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コロナ後の自動車業界と変化するマイカー所有の価値観

コロナ以降、自動車業界にも大きな変化が起きている。直近の影響としては、2020年2月以降は新車の販売台数が大幅に減少した。これは世界各国に共通した傾向である。

欧州主要国の新車販売の回復ペースが鈍い。英自動車工業会(SMMT)が4日発表した2020年5月の新車(乗用車)販売台数は前年同月比89%減だった。ドイツとイタリアも半減した。いずれも4月より改善しているものの、歴史的な低水準が続く。欧州を主戦場とする自動車メーカーの経営に大きな影響を与えることは必至だ。(日経新聞2020/6/5)

その一方で、消費者のマイカーに対する価値観も変化が生じている。これは自動車業界にとって、長短両方の影響がありそうだ。

欧州を拠点として、世界90ヶ国を対象とした市場調査会社の「Ipsos(イププソス)」が、2020年2月末に中国の消費者(1620名)に行った調査によると、現在は自動車を所有していない消費者の中で、自分や家族のためのマイカー購入の必要性を感じている人は、コロナ前と比較して72%上昇している。

他方、今後も公共交通機関を利用したいと回答した人は、コロナ前よりも57%減少した。タクシーやカーシェアリングよりも、自分専用の空間で移動ができるマイカーのほうが、感染リスクは低いと考えている。

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IMPACT OF CORONAVIRUS TO NEW CAR PURCHASE IN CHINA

中国ではコロナショックによって、2020年2月の新車販売台数が80%減少した。 自動車メーカーにとって、中国は世界最大のマーケットであり、そのまま消費者のマイカー購買意欲が減退すれば死活問題になるが、同調査の結果に基づくと、これまで「マイカーは不要」とする考えを抱いていた、20~30代前半の若い消費者の中で、コロナを転機として「マイカー所有」に前向きな価値観へと変化している。

この傾向は、中国以外のマーケットにも共通する指針として、自動車メーカーにとっては好材料といえるが、コロナの副作用によるネガティブな要因も自動車業界内では指摘されている。在宅勤務や外出自粛の風潮が今後も続くことになれば、既にマイカーを所有している世帯では、走行距離が減ることになるため、車の買い換えサイクルは長くなる。さらに、家族毎に複数のマイカーを所有していた世帯では、台数を減らすことも考えられる。

中古車市場には、走行距離が少ない車両が多数流通するため、これまでは新車を乗り継いできたオーナーも、程度の良い中古車への買い換えを検討するようになる。これは新車の販売台数を落とすことに繋がり、自動車メーカーにとっては痛手だ。

コロナ不況で所得が減少した消費者は、できるだけ少ない金銭負担でマイカーを所有できる形態を求めるため、今後はリースやサブスクリプション型の販売手法が増えていくことも予測されている。

《新型コロナによる自動車業界の影響》

○車に興味が無かった消費者のマイカー所有率は上昇する
○オンラインでの車購入スタイルが増える
○既存のマイカーは走行距離が減少する
○マイカーの買い換えサイクルは長期化する
○マイカー複数台所有の世帯は台数を整理する
○程度の良い中古車の供給量が増える
○高級車よりも安価で多用途に使える車が求められる
○リースやサブスクリプションによるマイカー利用も増える

日本でもサブスクリプション型の自動車販売モデルは出てきており、トヨタが「KINTO」、ホンダが「Honda マンスリーオーナー」というサービスを開始している。KINTOは新車、Honda マンスリーオーナーは中古車を扱うという違いがあるが、いずれも車両本体価格、メンテナンス費用、保険代などが含まれて、月額3万円前後~の定額料金を払えば、自分専用のマイカーとして利用できるのが特徴だ。

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自動車メーカー系のサブスクサービスは、車両のメンテナンスや保証制度が充実しているため、初めてマイカーに乗る人でも安心して乗れるが、月額料金は高めに設定されている。月額4万円の定額料金で5年間乗り続けると、合計では240万円の支払額になる。

そのため、自動車のサブスクサービス(一般向けリース契約)には、メーカー系列以外でも、安価な料金プランで参入できるビジネスチャンスがある。新興勢力として登場してきているのが、月額1万円台から新車の軽自動車に乗れるサブスクサービスで、オリックスやコスモ石油なども参入してきている。

オリックス自動車のカーリース
コスモMYカーリース

マイカーを「贅沢品」と考えるのではなく、日常の移動手段として日本国内の道路事情で使うのであれば、軽自動車でも必要十分という価値観は広がっている。実際に2019年の新車販売台数の中で、軽自動車のシェア36%を占めており、世帯あたりの所有率は54.4%(全国軽自動車協会連合会調べ)となっている。

軽自動車は日本独自の規格であり、世界のニュースで話題になることは少ないが、日本では地方都市ほどシェア率は高く、東京のシェア率が全国で最も低い。しかし、車両価格の安さ、燃費、税金面でも軽自動車の経済性は優れており、コロナ後の社会では、都会でも主要道路を走る軽自動車の割合が増えていくことになるのかもしれない。

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