見出し画像

霞が関と本石町の「文章の書き方」

景気が良いのか悪いのか、これではよく分かりません。いわゆる霞が関文学の典型例ですね。政府が12月20日に発表した、月例経済報告の総括判断です。

輸出が引き続き弱含むなかで、製造業を中心に弱さが一段と増しているものの、緩やかに回復している。

経済の弱さを重ねて指摘しつつ、しかも緩やかとの条件付きで、景気は回復しているそうです。11月は「輸出を中心に弱さが長引いているものの、緩やかに回復している」だったので、トーンがさらに下がっています。そんな無理して「回復」を残さなくてもいいじゃないか、と普通は思います。

表現を曖昧にして、解釈に幅を持たせるという霞が関文学は、政治に常に振り回される官僚の自己防衛テクニックなのでしょう。私は仕事柄、この文体に慣れてしまいましたが、12月の月例経済報告を読んで、ああ、これは変な文章なのだと再確認しました。そんなイビツな表現が登場するくらい、足元の景気は怪しいという事です。

最近、この奇妙な表現手法が、霞が関から日本橋の本石町へと感染しています。日本銀行の金融政策方針です。

「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。
「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる。

まず、モメンタムが日本語ではありませんから、はなから幅広い理解を目指していません。モメンタムの直訳は「勢い」ですが、物価に勢いはありません。最新11月の消費者物価(コアCPI)の上昇率は0.5%です。前月に消費税率が2%ポイント引き上げられたのに、0.5%です。前回の消費増税の翌月(14年5月)は3.4%でしたから、その差は歴然としています。モメンタム(勢い)は明らかに落ちていますが、日銀はモメンタムを「勢い」とは言っていないし、「物価の」モメンタムとも言っていません。まさに本石町文学です。

霞が関出身の著名エコノミスト、金森久雄氏は名文家として知られていました。私が新米のエコノミストだった20数年前、職場の先輩に金森氏の「文章の書き方」というコラム(日経夕刊『あすへの話題』1995年3月29日)を紹介していただきました。金森氏が若い頃に旧経済企画庁などの先輩達から教わった「文章の書き方」なんですが、いわゆる霞が関文学や本石町文学とは随分違います。

要約すると「形容詞を使うな。接続詞を省け。意味を明確にしろ。削り代(しろ)を残せ。」ということでした。

最後の「削り代を残せ」というのは、上役は何かしら文章を削るものだから、削られても問題ない個所を残しておけ、という冗談みたいな話ですが、金森氏は「役所には削り代ばかりからなる文章を書く人もいるようだ」とコラムを締めくくっています。

削り代ばかりの文章かどうかは別として、12月の月例経済報告と日銀の文章を読んで、私は金森氏の「文章の書き方」を思い出しました。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

お読みいただき有難うございました。 小難しい経済ニュースをより身近に感じて頂けるよう、これからも投稿してまいります。 毎週火曜日の朝に、記事を投稿しております。

ありがとうございます!
30
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所シニアエコノミスト。日本経済の分析・予測を担当しています。

こちらでもピックアップされています

日経COMEMO
日経COMEMO
  • 14316本

日経が推す各業界キーオピニオンリーダーたちの知見をシェアします。「書けば、つながる」をスローガンに、より多くのビジネスパーソンが発信し、つながり、ビジネスシーンを活性化する世界を創っていきたいと思います。 はじめての方へ→ https://bit.ly/2DZV0XM 【noteで投稿されている方へ】 #COMEMOがついた投稿を日々COMEMOスタッフが巡回し、良い投稿については、COMEMOマガジンや日経電子版でご紹介させていただきます。 https://bit.ly/2EbuxaF

コメント (1)
コメントありがとうございます。
おそらく「緩やかに減速しながらも引き続き拡大している」という91年秋頃の月例経済報告の景気判断ではないでしょうか。
今でもよく引き合いに出されます。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。