見出し画像

休校措置で広がる教育格差とホームスクーリング

全国では、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ目的から、小中高校を5月の連休明けまでは休校とする自治体が増えている。それも暫定的な措置で、今後の状況によっては半年、1年と休校期間が長期化していくことも考えられる。

そこで懸念されるのが、学習の遅れだが、日本政府は教科書の著作内容をインターネットの遠隔授業で使えるようにするようにした、改正著作権法を4月28日に施行することを決定した。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は10日、教科書などの著作物をインターネットなどによる遠隔授業で使えるようにする改正著作権法を28日に施行する政令を閣議決定した。政府の緊急事態宣言発令で多くの小中高校や大学などで休校が続く中、遠隔授業をしやすい環境を整えて学習の遅れが生じないようにする。(日経新聞 2020/4/10)

この法改正によって、学校現場の教員が、教科書の内容に基づいたオンライン教材などを自作して遠隔授業を進めやすくなる。しかし、遠隔授業は各家庭の通信回線やPC環境に大きく依存するため、小中学校では均一的な導入が難しいとみられている。一方、教育熱心な家庭では、親が教師役となって自宅学習を進めているため、コロナ対策の休校期間中には、大きな教育格差が開くとみられている。

翻って、米国では20年以上前から、学校に行く代わりに自宅で親自らが、子どもを教育する「ホームスクール」の形態が定着している。ネット上にはホームスクール用の様々な教育カリキュラムが、無料・有料で公開されており、親はそれらの教材を活用しながら、我が子の学力に応じた自宅学習を進めているのだ。

米国では、従来の学校には通わずに、ホームスクールで学ぶ子ども(幼稚園~高校生)が 250万人以上いるとみられるが、彼らは厄介な問題児というわけではなく、宗教上の理由や、同級生よりも知能が高くて、学校のカリキュラムに合わないなどの理由により、自宅で学んでいることが多い。その中からは、飛び級によって18歳未満でエリート大学に入学している者も少なくない。

米国のホームスクール動向を研究する「Home Education Research Institute」によると、子どもを学校に通わせずにホームスクールで教育する家庭では、公的な援助は受けずに、親がネットで入手できる教材を活用しながら、年間平均600ドルの費用で家庭内教育を行っている。これは、米国の公立学校が生徒1人あたりに費やしている予算(11,732ドル)よりも、大幅に低い。

しかし、ホームスクーラーの学業成績は、公立学校に通う生徒よりも、標準テストの得点で15〜30%高いことが示されている。これは、親が高学歴であったり、教員資格を持っていたりといった特別なケースではなく、ホームスクーラー全般にみられる特性である。そのため、米国の大学では、ホームスクールで学んだ子どもを差別することなく、積極的に入学させるようになっている。

一方、ホームスクールの欠点は、保護者の負担が大きいことが指摘されている。教師役となる親は、子どもの理解度に応じた学習計画を独自に立て、子どもの興味を引きやすい教材コンテンツを常に探す必要がある。ホームスクールを実践している他の保護者や専門家とも情報共有しながら、学習方法の新たなアイデアや改善点などのアドバイスも柔軟に受けることが大切になる。そのため、子どもの教育を優先して、夫婦共働きのスタイルを辞めるという選択肢も出てくる。

米国では、新型コロナウイルスの感染から子どもを防ぐため、ホームスクールを行う家庭が増えていくことが予測されている。コロナ禍における教育格差(特に12歳までの小学生)は、世帯年収の違いよりも、どれだけ親が子どもの勉強に付き添えるのかによって変わってくるという話は、日本の教員からも聞かれるようになっている。

■関連情報
コロナショックでGoogleが狙う教育プラットフォームの覇権
教材無料化へ向かうオンライン受験対策ビジネスの方向性
EdTechに変革される学習塾のビジネスモデルと業界再編
留守児童対策として整備される学童保育の運営形態と採算

JNEWSはネット草創期の1996年から、海外・国内のビジネス事例を精力的に取材、会員向けレポート(JNEWS LETTER)として配信しています。また、JNEWS会員読者には、副業ビジネスの立ち上げ、独立起業までの相談サポートも行っています。詳細は公式サイトをご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?