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「評価」「給与」「経験」の3つの格差が、女性管理職登用を遠ざけている? 不公平感、不平等感がやる気の阻害要因に。

皆さん、こんにちは。今回は「女性登用」について書かせていただきます。

2022年10月に、サイバーエージェントの新執行役員体制が発表され、女性の執行役員が新たに3名誕生し、全執行役員のうち18%が女性社員という新体制で臨むことになりました。これは、数年前から女性活躍を推進してきた中で、大きな前進であると思っています。

一方で、世の中的には「ジェンダー・ギャップ指数」が146カ国のうち日本は116位と、まだまだ遅れをとっている状態です。

各企業の女性管理職育成が課題となる中、何がボトルネックになっているのか、そして一気に推進していくためには何が必要なのかを改めて考えてみます。

■女性が管理職を希望する理由・希望しない理由

日経ウーマノミクス・プロジェクトが7月中旬から8月上旬に実施し女性1193人から回答を得たアンケートでは、男女の社会的役割の偏りのほか企業の評価制度や賃金体系がネックになっているとの回答が目立った。

実際に管理職になる、またはならないパターンとしては、大きく分けると以下の4つです。
① 「管理職を目指していて、希望通り管理職になった」パターン
② 「管理職を目指しているが、まだなっていない」パターン
③ 「管理職を目指していなかったが、管理職になった」パターン
④ 「管理職をそもそも目指していなく、実際にもなっていない」パターン


個人の意思や個別の事情もあるため、一概にどのパターンが正解で、どのパターンを増やすことが企業が目指すべき姿であるとは言い切れません。

ただ、②及び③に該当するパターンを企業側の努力によって改善、あるいは介入する余地が多分にあるのではないでしょうか。①のパターンは本人の意志もあり、企業側も管理職に既に登用できているケースですので、管理職になりたいという希望を持つ社員をいかに増やすかという問題はあるにしても、比較的簡単です。④のパターンは、本人が望まず、企業側も組織戦略上、必ずしも全員に管理職の役割を担ってほしいわけではないので、特に何か手を打つ必要はありません。

「②管理職を目指しているが、まだなっていない」パターンの場合は、

思い切った抜擢→タイミングを逸せず、まだ早いと思うくらいで抜擢する(その後のフォローも重要)
プレマネジメント経験機会の提供→重要な役割を担う機会や人を育成する機会を提供する
ある程度の競争環境の提供→他者と刺激し合いながら切磋琢磨してレベルアップする場を提供する

「③管理職を目指していなかったが、管理職になった」パターンの場合は、

管理職の仕事に対する不安を取り除く→業務の難易度の高さや男性中心で抵抗感があることへの不安を取り除く
仕事と家庭との両立不安を取り除く→働き方や残業時間などに対する不安を取り除く
個人の将来のキャリアイメージを一緒に描く機会を作る→新しい視点や選択肢を提供する

などの手法が有効ではないでしょうか。

「キャリアイメージを一緒に描く」というのは、たとえば「個人のスキルや能力を伸ばしていく延長線上に、管理職の仕事を自然と意識してもらう」、または「管理職の仕事の面白さややりがいを実際に感じてもらえるような機会を作る」などです。

記事には、管理職を希望しない理由として

・私生活と両立できない
・残業時間が増える
・管理職への成長機会がなかった
・男性中心で抵抗感がある

とありましたが、上記のポイントを踏まえると、このような意識を変えてあげられる可能性が十分にあります。

その上で、記事にあるように企業の評価制度や賃金体系など、社内のルールや規律、基盤や仕組みをどのように変えていくかで、ここに該当する多くのボリュームゾーンを一気に引き上げることが可能になるのかもしれません。

■「評価」と「給与」の格差

では、具体的に「評価制度」や「賃金体系」の見直しが本当に必要なのかについて考えてみたいと思います。

「性別による賃金差の改善が必要」「評価制度を見直すべき」という声の中には、

・同じ年次で、男性の賃金が女性の2倍くらいという事例がある
・育休が長引くと昇進が遅れて賃金差が開いていく
・転勤できるか否かによって賃金の差が生まれる
・同じ年次で同じ成果を出した場合、生産性の観点は評価に反映されない
・人事評価に関わるようなプロジェクトで出産適齢期の女性社員に配慮してあえてチームから外す上司もいる

などがあり、実際に男女の給与格差や評価格差が生じていて、それによって女性社員のやりがいやモチベーションを奪ってしまっていることが大きな問題点として挙げられます。「性別に関わらず“成果”で評価をするような評価制度を導入している」「性別に関わらず“配置・配属”をしている」という企業は、調査結果上は決して少なくありません。むしろ、制度としては整備されているように見える企業は年々増加しています。

ただ、制度が変わっていても運用方法が変わっていないケースが多かったり、事例がまだ少なく社員が変化を感じられるに至っていないというのが実情のようです。

こちらの記事には、

「年齢」「性別」「勤続年数」の3項目と、25項目のコンピテンシー(成果を上げるための行動特性)の計28項目について、基本給に与える影響を分析した。影響度合いが最も大きかったのは年齢以下、勤続年数、性別の順で、コンピテンシーは最も大きい「情熱・宣教力」で4番目だった。以下「組織へのコミットメント」「感情コントロール」「耐性」が続く。
厚生労働省の分析でも、男女間賃金格差の要因として大きいのは「役職」「勤続年数」「労働時間」の順だった。長時間労働と年功序列による賃金体系が今も続いていることがうかがえる。このままでは格差解消どころか年功序列型賃金体制から抜け出すこともできない。

とあります。

男女で「外交性」「共感・傾聴力」「創造性」「個人的実行力」「地球市民力」「課題設定力」などのコンピテンシーの違いが見られ、これらは女性の方がスコアが高いにも関わらず、基本給に与える影響は軽微のようです。これは、能力やスキルを軸に評価が行われているわけではなく、「役職」や「勤続年数」、「労働時間」が賃金体系に与える影響が大きいことを示しています。これでは男女間の評価差・賃金差を埋めることは難しいでしょう。

賃金格差の是正を進めるためには、たとえば、

各企業が求めているコンピテンシーを評価制度に導入して、給与と連動させる(格差が出にくい)
・従来の年功序列型賃金体制を廃止することが難しければ、まずは「労働時間の長さ」と評価とを連動させることを一切廃止する。(生産性の指標を導入する)
「女性管理職比率」以外に、「一定期間の昇進・昇給者に占める女性の割合」や「女性採用比率」「女性定着比率」などを指標化する
賃金格差が生まれている理由を明確にし、実際のアクションプランとセットで対外的にもオープン化する

などが必要です。

男女別の賃金開示が義務づけられている今(※従業員301人以上)、役職や勤続年数の影響が大きい大企業ほど、男女の格差が出ることは明らかです。そのような構造になっているのはその企業単体の問題というよりは、日本社会全体が男性を中心とした構造になっているためであって、まずは現実を直視し、この格差をどのようなアクションによって変化させていくべきかを考えていかなければなりません。

人的資本経営への関心が高まっている今こそ、あらゆる人事情報の開示を契機に、評価制度や賃金体系、働き方などを見直し、格差是正に向けた具体的な道筋を示していくことが重要なのだと思います。

■「経験」の格差

女性管理職登用について数値目標を設定するかどうかについては、「数値目標をあえて設定しない」という企業もあれば、「数値目標だけを追っていくと実力のない女性まで登用することになる」と考え、二の足を踏む企業もあります。いわゆるマミートラックといわれるような、出産や育児でキャリアが停滞してしまう問題があるように、育児休業から復職した女性社員が職場で期待されない存在となり、重要なプロジェクトから外され、結果的に昇進を望めなくなったという事例は現在も少なくありません。

引用した記事の中には、

パーソル総合研究所の調査によると、上司は男女ともに子どもがいる女性部下には期待をかけない傾向がある。小林祐児上席主任研究員は「子どもの有無による好意的な差別によって、部門横断プロジェクトへの参加や新規立案など管理職になるにあたって重要な、いわゆる『修羅場経験』が男性に偏ってしまう」と指摘する。

とありましたが、「修羅場経験」こそ、性別や年齢問わず、社員が成長していくための大きなステップとなります。

女性に意図的に成長機会を提供しない上司がいるのであれば、まずは上司側の認識を変えていく必要があるのは明白ですが、男性上司に女性の管理職登用が進まない理由を尋ねると、一番多い答えは「管理職になりたがる女性社員がいない」というものです。

女性管理職がなかなか増えていかないのは、女性自身の「意欲」の問題だけではなく、その意欲を阻害してしまうような組織の構造的な問題があるからです。そのような構造的な問題にまで踏み込んで、女性の意欲を引き出そうとしている企業は実は非常に少ないように思います。

「修羅場経験」というと、

新しい領域の仕事にチャレンジする経験(部門を跨ぐ大きな異動など)
既存領域においてこれまで以上に大きなプロジェクトやミッションにチャレンジする経験(これまで習得してきた能力や経験だけでは乗り越えられないような経験)
自分自身の責任領域を拡大していく経験(昇進による責任や権限の拡大)

などを指しますが、こうした経験が男性に比べて少ないことが「経験格差」を生み出し、さらには女性のキャリアに対する意欲までをも阻害してしまっているのです。

このような経験格差を是正していくためには、会社の「制度」を整えるだけでは不可能です。性別問わず、責任のある仕事やジョブサイズの大きな仕事を積極的に任せていくような「企業風土」が必要なことはもちろん、ダイバーシティ経営の重要性を理解し推進していく「上司」の存在こそがカギとなります。

10月から「産後パパ育休」の導入が開始されるなど、働き方を変えて「もっと家庭に積極的に関わりたい」という男性社員も増えている時代です。女性のキャリアへの意欲を高めるのも、あらゆる社員の価値観に寄り添い多様な働き方を支援するのも、上司の存在や影響力は大きいはずです。

上司自らが、ダイバーシティ推進の目的や理由を明確に理解し、具体的に何をどのように変化させていけばいいのか、何から改革していけばいいのかを考え、実際に行動に移していくことが、結果的に女性管理職を増やす大きな一歩につながっていくと思います。

■女性活躍推進は、地道な取り組みの積み重ね

最後に、冒頭でも触れた通り、世界経済フォーラム(WEF)が発表しているジェンダーギャップ指数によると、日本は146カ国中116位で、主要7カ国(G7)では最低ランクが常態化しています。

「登用したいがポストに見合う女性がいない」という場合は、社員の育成計画をしっかり立てて時間をかけて実行していくか、外部からポストに見合う人を採用するしかありませんし、「女性がリーダーになりたがらない」という場合は、前述した通り管理職の仕事に対する不安や、仕事と家庭の両立にあたっての不安を取り除く工夫や施策を講じないと、他の先進国との差がさらに広がっていく一方です。

さらに、「リーダーに向いていない」という女性本人や周囲の無意識の偏見を取り除く研修を実施したり、男女問わず社員に成長機会を提供する上司の意識を変えていく取り組みなども重要です。生産性を重視した働き方や評価制度に変更したり、女性に集中する家事・育児分担を分散させるために男性の育休取得促進などを促すことも解決策の一つになり得ます。

いずれにしても、何か一つの制度や施策によって、急激に女性の活躍が推進されるわけではなく、地道な一つ一つの取り組みが欠かせないのです。

「キャリアアップ施策の推進」「成長機会の提供」「管理職のキャリア開発」「ロールモデルとなる人材の育成」「既存の管理職や経営層の意識改革」「組織風土の改革」「昇格基準や評価基準の明瞭化」「仕事と家庭の両立支援」など、もっとできること、やらなければならないことは山積みで、その積み重ねによって初めて、女性が企業におけるあらゆる場面で活躍する姿が多く見られるようになるのではないでしょうか。


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