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仕事をゲーム化して業務成果を伸ばす未来の働き方

 昭和から平成の時代にかけて、企業は従業員にノルマやプレッシャーをかけることで業績を伸ばそうとする手法が常態化していた。しかし、人間は過度のストレスをかけられるほど、個人本来のパフォーマンスを出せないことは、科学的にも実証されるようになっている。

短期的なストレスは、体内のアドレナリンを上昇させて、差し迫った目標や課題をクリアーする前向きなエネルギーになるが、ストレスが常態化している職場では、仕事に対するモチベーションの低下や、体調不良を起こしやすい。

ただし、特筆すべきなのは、同じ目標を与えられたとしても、それをストレスと感じる人と、感じない人に分かれることである。わかりすいのは、大学入試や資格試験などの受験勉強で、大半の人はストレスを感じる中でも、一部の人は勉強することを「楽しい」と感じている。これを脳科学で説明すると、快楽物質のドーパミンが分泌されている状態で、新しい知識を習得できるのは楽しい→テストのスコアが上がる→さらに学習意欲が高まる、という快感の報酬回路が形成される。

子どもから大人までが、ゲームに夢中になるのもドーパミンの分泌が影響しているという研究報告がされている。スタンフォード大学の学生を被験者として、ビデオゲームをしている時の脳をスキャンした実験では、視覚・感覚・運動機能などの複数の領域で、脳内が活性化している様子がみられた。さらにゲームで最高得点を獲得した被験者は、線条体や側坐核(そくざかく)という神経細胞から、最大値のドーパミンが放出されていることが確認された。

ドーパミンによる快楽効果は、タバコを吸うのと同じように短く、頻繁に繰り返される特性がある。そのため、ゲーム開発者がヒット作品を生み出すには、ゲーム内に多くのステージを設定して、小さな目標をクリアーする度に、快感が次々と得られるような仕組みを作ることが効果的である。

この行動特性を仕事にも応用して、職場での業務をゲーム化することは「Gamification at Work」と呼ばれ、多様な職種をゲーム感覚で行えるようにすることが、未来の働き方として期待されている。

【ポケモン感覚で行うセールスマンの仕事】

その具体例として、米国で開発された「Badger Maps」というモバイルアプリは、取引先を定期的に巡回して、消耗品の補充や新製品の売り込みをするルートセールスの仕事を、ポケモン感覚で楽しみながら行える仕様になっている。

このアプリでは、営業マンの巡回テリトリー内にある顧客リストをマップ上に表示させて、移動時間のロスを最小限に抑えられる最適化された営業ルートを提示する。さらに、顧客の自宅やオフィスを訪問する都度、チェックイン機能によって、上司や同僚との間で、位置情報を通知、共有することができる。目標として設定された、訪問件数や見込み客の獲得数をクリアーすると、ポイントや賞品が与えられる報酬プログラムと連携することも可能なため、新人の営業マンにとっても、仕事へのモチベーションを持続させやすい。

セールスの仕事は、担当者の経験や裁量によって一日の成果が大きく分かれることになり、孤独やストレスを抱えやすい要因になっている。そこにゲーム的な要素を取り入れることで、メンバー全員の結束力や信頼関係を高めることができる。従業員に過度なノルマやプレッシャーを与えるのではなく、ゲーミフィケーションによって自発的な「やる気」や「集中力」引き出す方法は、セールス分野に限らず、時間あたりの業務効率を高めたい製造業の現場や、ミスの発生率を減らしたい職域での導入が検討されはじめている。

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