世界に後れをとる日本の新型コロナワクチン獲得競争
ポストコロナの社会再生については、ワクチンをできるだけ早く開発して、国民全員に接種させることが重要戦略になっている。日本は米製薬大手のファイザーに対して、2021年6月末までに日本側が6千万人分の供給を受けることで基本合意したと報じられたが、日本政府は世界のコロナワクチン獲得競争で大幅な後れをとっている。
WHOによると、新型コロナウイルスのワクチン開発は、既に臨床試験が行われているものと、臨床試験前のものとを合わせると、2020年7月の時点で160以上の研究機関や製薬会社で行われている。
その中で、実用化までたどり着けるのは数パーセントの確率で、ギャンブル性の高い事業だが、新型コロナの場合は、世界人口の大半が接種の潜在患者数となるため、莫大な市場規模になるとみられている。
ワクチンが完成した直後は「需要>供給量」の状態で、各国が奪い合う形となることが予測されるため、米国や英国の政府は、ワクチンが完成前の段階から複数の開発メーカーに対して購入予約を行い、国民人口の数倍にあたる数量を確保しはじめている。ワクチンの効果を有効にするのに、1人あたり数回の接種が必要になることを想定してのことである。
米国政府の場合は、通常は10年程度かかるワクチン開発の期間を1~2年に短縮する「ワープスピード作戦(Operation Warp Speed Vaccine Initiative)」を2020年5月からスタートさせている。
具体的には、政府が最大100億ドル(約1兆円超)の予算を投じて、実験で有効性が確認された段階で、複数のワクチン開発メーカーに対して購入保証や資金提供を行うものだ。この支援制度により、メーカー側では開発失敗による経済的な損失を恐れずに、早期の段階から大規模な臨床実験や、量産体制の設備投資を行うことができるようになり、2021年内にはワクチンの供給を目指す計画だ。
米バイオ医薬ベンチャーのモデルナは27日、開発中の新型コロナウイルス向けワクチンが臨床試験(治験)の最終段階に入ったと発表した。実際に新型コロナが流行する米国内90カ所で、3万人を対象とする大規模な治験を行う。米ファイザーも27日から世界各地で計3万人規模の大規模治験に入ると発表しており、ワクチン開発が大詰めを迎える。(日経新聞2020/7/28)
米国や欧州が新型コロナワクチンの開発を急ぐのは、ワクチンがコロナ終息の決定打であり、世界で最も早く終息宣言を出した国が、今後の経済活動もリードできると信じるためである。そのため、製薬会社や大学の研究機関に大規模な先行投資を行い、複数開発されるワクチンの中から、最も有効で副作用のリスクが少ないものを、国民全体に配給しようとする作戦だ。
現状では、どの国でも他国の心配をする余裕はなく、まずは自国の人口に対して数倍のワクチンを確保(購入予約)することに専念している。そのため、新型コロナに効くワクチンが開発されて1~2年の間は、国によって感染の増加・収束の動向と、経済の復活ペースで大きな格差が開くとみられている。途上国にまでワクチンが供給されるのは、残念ながら先進国よりも数年先のことになるだろう。
【ワクチン接種の優先順位問題】
また、同じ国の中でも、誰からワクチンを接種していくのかという順位決定は、今後の大きな問題となりそうだ。優先順位の決め方としては、「コロナの治療や感染対策の最前線で働く人から(職業別)」、「重い持病を持つ人から(健康ハイリスク者)」、「若者よりも高齢者から優先的に(年齢層別)」などの考え方があるが、そのグループ分けでも、数千万人規模の該当者になる。平等かつ必要性の高い人ほど優先的にワクチン接種を受けられるようにすることが重要だが、誰もが納得するようなランキングを行うことは難しい。
公的な指針としては、新型インフルエンザの大流行を想定して作成されたガイドラインが過去に作成されているが、その中では、医療従事者の他に、公務として感染対策に従事する政治家や公務員の優先順位が高くなっている。これには、不満を抱く国民も多いだろう。また、ワクチン接種の費用についても、「公費で受けられる人」「勤務先の会社が負担してくれる人」「自費で受ける人」という差が生じてくる。
■新型インフルエンザワクチン接種の進め方について(日本政府案)
日本の総人口(1億2千万人)すべてがワクチン接種できるまでには、ワクチン完成から短くても1年半はかかるとみられている。その期間中には、接種を済ませて行動圏が広がる人と、未接種のまま自宅待機が続く人との間の軋轢が生じることも想定されて、今後のワクチン供給については難しい問題が山積している。
■関連情報
○中国に依存する医薬品業界のサプライチェーン構造
○新生活様式で増える社会的孤立者に向けた支援ビジネス
○地方開業医を中心に展開される日本版オンライン診療
○感染速度を遅らせる学校閉鎖の効果と家族感染の防止策
○JNEWS公式サイト
JNEWSはネット草創期の1996年から、海外・国内のビジネス事例を専門に取材、会員向けレポート(JNEWS LETTER)として配信しています。また、JNEWS会員読者には、収入の減少を補う副業の立ち上げ、経営者の事業転換や新規事業立ち上げなどの相談サポートも行っています。詳細は公式サイトをご覧ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?