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コロナ危機とパーパス経営

企業は株主還元のみならず、社会、環境、従業員に配慮した長期的価値を創りださなければいけないというアジェンダは、コロナ危機の前から主張されていたものだ。

世界的な感染症の爆発的拡大により、この声は一気に強まった。なぜか?医療や環境問題といった社会的な課題は、アニマルスピリットにもとづく営利追及の中で自然に片付くものではないことが露になったからだ。

<SDGゴールとやらされ感>
国連が2015年に採択したSDGゴールは、このための枠組みを提供し、業種も地域も規模も異なる企業群に対し、よりサステイナブルな将来へ向かって足並みをそろえる効果がある。

しかし、個々の企業が、SDG17項目をあたかも「宿題」のようにとらえると、統合報告書には横並びの施策が並び、「やらされ感」さえ漂う始末になってしまう。枠組みに沿った行儀のよい回答を心掛けるだけでは、長期的価値の表面をなぜているに過ぎない。

<長期的価値とパーパス経営>
では、企業がそれぞれ長期的価値に正面から向かい合うには、何から始めればいいのだろうか?

第一歩は、その企業が社会に存在する意味を問うことだろう。パーパス(目的)経営と呼ばれる「なぜ」を重視した経営は、危機に動じない羅針盤を持つと言える。

私たちは「なぜ」存在し(目的)、何を「目指し」(ビジョン)、「どのように」(行動規範)、「何をする」(ミッション)のか?

これらの問いに対する企業の首尾一貫した答えが、長期的価値の核心にある。目的、ビジョン、行動規範とミッションが浸透した組織であれば、危機に際して応答が早い。目的がはっきりしていれば必要な行動が浮かび上がるからだ。

例えば、小売業が社会的弱者を救うため、店舗に高齢者優先時間帯を設けた事例がある。揺るがない目的があれば、トップから現場まで、付け焼刃ではない行動が出来る。

<日本企業の課題>
コンサルティングを通じて感じる日本企業の傾向は、後半の行動規範とミッションを即答できる一方で、前半の目的やビジョンの考察に弱いことだ。この考察無しに、SDGゴールだけを「後付け」で満たそうとすれば、無理が生じてくる。

例えば、日本企業の行動規範 とミッションの典型例は、「誠実に(行動規範)」「良いものを安くお客様に届ける(ミッション)」というものである。現場に受け入れられやすいこの精神を否定するものではないが、成熟経済の時代に、やや金属疲労は否めない。例えば、「良いもの」とは何か?世の中の標準が上がり、新興国メーカーも国産とそん色のない品質を出せる時代に、この解は難しい。

さらに、前半の目的とビジョンを明快に示すためには、世の中をどう読むかという一定の思想が必要だ。例えば、「世の中の複雑性は増すばかり」だから、「情報を整理するために」存在する。または、「価値観の断絶が深まる」世の中に、「いろいろな選択肢が共存できることを示すために」存在する、というように。

<パーパス経営と差別化>
企業が社会の公器である限り、反社会的な目的はあり得ない。しかし、目的の背後にある思想は多彩で、必ずしも10人が10人賛成するものでなくても良いと私は思う。また、同じ業界だからと言って、同じ答えが出てくる必要もない。大切なことは、経営陣が自社の歴史と置かれた環境の見通しを熟考し、納得のゆく答えを出すことだ。

企業の根幹思想は、長期的価値を生む源泉であり、さらに差別化要因となる。労働市場はより流動化し、個人と雇い主の関係はフラットになりつつある。このとき、企業を選ぶレンズとして、自分が共感できる思想を持っているかどうかは重要な尺度となるだろう。もちろん、消費者やコミュニティとして応援できるかどうかも、左右される。

個人にとっても企業にとっても、コロナ危機は、自己洞察の機会でもある。立ち止まり、将来に通じる精神的な羅針盤を立て直す好機ではないか。

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