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東京オリパラ無観客は今後のインバウンド市場にどう影響するか?

新型コロナウイルスの世界的蔓延によって2019年に5兆円近くあったインバウンド(訪日外国人旅行者)市場は、ほぼゼロになった。2020年4月のインバウンド数は、1964年に政府が訪日外国人数の統計を取り始めてから過去最低となった。この1964年というのは第一回目の東京オリンピックが開催された年である。
2020年、2回目の東京オリンピック・パラリンピックの開催でインバウンド気運はさらに盛り上がりを見せるはずだった。なんという数奇な運命か。
2020年に開催されるはずだった東京オリンピックは1年延期。これも前代未聞も出来事であるが、2021年に開催された東京オリパラは、外国人観客の入国無しを決め、デルタ株の感染拡大が続く中、国内観戦客も、ほぼ無観客で行われたという、これまた前代未聞の大会となった。

そして明けて2022年となったが、新型コロナウイルスはいまだ収束せず、変異株の世界的蔓延で来月2月に開幕する予定の北京五輪についても観客の動員規模についてはまだ決まっていないという。

オリンピック・パラリンピックの訪日外国人旅行者数に与える影響はどのようなものか?

WAmazingは2016年7月の創業である。2015年、訪日外客数は前年比47.1%増の1973万超となり日本が統計を取り始めた1964年以降、最大の伸び率となっっていた。と同時に、スタートアップ企業に流れ込む、いわゆるリスクマネーの額も増大していた。この両方の現象を見た私は、大学卒業から18年間務めた会社を退職し、2016年インバウンド向けスマホ上の旅行会社、WAmazingを創業し独立起業した。スタートアップ起業というのは、急速な成長を目指す特殊型起業なので、成長産業で勝負するのが定石なのだ。
当時、多くの人に、「2020年には東京オリパラだし、いいですね!インバウンド!」と声をかけられた。私は内心「実は、オリンピックって、あまり実誘客効果はないんだよなぁ…」と思いながらも、皆さんは好意で話しかけてくれるので「そうですね。」と同意しながらニコニコしていた。私が考えていた「実は、オリパラはあまり実誘客効果がないので、特に2020年に向けてインバウンド起業したわけではない」というものには根拠がある。
多くのオリパラ開催都市で、開催時期に昨年対比で訪日外国人旅行者数は減少しているのだ。

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上記は、2012年にロンドンオリパラの事例である。
オリパラの開催された第3四半期(7月~9月)のみ、訪英外国人旅行者数は対前年比 4.2%減となっている。他のクォーター期については前年比増である。なぜこのようなことが起こるのか?
観光というのは、キャパシティがある。飛行機の座席も、ホテルの部屋数も一朝一夕に増やせるものではない。オリパラ開催真っ最中というのは、世界中から選手が、関係者が、メディアが、スポンサーが大挙してやってくるため限られたキャパシティがオリパラ関係者により埋められてしまい、かつ価格も高騰する。となると、一般観光客はむしろ訪問しづらくなる。そこまでオリパラ自体には関心がなく、ロンドン観光をしたい旅行者にとっては、オリパラの時期を避けるという行動のほうが自然である。
これが私が従前より「オリパラ時期にインバウンドが急増するということはない」と考えていた理由である。
では、オリパラ開催はインバウンド誘客には無意味なのか?
そんなことはない。オリパラ開催は非常に長期にわたった、その国の世界に対するブランディング効果があることが知られている。

40億人のテレビ観戦者へのプロモーション効果

東京五輪開催直前に無観客を決めた菅首相は、多くの競技で無観客となることについて「世界で約40億人がテレビなどで観戦すると言われている。価値はものすごく大きいと思う」との考えを語っていた。
過去のオリパラ開催国の事例では、この考え方が正しいことをデータが教えてくれている。

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上記は、観光庁のこちらの資料からの抜粋である。
「破線」がオリパラ開催決定年(最初の白丸)を含むそれ以前10年間のインバウンド増加トレンドを示している。どの都市も開催決定年(最初の白丸)からトレンドを越えてインバウンドが増加しており実際の開催年(2つ目の白丸)をこえて10年程度はトレンドを上回るインバウンドを獲得している。
つまり、オリパラ開催によるインバウンド増加効果というのは、「オリパラ開催時期には少々減少するが、前後10年以上の長きに渡ってブランディング効果により誘客増となる」ということになる。
菅首相が殆どの競技で無観客を決めた時、日本ではワクチンを接種できていない人々がまだまだ多数あり、その中でデルタ株感染拡大が続いていたため、どれだけの国民に声が届いていたかはわからないが、菅首相が語った「世界で約40億人がテレビなどで観戦すると言われている。価値はものすごく大きいと思う」との考えはおそらく真実であった

ブランディング効果は遠い国ほど効果的

JTB総合研究所は、デジタルインサイト情報収集企業のCint Japan社と共同で「中国・オーストラリア・英国からの訪日意向調査」を実施し、その結果を発表した。今回の調査は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が、消費者の今後の旅行計画にどのような影響を与えたのかを検証するもの。

今回発表された調査結果はいわば、選挙の出口調査のような速報の答え合わせだ。実際の東京オリパラの誘客効果については、10年後に本当に答え合わせができるだろう。(当然、現実世界の答え合わせは、新型コロナウイルス収束後のリバイバル需要なども含まれるだろうから、純粋なる東京オリパラの誘客効果のみを抽出することは難しい)
調査結果では、
「東京五輪2020大会をきっかけに訪日したいと答えた人の割合は、中国6%、英国30.2%、オーストラリア26.7%となり、東京2020大会が日本旅行への関心を高めるポジティブな影響を与える結果になっていることがわかった。」となった。
オリパラ開催のブランディング効果というのは、旅行会社カウンターのパンフレットではなく、テレビの旅CMのようなものだ。
消費者は具体的な旅行プランを検討する段階におらず、知らない国、行ったことのない日本が漠然としたイメージではあるがブランディングされるという効果である。そのため、既に日本に多くの人が来ていたり、数時間のフライトで来られる身近な国よりは、遠くてまだ日本に来ていない人が多い国により効果的に働く。

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上記の通り、中国は訪日旅行客の中で出発地シェアナンバーワンであり、コロナ禍前の2019年、960万人近くが訪日していた。東京から上海は飛行機に二時間半も乗れば到着できる。
英国やオーストラリアは飛行機で10時間以上かかる遠い場所だ。必然的に来訪者は少なくなり、上記の円グラフでは、「その他」に含まれることになる。
つまり、東京オリパラ2020(開催年は2021年)のインバウンド誘客効果の予測をまとめると「確実に今後、長期的なインバウンド増加にブランディング効果があるだろう。特に近く多くの人が来ていたアジア旅行者ではなく、遠い欧米豪に向けてのブランディング効果が高く、コロナ禍収束後は、実誘客数の増加のみならず、来訪国のバリエーション多様化にも効果を発揮すると思われる」。ーーーーこれが私の中長期予測です。

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2020年1月28日追記:
JNTO(日本政府観光局)が東京オリパラ2020の訪日意欲向上を世界で約4億人という推計を先日、発表されました。


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