどのくらいの電気が賄えるのでしょうか。ざっとした目安ですが、高圧電源車の容量は500kVA程度のものが多く、これは中規模の工場レベル、また一般住宅100軒程度救える容量です。低圧電源車の容量は75kVA程度ですので、一般住宅を5、6軒程度救える容量ということになります。燃料の補給や潤滑油等のメンテナンスをすることも必要ですが、それさえ行えばすぐ近くに発電所があるのと同じ状態になるわけです。ただ、限られた台数をどこにどう配置するのかはとても悩ましい問題で、避難所や老人福祉施設等の公共性や緊急性のある施設で、自家発電設備が無いところから優先的に・・ということになるでしょう。

<備えているのは電力会社だけではない>

実は身近な電気自動車に電気を貯めておくということもできます。例えばこちらのサイトは、日産自動車のリーフe+(62kWh)がフル充電でどの程度の期間一般の家庭の電気を賄うことができるかの実験をしたもので、ドライヤーやIHなどを普通に利用しても4日間もったことが動画からわかります。
普段は普通の自動車として使い、非常時には蓄電池として使うということができるのは大きな魅力ですよね。昨年の千葉の災害の時には、日産自動車㈱は待機分も含めると約80台のリーフを集めて、停電した地域の電力供給のために提供してくださったそうです。
今回も早々に、まず九州あるいは周辺地域の社内、関連会社、レンタカー、カーシェアでの貸し出し状況(空いている車の台数を把握)を調査するとともに、車載蓄電池の500vのdcアウトを100Vacに変換する機器を配備したりしています。
ただ、実はこうした変換機器が無いと、電動車の車載蓄電池に貯めた電気を家庭で使うことができないというのが、まだ電動車の災害利用が一般化しない原因です。なんせこの機器、定価だと120万超えだったりします。家庭用はだいぶ値段が下がってきて40万円程度で手に入るようになってきていますが、それでも十分お高い。この値段を下げていくことが、喫緊の課題ですが、それができれば、分散型技術による社会の強じん化が一気に現実のものとなるかもしれません。


<コロナ対策について>


このコロナ禍でもあり、要員の派遣には大変気を遣うところです。宿泊場所を極力分散させたり、現地会議ではリモート会議システムを活用したり、各自体温計を携帯するようにしたり定時健康チェックをしたりと対策は講じているそうですが、実際に現地に行かれる方には通常とは違う負担がかかることでしょう。暑い中の作業で、マスクを装着することにも限界があると思います。
早期に停電を回復しなければ、災害からの復旧が進みません。この暑さの中エアコンが使えず体調を崩される方も出るでしょう。復旧作業を迅速化するには、たくさんの人手が必要です。電力会社だけでなく、他のインフラ事業者さんも同じ悩みを抱えておられることと思います。コロナのリスクと、停電によるリスクのなかでバランスをとるしかありませんが、withコロナ時代の災害対応・応援について少しずつ知見・経験を蓄積していくことに期待したいと思います。

暑さの続く中、皆さんご安全に。



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