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日本のリーダーに求められる、長期と俯瞰の視点

七年半を記録した安倍政権に比べ、後に続いた菅政権は一年という短命を終えようとしている。特にコロナ禍で、国民の健康と経済復興のバランスを取ったかじ取りは難しく、次のリーダーシップに引き継がれる。

政治が新しいページをめくるとき、私たちは何を次のリーダーに期待・要請すべきだろうか?Corona, China, Climateをまとめて3Cと言われる、日本を含む先進国にとっての国際的な喫緊の課題は明らかだ。コロナ禍が浮き彫りにした日本特有の試練—デジタル化のキャッチアップや行政改革—も、注目される争点である。一方で、地味ながら、日本の将来への布石として忘れてはならないほかの宿題もある。

まず、将来に希望が持てる国を作るという、治世の基本的な命題に戻りたい。経済が成熟し、自動的に「明日は今日よりも良くなる」とは思えない令和の時代、これはなかなか厄介なチャレンジだ。少子化問題の根源には、将来への漠とした不安がある。では、どんな政策が悲観を楽観に変えるのだろうか?

記事が指摘するように、日本の暗部ともいえる子供の貧困を改善することは、ひとつのレバーだ。人道的な意義のみならず、これからの世代を担う子供たちに十分な教育と愛情の投資をすることは、将来への希望へ直結する。

次に、大人が安心して働くための社会保障は十分だろうか?コロナ禍で、生き方・働き方が一気に見直された。ノマド(遊牧民)的な生き方を志向するひとが増え、社会的な許容も醸成されている。ひとつの職場に縛られることのないキャリアは、社会にとって才能の適材適所を実現し、個人にとって生涯現役という一種の理想をかなえることを可能にしてくれる。しかし、この可能性をポジティブに捉えるためには、社会インフラとして、働き方に依らない社会保障が必要だ。

最後に、安倍政権の置き土産のように感じられる女性活躍を取り上げたい。アベノミクス景気と同期して、女性の労働参加は増えたものの、その中身は非正規雇用が多く、コロナ禍による雇用の剥落は女性を直撃した。

明るい兆しはある。足元、国内でも女性論客のメディア露出が着実に増えていると感じる。女性幹部・役員の増加も確かに進んでいる。しかし、国全体を覆う固定化したジェンダー役割や、「女の子なら、そんなに頑張らなくても・・・」に代表される根深い差別は、一朝一夕に解決されるものではない。

今回の総裁選に女性候補が含まれること自体は、歓迎すべきだろう。しかし、もしも一部の「出来る女性」が、それ以外の大多数が抱える悩みや閉塞感を無視するような「女女格差」が広がっては、ごく普通の女性が希望をもって生きるという目指す社会像にとって、益にならない。

貧困撲滅、社会保障、男女共同参画といった領域は、3Cのような華々しさはないものの、国家のソフトインフラへの投資として欠かせない。リーダー候補を評価するときの長期視点としたい。

さらに、パンデミックによって内向きになった日本の視座を、再び外へ向けられるかどうかが、隠れた論点だと考える。日本は、初期的なワクチン普及の遅れなどから、欧米に比べて国境を長く閉鎖している。私の周りでも、旅行客はもちろん、年初から来日して働くはずだった海外の人材が、今も足止めを食らったままだ。

人口減少を続ける日本にとって、海外で稼ぎ、また、海外の優秀な才能を日本へ惹きつけることは必要不可欠な成長戦略だ。もし日本が閉ざされたまま、国内の課題だけに集中していれば、日本パッシングは勢いを増すばかりだろう。

地政学リスクに備えて防衛の議論をすることは必要だ。一方で、次のリーダーシップには、「開かれた日本」に対するコミットメントを問いたい。そのために、国民向け、また、諸外国向けにどのようなメッセージ発信ができるか、世界の中の自国を俯瞰してコミュニケーションする手腕が問われている。

コロナ危機からの脱却はもちろん、深刻化する気候問題や資本主義のほころび、米中問題など、日本を含む世界は大きな転換点に立つ。今回の総裁選は、そのような背景で日本の次のリーダーシップを選ぶ重要な分岐点となる。

「タイタニック号が沈没するときに、船員は甲板の椅子を並べなおしていた」という言い回しがある。そんな事態を避けるために、長期と俯瞰の視点をもって議論したい。

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