生活のどこを切り取ってビジネスにするか。
ふと、日経新聞の電子版でエアコンと検索してみた。エアコン業界に馴染みがあるというわけではなく、強いて言えば、「新しいオフィスにエアコンでもつけるか」と思ってたからかもしれない。検索してまず感じたのは、色々な記事があること。いくつか読み進めると、頭のスイッチが入り始めた。「対価を頂く価値」には広がりある。色々なもので「価値の広がり」をみたら、妄想力が鍛えられるのではと少し楽しくなってきた。
まずは、アイリスオーヤマの王道のやり方。引き算で「実」をとるだ。エアコンに限らず、家電や車などは搭載している機能が盛り沢山だ。おそらく、誰もが手放すまで知らなかった機能があるのではないだろうか。アイリスオーヤマはそこに着目して、後発でも収益があげられる事業に仕立てている。ウィルスやカビを取り除く高性能フィルターを独自開発して搭載、自動で掃除してくれるロボット機能をなくして価格を抑えたというわけだ。
ダイキンは、コロナ禍で発生した換気という新たなニーズを、スピーディに商品化して収益を大幅に伸ばしている。エアコンは室内の空気を温めたり、冷やしたりする。普通なら換気をすると、外の温度の違う空気が混ざるので、エネルギー効率は悪くなると考える。だからエアコンは室内の空気を取り込んで、再び室内に戻すのが当たり前だった。ダイキンはこの常識を覆して、「換気ができるエアコン」を全面に打ち出したのだ。室外機から取り入れた空気を搬送ホースで室内機に送り込んで使っている。ダイキンの凄いのは、今後2年間で30種類を超える換気機能付き空調を市場投入するところだ。詳しくは説明しないが、モジュール部品の組み合わせで多様な商品を開発する手法論を手の内にいれたのだと思う。計画通り、3倍のスピードでの開発が実現すれば、大きな競争力になるのは間違いない。
ここまでは家庭用のエアコン1台の話だった。シャープは介護施設での多数のエアコンの利用に目をつけた。各部屋に取り付けた機器の調整は介護スタッフの大きな負担となっていたのだ。シャープのシステムは、エアコンや空気清浄機を遠隔管理できるものだが、ナースコールを手がけている平和テクノシステムとの協業で、介護スタッフの目線で利便性を大きく高めたのが特徴だ。エアコンの販売のみならず、運用でも儲けていこうという動きだ。
三菱電機でも複数のエアコンを連携させて快適なオフィス空間を生み出す取り組みを進めている。「別置ムーブアイコントロールユニット」を購入して後付けすれば、既設のエアコンのコントロールを自動制御したり、可視化された室内の温度分布をみながらスマホで調節できる優れものだ。レトロフィットでの機能増強で稼ぐといったところだろう。
ハウスメーカーの立ち位置は、エアコンは住宅設備の1つというものだ。スマホからの遠隔操作で、エアコンや照明の操作だけでなく、玄関も施錠できるというものだ。個別の商品は既に市場にも出ているが、それらを統合して使えるという便利さを訴求している。スーパーアプリなどと似ている発想だが、様々なサービスを束ねるという発想はこれからも重要になってくると思う。
イーロンマスクは、テスラを電気自動車の会社ではなく、エネルギーソリューションプロバイダーと言っている。既にソーラーパネルや蓄電池事業をやっているので確かに頷ける。家庭用エネルギー管理システム(HEMS)で存在感を示してくるのもそう遠くの話ではないような気がする。そして、家庭の中で電力消費の多い設備はエアコンだ。なのでエアコンの制御は省エネにとって重要なのは間違いない。ただ、テスラは、エアコン単体での効率性にはとどまらない仕掛けを必ずしてくると思う。瞬間消費電力の大きい設備の稼働や蓄電池に溜めた電力量を見ながら、エアコンの出力を調整したり、簡単に色々な設備を管理システムに繋げる仕組みをつくったり・・・。いったいどんな次の一手を出すかがとても楽しみだ。
ウェザーテックからの参入もある。ウェザーニュースは、表舞台でなく、テック企業として次世代家電などでの「黒子」を目指している。例えば、エアコンに花粉の飛散量予測データを提供して、外気の汚れに応じたフィルターの自動清掃に貢献するという。便利な機能だ。また前述のダイキンの換気エアコンもあることから、大気中の花粉量などに応じて外気の取り入れを調整するエアコンなどはすぐにでも商品化されそうだ。異業種が連携するオープンイノベーションの典型例だと思う。
最後の記事は、効果の可視化による安心感や納得感の醸成だ。通常、空気の流れは見えない。だから5分間で空気が全て入れ替わりますと言われても、なかなか分かりづらい。MR技術で空気の流れを可視化すれば、それ自体に価値を認める人は間違いなく存在するだろう。定期的に可視化すれば、空気品質の維持といった価値も生み出せるかもしれない。デジタル技術の可能性は広がるばかりだ。
ここまで見てきたように、エアコンやその周辺では様々な生活の切り取り方でビジネスが組み立てられている。良い製品を作れば売れた一昔前とは大違いだ。今回はエアコンの話だったが、どんな製品でも切り取り方、周辺を巻き込んだコトづくりの領域は様々だ。隙間時間に記事を検索して多様な生活の切り取り方を実感してみるのはどうだろうか。ステイホームのゴールデンウィーク。自分の業界とは異なる分野の検索ワードで試してみて欲しい。
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