深刻化するデジタル人材不足 内製か外注か 問われる経営戦略
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
数年前に「2030年にはIT人材不足は最大79万人にもなる」という調査が発表され、大きな話題となりました(出所:「IT人材需給に関する調査」経済産業省、2019)。私の周りの経営者からも、とにかくIT人材の採用に困っているという声をよく聞きます。
需要が急増する専門人材を確保するため、新卒から別枠で採用し始める企業が増えているそうです。
需給ギャップが高まれば、待遇に反映されます。これまでは一律で「新卒初任給」としていたものを、専門性によって差をつける動きも広がっています。奇しくも、これは「ジョブ型雇用」の仕組みそのものです。特定の時期に集中していた採用時期がゆるやかになり(通年採用、インターンなど)、待遇も企業が求める職務によって変わってくる。つまり、新卒採用自体が中途採用に近い仕組みへと変化しており、ついにジョブ型雇用への移行が本格化したとも受け取れます。
また、現在IT人材がどこに所属しているかという興味深い調査もあります。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)では、各国の状況と比較すること で、日本におけるIT人材の特徴を明らかにすることを目的とした「IT人材白書2017」を公開しています。この調査によると、情報処理・通信に携わる人材の所属先企業を調べたところ、日本ではIT企業に所属する割合が72%とのことです。一方、日本以外の国ではIT企業「以外」の企業に所属する割合が5割を超えていることもわかります。
ここでいうIT企業にはシステムインテグレーターなどの受託開発企業なども含まれています。2000年以前には多くの企業が自社IT部門を抱えて独自システムを内製化していました。その後汎用パッケージソフトウエアや近年のSaaSなどのシステムが主流となったこと、また幾度となく訪れた不景気の波の中でソフトウエアを変動費にしたい経営の意思により必要なときに外注することになりました(このあたりは正規・非正規雇用の課題に近い話ですね)。
市場全体としてIT人材が不足していることは事実であり、理系離れが進む教育の課題もあると思います。しかしながら、IT部門を外注化してきた歴史は単純に経営の意向であるため、時代が変わりまた内製化へと振れてきたようにも見えます。
すでに大きな動きも出てきています。ニトリホールディングスは「(原材料)調達から販売まで一貫型のシステムは世の中に例がなく、何十億円もかけて外注を試みたこともあったが実現できなかった。人材を集めて自分達でやるしかない」と語っており、欲しい物が世の中にないなら作るしかないという方針です。
また、ビックカメラは自社保有の既存資産をクラウドに移行することでダウンサイジングし、ローコード開発が可能なプラットフォームを活用することで高度IT人材でなくても必要なソフトウエアを機動的に開発できる体制をつくることで自社の業務フローに合ったDX戦略、OMO(オンラインとオフラインの融合)を進めるようです。
これらの例を挙げたのは、どちらも明確な経営戦略の一貫として「なにを内製化するか」を定めて、具体的な打ち手に取り組んでいるからです。内製も外注もそれぞれ一長一短があります。そして、業務に必要な情報は現場にありますので、自社社員が一番わかっているわけです。この社員をリスキリングして必要なスキルを習得させ、IT人材化していくのか。外部から採用して共に働いてもらうのか。はたまた上流工程からコンサルタントを入れて外注していくのか。どれもが正しいやり方であり、その選択は重要な経営方針です。
少なくとも経営の一端を担う管理職以上の方は、ITの活用に関する一定以上の知識を持ち、独自の見解を持つ必要があります。わたしが以前から「リスキリングの鍵は管理職」と言っているのはこの理由からです。「IT部門がやってくれるだろう」では高確率で失敗するのが、DXです。特に経営者の方はこのことを深く理解して、適切な判断と打ち手を推進していただきたいと思います。
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タイトル画像提供:MediaFOTO / PIXTA(ピクスタ)
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