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「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのでしょうか?」アルバート・アインシュタインより心からの友愛の念を込めて:考察編

どうしたら戦争はなくなるのか

第2次世界大戦前夜、国際連盟の提案でアルバート・アインシュタインとジークムント・フロイトは「どうやったら戦争をなくすことができるのか」について議論をした。前稿では、その内容について簡単に紹介した

アインシュタインは、戦争の原因は人の心にあるとして、それは破壊の衝動が本能としてあるためだと述べた。それに対し、フロイトは、文化を発展させ、知性を高めて、破壊の衝動を内向きのベクトルである良心に変換することで、戦争はなくなっていくだろうと仮説を立てている。

しかし、それから90年が経っても、私たちは戦争をなくすことができるほど文化を発展させることができていない。それどころか、戦争や内戦は世界のどこかで常に起きており、テロ行為は世界中のどこであってもいつ起きても不思議ではない状況だ。そして、2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻している。

養老孟子氏による解説

講談社による翻訳本では、解説として脳科学者である養老孟子氏が寄稿している。そこで養老氏は2人の言説に同意をしているうえで、扱われなかった3つの事柄について言及している。

1つ目は、政治に関する事柄だ。しかし、このことは意図的に触れないようにしているのであろう。政治は政治家の領分であり、学者の領分ではない。特に、90年前の当時では尚更、学者が政治に関わらないという考え方が強かっただろう。

2つ目は、人口に関する事柄だ。産業革命以降、急激に世界人口が増えている。そして、増える若者の受け入れ先として軍隊が大きな役割を担った。マスケット銃が登場してから第2次世界大戦が終わるまで、戦力は単純に兵隊の頭数が多い方が有利だった。独ソ戦に勝利したソ連の戦死者は、敗北したドイツの5倍以上だ。軍隊は経済が許す限り拡大し、軍隊が大きくなることで戦争の危険度が高くなる。

3つ目は、90年前にはなかったものであり、養老氏は最も重要な事柄だと述べている。情報とIT技術だ。IT技術によって、私たちの生活や社会は大きく変わった。養老氏は、特に社会システムがまったく新しいものに変質したと述べている。それは、それまで自然発生的に生まれてきた社会が、アルゴリズムに従って創られるようになった。アルゴリズムに従うということは、合理性や効率を求めて、計算して創られるという意味だ。

アルゴリズム的なシステムが優越する社会では、計算通りに物事が進むことが望まれる。「やってみなければわからない」という、いちかばちの賭け事は忌避される。戦争はリスクの高い賭け事だ。勝つことができるかどうかは計算することができない。古代中国では、勝ち戦だったのに自分の戦車の御者にだけ豪勢な食事を振舞わなかった将軍が恨みを買い、戦車を暴走させられて敵軍に捉えられた故事がある。何が起こるかはわからない戦争は、アルゴリズムに従う社会では嫌われる。

養老氏は、新しいシステムが成立しつつあるとき、それに参加できないコミュニティは不利益を被ると述べている。それらのコミュニティは、以前通りの生活を続けているだけなのに、外部の事情で強制的に不利益を被ることになる。ちょうど、今の社会のDXのようなものだ。従来通りのアナログでいるだけで不利益を被る。しかも、アルゴリズム的な社会のように、新しいシステムが包括的、普遍的であるほど抜け道がない。そして、国や社会の問題になると、新しいシステムに参加できない人々はテロリズムや戦争行為に走る。

新しいシステムに参加できない国をどうするか

90年前の戦争と、現代の戦争は大きく異なる。湾岸戦争では、はじめて衛星通信で全世界のテレビに戦争の様子が映し出された。多くの一般の人々が、戦争の悲惨さを知ることができるようになった。911(アメリカ同時多発テロ事件)では、テロ行為がリアルタイムで全世界に配信され、インターネット上はテロリストのプロパガンダであふれた。そして、今回のウクライナ侵攻では、ウクライナの人々の悲痛な叫びと惨状がSNSで拡散され、世界の多くの人々が非難の声を上げている。

ロシアは、残念ながら現代の新しい社会システムに参加できたとは言い難いだろう。ソ連時代の同胞が次々と新しい社会システムに移行するのは受け入れることができなかった。そして、世界にはIT技術の進歩からくる新しい社会システムに参加することができていない国や社会、コミュニティ、個人がたくさんいる。私たちは、このような新しいシステムに参加できていない人々に対して、追い詰めることなく、建設的な関係となるように接する方法を模索していく必要がある。




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