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「大黒柱バイアス」よ、さようなら。

先日、日経新聞に取材いただいた記事が掲載された。

NPO法人ファザーリング・ジャパンの理事を務める複業研究家の西村創一朗さんは、男性が稼ぎ頭として家族を支えるという固定観念を「大黒柱バイアス」と呼ぶ。

高度経済成長期の間、日本では男性は会社で長時間働き、女性は家で家事や育児を担うというライフスタイルが効率的とされた。だが今や共働き世帯が専業主婦世帯を上回り「男性ひとりの収入で家族を養う」スタイルの家庭は少なくなった。それでもなお「男性は一家の大黒柱であらねば」とする意識は根強い。

西村さんは「今は複数の柱で家庭を支える方が合理的だ」と説明。「大黒柱バイアスは男性自身を苦しめるだけでなく、家族の選択肢を狭める可能性もある」と話す。例えば育休をとりづらいと感じる男性も「無意識の内に大黒柱バイアスを持っているのではないか」と指摘。そのうえで「男性を固定観念から解き放ち、仕事や家事・育児を夫婦それぞれの望む形で分担することが重要だ」と話す。

筆者のコメントはさておき、実際に「大黒柱バイアス」に悩み苦しんできたパパ・ママたちの生声もあいまって、各所で共感を呼んだ。

「大黒柱バイアス」という言葉を公の場で初めて用いたのは2年前、国際男性デーに開催されたトークイベントに登壇した際にこう話した。

「仕事をして子ども養うべきという男性の生きづらさを『大黒柱バイアス』と呼んでいるのですが、このバイアスから解き放つことが大事です。今の時代は、仕事も育児もやりたい人がやりたいだけやるべきだと思っています。

男性は『父だから』や『大黒柱だから』という生きづらさを抱え込まずに、ここが苦しいとパートナーに伝えてほしい。それは会社の上司に対しても同じで、言っていかないと変わりません」

「大黒柱バイアス」は、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の一つだ。

未だに「家事・育児は女性がやるものである」といった無意識の偏見があるように、男性に対しても「男たるもの、一家の大黒柱として主たる収入を稼ぐべし」という無意識の偏見が残っている。

「ジェンダーギャップ120位」というショッキングなニュースが話題になった通り、日本のジェンダーギャップは世界ワーストクラスだ。そしてその要因は、「家事・育児は女性がやるものである」という価値観がまだまだ根強い。その結果として、日本の男性の家事育児分担率は諸外国と比べても著しく低い。家事育児もメインでこなしつつ、職場でもバリバリ働いて昇進する、だなんてどう考えても無理ゲーである、

前田晃平さんの著書『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』にも書かれている通り、女性活躍を進めるためにはパパの家庭進出が欠かせない。
(そもそもすでに家庭にいるのだから「家庭進出」という表現は不適切では、というツッコミもあると思うが、事実、家事育児を主に担っているのはママで、パパはほぼノータッチという家庭がまだまだ多いので、「家庭進出」という表現はあながち間違いではないと思っている。)

一方で、パパの家庭進出を阻むものがある。それが「大黒柱バイアス」だ。

「男たるもの、一家の大黒柱として主たる収入を稼ぐべし」という価値観が、会社の上司や同僚、両親や妻、そしてパパ自身にもまだまだ色濃く残っているのが現状だ。

「育休を1年間取りたい?それはもう出世は諦めるってこと?」

そんなことを言われたり、言われなくても「そう思われたらどうしよう」など考えているうちに、「ま、育休を取らなくても子育てはできるしな…!」と育休取得の相談すらままならないまま、育休を取らないという判断をしてしまう。そして結局そのまま仕事の忙しさにかまけて家事育児はママに丸投げする日々。休日だけ子どもと遊んだりお出かけしたり、「俺、子育てしてる~!」と一人でやったつもりになるものの、ママからは「パパはいいとこ取りでいいよね」と嫌味をチクリと言われてムッとしてしまい、夫婦の溝は少しずつ広がっていく。

そうして、パパは永遠に「家事育児検定初級」から抜け出すことなく、家事育児の主力はママのまま。その結果、ママは昇進やキャリアアップを諦め、その代わりに家計の主たる収入を稼ぐ責任はパパが背負い、仮に起業や独立、転職に挑戦したい!と思ったとしても、「そうは問屋が卸さない」とばかりに「嫁ブロック」を受けてやりたい仕事を断念して、給料を稼ぐために粛々と働くATMと化していく・・・。

…というのはもちろんフィクションだが、これに近い状況に陥っているご家庭・ご夫婦は山ほど見てきた。

なぜこうなってしまったのか?やはりその発端は「大黒柱バイアス」にある。

あの日あの時、「大黒柱バイアス」の呪縛から自らを解放して、夫婦できちんと話し合い、長い目で見て、家事育児の負担もしっかり分担する代わりに、収入面についてもどちらか片方に過度に依存せず、それぞれの仕事できちんと稼ぎ続ける「共働き・共育て」によってリスクを分散するほうが良いよね、ときちんと合意して上司や人事に相談ができていたら。

「大黒柱バイアス」にとらわれて、結果的に後悔する選択をする人や、本人の選択肢を減らす余計な一言を言ってしまう人が減りますように。

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