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最低時給労働から脱するファミリービジネスの海外起業トレンド

 米国のコロナ禍以降の起業トレンドでは、女性の新規開業者が多いのが特徴である。 最低賃金近傍で働いている労働者の男女比をみても、女性の割合は7割近くを占めており、感染拡大する中でも必要不可欠な仕事として「エッセンシャルワーカー」と称された職種での低賃金率が目立つ。小売業の販売員、ウェイトレス、看護助手、家政婦、調理師などの仕事は、長年のキャリアを積んだとしても時給の中央値は10~12ドルの水準で、そこから賃金が飛躍的に上昇することはない。

これらの職業は、仕事内容に対する報酬が過小評価されており、「エッセンシャルワーカー(必要不可欠な労働者)」という呼び方は誤りである。逆に低賃金の職場から逃れられない苦しみを与えているという指摘もある。そこに気付き始めたワーカーの中から、起業を目指す人達が増えている。

米国では、低賃金で働くラテン系労働者の中から、インフレによる生活費の高騰を理由に、自分のビジネスを手掛けるケースが増えている。彼らは、米国内で約6000万人いるラテン系消費者をターゲットにしたビジネスを展開しているのが特徴で、米国でいま最も成長している起業家層になっている。

ラテン系オーナーが手掛ける事業は、年商100万ドル未満のスモールビジネスが主流で、家族経営からスタートして軌道に乗り始めると数名のスタッフを雇用するケースが多い。これには、ラテン系起業者は白人と比べて信用力が劣るため、金融機関からの借入が難しいことも関係している。

その中で、小売業や飲食業にチャレンジする起業者が多いが、オンラインツールを上手に活用しているのが特徴だ。たとえば、ロサンゼルスを営業拠点としている「Pink and Boujee」は、両親と共に生後9ヶ月でメキシコから米国に移住したイェセニア・カストロという女性(25歳)が経営するフードトラックで、ドラゴンフルーツとビートの自然素材により、ピンク色の生地でアレンジされたタコス料理を看板料理としている。

フードトラックの集客には、ソーシャルメディアのTikTokが活用されており、料理のショート動画を頻繁に投稿することでフォロアー数を4.5万人にまで増やしている。現在は来店客の9割がTikTokルートとなっている。なお、フードトラックを購入する前には、ファーマーズマーケットに出店することで開業資金を稼いでいる。

Pink and Boujee
pinkandboujeela TikTokアカウント

【家族経営による自宅開業モデル】

 自宅からできる副業として、米国ではハンドメイド作品販売のプラットフォームEtsyの人気が高く、9000万人が会員登録をしている。Etsyマーケットプレイスに出品された商品の売上高は、2019年には49.7億ドルだったが、パンデミック後は大幅に取引件数が伸びて、2021年は134.9億ドルとなった。これは、マスクを中心とした感染対策グッズの購入者が急増したことが理由である。
Etsyセラーとして成功している出品者は、平均で年間43,000~46,000ドルを稼いでおり、時給10ドル前後で会社に勤めるよりも、高収入を得られることが実証されるようになっている。Etsyの中で成功するには、どんな商品が売れているのかをリサーチして、そのトレンドに合った作品を制作していくことが重要になる。

その中でも、2012年にベトナムから米カリフォルニア州南部のオレンジカウンティに移住した ケイト・キムという女性が運営する「Caitlyn Minimalist」というEtsyアカウントでは、注文者のネームやメッセージを刻んだネックレスやブレスレッドなどのジュエリーをハンドメイドすることで、現在は月間32,000ドルを超す売上がある。

1アイテムあたりの価格は、百貨店のジュエリーショップよりも1桁安い30ドル前後から注文できるようにすることで、誕生日、出産記念、結婚記念日、亡くなった親のメモリアルアイテムとしての注文が増えていった。新規客の4割はリピーターとして再注文をしている。開業当初はケイト氏と夫、妹、母親の協力による家族経営でジュエリーの制作から、受注、発送作業までを行っていたが、売上の上昇とともにスタッフを増やし、現在は30人規模の体制で運営されている。

起業への取り掛かり方として、まず妻がスモールビジネスを立ち上げて、それをサラリーマンの夫がサポートする。事業が軌道に乗り始めれば、夫も会社を辞めて家族経営のビジネスを徐々に拡大していくスタイルは、低い時給ベースの仕事から抜け出す道筋として、米国では定着しはじめている。コロナを転機として、家族で過ごす時間が増える中、ファミリービジネスの形態は世界的に見直されるようになっている。

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