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大気の汚染物質が宝石に!?

「錬金術」というと、ありふれた物質を金に変えようとした昔の怪しげな秘術をイメージされるかもしれません。現代でも、あまりまっとうではない方法で大きなお金を生み出す利殖などを指す慣用表現として使われ、よい印象はないかもしれません。

今回は、大気中の汚染物質を宝石に変える、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を化学品や燃料に変える、そんな人類や地球の問題解決になる「よい錬金術」の話題です。

冒頭紹介しているのは、大気を汚染する空気中の微粒子を巨大な空気清浄機で集め、真っ黒な宝石のように加工する取り組みをしているオランダ人デザイナーの話。宝石のついたリングを一つ買うと、1千立方メートルの清浄な空気をもたらしたことになる計算のようです。

まさに「必要は発明の母」という感じでしょうか。高い壁があれば、人は壁を登る方法を考える。課題こそが問題解決を生み出すのは、オイルショックや地球環境問題を受けて省エネ技術が進んだ様を思い起こさせます。

オフピーク出勤と錬金術

「オフピーク出勤」というものがあります。朝のラッシュ時を避け、時間をずらして出勤すれば混雑が緩和できるというものです。とはいえ、なかなか早起きができるものではありません。そこで鉄道各社はピーク時をずらした人にポイントをつけるなどしてオフピーク出勤を促しています。

地球環境をめぐっても、世界の機関投資家や金融機関が、排出原因になる化石燃料を扱う企業への投融資を引き揚げる手法を取り始めています。しかし、安価な燃料である石炭の利用を劇的に減らすには至っていないようです。オフピーク出勤だけでは不十分ということですね。

そこで出てきたのが錬金術です。CO2を化学品や燃料などの「価値あるもの」に変えようという動きが世界で広がっています。CO2が地球の「厄介者」から、資源へと生まれ変わるディスラプション(創造的破壊)への道が広がろうとしています。

錬金術はありふれた物質を金に変えることはできませんでしたが、その過程で化学品が多く発見され、実験道具も発明されました。現在の科学に通じる成果も多くあるといいます。地球環境の錬金術も、CO2を減らすだけでなく、新たな科学の進展につながるかもしれません。

(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 太田順尚)

「Disruption」過去の連載はこちら☟

先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊すディスラプション(創造的破壊)。連載企画「Disruption 断絶の先に」は、従来の延長線上ではなく、不連続な変化が起きつつある現場を取材し、経済や社会、暮らしに及ぼす影響を探ります。