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デジタル庁を成功に導くための「政府への信頼」とは何か

菅総理大臣の総裁選不出馬表明によって政権の行方が不透明になっているが、菅政権の目玉の一つであったデジタル庁は無事に10月1日に発足した。デジタル監に経営学者の石倉洋子氏を起用し、200人もの民間人材を採用するなど、これまでの行政組織のカルチャーと実践を大きく変える可能性が期待される。

その一方で、デジタル庁創設が表明されてから1年近く経ち、その間にコロナ禍の中でワクチン接種予約など次々に情報管理における課題が発生してきたわけだが、これまでのところ、日本では残念ながら諸外国と比べてもスピーディにソリューションが提供されてきたとは言えないのが現実である。

デジタル庁については体制を整えるのに1年かかったわけで、成果が出るのはこれからと期待したい。また、現場には素晴らしい能力と意欲を持った人材が数多く採用されており、その能力を発揮できるようにできれば、自ずと成果も出てくるだろう。

但し、電子政府サービスの利用には、政府への信頼が重要な役割を果たすとの研究もある。いくら現場で奮闘しても、システムを提供する政府への信頼がなければ国民には受け入れられないこともあるだろう。特に、コロナ禍への対応のように、完璧ではないシステムを次々にリリースしなければならない場面においては、利用者に使い勝手について我慢してもらわなければならない状況も発生する可能性があるため、国民の信頼はより重要な役割を果たすと考えられる。

そこで、今回は電子政府サービスと信頼の問題について、考えてみたい。

e-Governmentと政府信頼に関する研究

電子政府サービスの利用が政府への信頼によって影響を受けることは多くの研究で確認されているが、ここでは以下の論文を紹介しておきたい。

Perez-Morote, R., Pontones-Rosa, C., and Nunez-Zhicharro, M. (2020) The effects of e-government evaluation, trust and the digital divide in the levels of e-government use in European countries. Technological Forecasting & Social Change 154.

この研究は、EU27か国を対象として、2010年から2018年の期間のデータを用いて分析したものだ。電子政府サービスの利用率に影響を与える要因として、提供サービスのレベル(国連の評価を利用)、政府への信頼度、教育レベルなどを分析した。

その結果、他の変数と並んで「政府への信頼度」も電子政府サービスの利用率と正の相関があることが明らかになった。

しかも、27か国を利用率によって3グループに分けて時系列で分析した結果、利用率が低調な国々は、もともと政府への信頼度が低く、しかも利用率が多少上がっても、その期間に政府への信頼度はさらに低くなっているという結果であった(この期間は全体的に政府への信頼度が低下したが、下位グループは顕著に低下している)。

これらの分析だけでは信頼度を上げれば利用率が上がるのか、利用率が上がれば信頼度が上がるのか、その因果関係は立証されていないが、論文中で指摘されているように、この2つの要素は双方向であり、循環的な構造となっている可能性は充分あるだろう。

便利で使いやすく、国民の期待に応える(あるいは期待を超える)サービスを提供し続ければ、国民の政府への信頼も高まる可能性はある。また、日頃から政府への信頼度が高ければ、政府が提供したサービスを利用する国民も増えるかもしれない。

逆に、信頼度が低ければ利用率も伸び悩み、それがさらに信頼の低下を招くという悪循環になる可能性もある。

そもそも「信頼」とは何か

ところで、そもそも「信頼」とはどのような概念だろうか。

信頼は経済学、法学、社会学、情報工学など様々な学問分野において取り上げられる概念であるが、それらを網羅的にレビューした研究によると(注)、共通するところは「他人の意図や行動に関するポジティブな期待に基づき、脆弱性(Vulnerability)を受け入れる」という考え方だとされている 。

つまり、政府がきっと自分たちのことを考え、自分たちにとって良いことをしてくれるだろうという「ポジティブな期待」を持ちながら、万が一期待通りにならなかったとしても、それを受け入れることができる状態である。

特に現代において重要なのは、後半の「期待通りにならなかったとしてもそれを受け入れられる状態」にあるという点ではないだろうか。というのは、コロナ対策のように対応の難しい政策には、唯一の正解があるわけではない。また政府の電子サービスは法的にもリソース的にも制約があり、完璧なものではない場合もある。仮に不満が残る場合でも、政府が知力を尽くして検討したものであるということに確信が持てれば、信頼を維持することができる。

必要なのはコミュニケーション力

これらの研究から言えることは、「政治は結果だ」という考え方に対して、結果を出すためには信頼の問題を軽視してはならないということである。そして、現代において信頼の源泉は、結果に加えてコミュニケーションの比重が高まっているのではないかと考えている。

もちろん、結果を出し続けることによって信頼を高めるという戦略もあるし、合理的な政策をスピーディに打ち出すことはこの危機下において必須であることは言うまでもない。しかし、不確実性の高いVUCAの時代において、合理的と思われる政策を採っても、結果が期待通りにならない場合もある。

そのような時に、政府が今何を考えているのか、なぜそのような政策を採っているのか、あるいはなぜ他の政策を採用しないのか。そういった論点について、丁寧にメディア等を通して国民とコミュニケーションを取れるかどうかで、政府への信頼度は変わってくる。

先行研究に基づけば、そうしたコミュニケーションに基づく信頼は、政府がこれから提供するデジタルサービスの成否にも大きく影響するのではないだろうか。誰が次の総理大臣になるにせよ、デジタル庁に登用した多くの能力豊かな人々が活躍するためにも、政府への信頼の問題を今一度考える機会としてはどうだろうか。


(注)Denise M. Rousseau, Sim B. Sitkin, Ronald S. Burt, Colin Camerer (1998) Not so different after all: A cross-discipline view of trust. Academy of Management. The Academy of Management Review, Vol. 23, No.3, pp.393-404.





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