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高単価商品導入の次に必要な取り組みとは

今年の4-9月期で、売上高営業利益率を改善させた日本企業の割合が42%であったという。前年同期の35%より7ポイントの改善ということだ。

約半年前のこの4月にこんなエントリーを書いたのだが、徐々に企業の「空気」も変わってきたということだろうか。

自分が直接目にしている範囲でも、例えば牛丼チェーン店が店舗を改装してセルフサービス(料理を席まで自分で運び、食後は自分で下膳する)の客席にしたり、レジで店員が金銭等に触れる必要のないセルフレジやセミセルフレジ(店員が伝票や買い上げ商品の入力はするが、金銭やカードによる決済は人手を介さずに機械が処理する)を導入した店も、この半年で増えた。

もちろん、こうした変化に対してはネガティブな評価もあり、なかにはSNSで大きく話題になったものもある。

一方で、こうしたセミセルフレジを1年以上前に導入した、地方のある小売の関係者に聞いた話では、「導入後半年までは相次いだ(セミセルフ化への)クレームも、半年を過ぎるとピタッと止んだ」ということで、良かれ悪しかれ、ほとんどの人にとっては慣れの問題であるということを伺わせる。

また、中途半端にセミセルフであるがために、こうしたクレームが発生しているのかもしれない。完全にセルフ、というかレジの概念がないAmazon Goや、日本でも完全セルフレジの駅コンビニなどが登場しているが、こうした店舗に関して、筆者の知る限りでは有人での金銭授受がないことへの不満やクレームを目にしたことがない。

一方、吉野家などのように、有人での決済にこだわる店やチェーンもあり、もちろん、それはそれで一つの方策で、なんでも無人にすればよいとは思わない。各社が大切と思うポイントにコストをかけることで他社との差別化をしていけばよいと思う。

やや脱線したが、こうしたセミを含むセルフ店舗は、初期投資には一定の費用が掛かるだろうが、その分、単に時給ベースの人件費を抑えられるだけでなく、昨今の人手不足のなか、採用コストや教育コストを低減し、その分定着して欲しい従業員の処遇を改善する原資としても活用しうる。さらには、営業時間を延ばす、あるいは現在の営業時間を維持する、といったことにもつながる投資になる可能性がある。

小売りではないし、レジではないが、ホテルなどでは、部屋も宿泊ニーズ(顧客)もあるのに、部屋をメンテナンスするスタッフが不足しているためにフル稼働に出来ないでいる、というケースも複数耳にしている。

ホテルの客室清掃は、空港の広いスペースの清掃のように一気にロボットで完結できるほど単純なものではない。また人間には個性・特性、つまりは仕事の向き不向きがあるので、ロボットに置き換えた仕事をやっていた人を別な仕事に配置転換すれば解決する、というほど簡単な話ではないとは承知しているつもりだ。そして、それはホテルに限った話ではない。ただ、部分的・段階的にでも、こうした機械化・自動化を進めていくことで、どうしても人間が関与しなければならない部分、各事業者が自社の商品・サービスの本質であると考える部分に人手を集中させていくことが必要だろう。そして、その取り組みは1度で完結せず、AIやロボットの進化、あるいは5Gの普及といった状況に合わせて、この先しばらくは継続的に取り組んでいくことが必要になるだろうと思っている。

ただ、こうした取り組みだけで売り上げを伸ばし、利益率を高めていくことの限界が来るということも、目をそらさずに考えておきたい。

言うまでもなく、日本の人口は減り続けており、今後、ピーク時の7割程度にまで落ち込むものと予想されている。単純計算で顧客数が3割減となった場合、同じ売上高を維持するためには、客単価を4割以上増やさなければならない(0.7×1.4=0.98 なのだ)。いくら高付加価値で高単価の商品を導入開発するといっても、平均して4割増しの客単価を獲得するということは、そう簡単なことではないだろう。

ひきつづき、不要なコスト削減の努力はしていかなければならない。その時に、数が減って希少性が高まる労働力のコストを削減することは現実的ではない。もちろん、前述のように機械化・自動化を進めていくことにはなるだろうけれど、人間がやるべき仕事の人件費は、むしろ上がっていくはずだし、そこにコストを掛けられないと、競争力を失うことになる(実際に、世界的に見れば日本はすでにそういう状況にある)。

一方で、人口が減る分だけニーズが減るもの、例えば(住むための)土地などは、一般論としては値段が下がると考えるのが自然だと思う。また、人口当たりに必要とされる店の数や事業者の数も下がっていくという現実に向き合わなければならない。つまりは、既存事業だけを継続するなら、店舗の統廃合や事業者の合併といったことを、中期的に視野に入れておかなければならない。さらに既存事業に対するニーズそのものが減少するようなことがあれば、変化のスピードは激しくなる。

そうなると、日本国内の内需のみではなく海外需要を取り込むとか、あるいは事業領域を拡張して新規事業を行っていくといった方策が、企業体の維持に必要不可欠になってくる。

まだ企業体力があり、高付加価値商品の導入で単価アップと収益改善がはかれているうちに、中期課題への取り組みを開始しておくことが非常に大切だと思う。

外需を取込むなら、海外に出ていけるスキルをもった人材が必要不可欠だ。そのスキルの中核は、英語をはじめとした外国語の運用能力ということになるだろう。または、言葉は日本語だけしか使えなくても、通訳を使って現地でビジネスができるスキルでもいい。

新規事業に関しては、オープンイノベーションはバズワード的に語られるものの、それによる新規事業に取り組まなければならない理由が論理的に説明されておらず、流行りもののようにとらえられていたり、全社的に意義が理解・浸透していないと感じることもまだまだ多い。

また半年後には、そうした取り組みに力をいれている企業が増えている、という記事を読むことになるなら、とても喜ばしい。

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