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ジョブ型雇用に個人として備えるには3つの「広げる」が必要

ジョブ型雇用にも「ジョブローテ」はある

ジョブ型雇用という言葉を最近ニュースでよく目にします。「職務記述書」に基づいて、その仕事ができる人を雇ったり配置し、評価するという仕組みです。長らく外資系で働いてきた私からすると、ほかに何があるんだ、とも思ってしまうのですが、その逆は「メンバーシップ型雇用」と言うそうです。経験やスキルより、人そのものを評価して雇ったり配置する、人中心の仕組みです。

要は仕事に人を合わせるのか(ジョブ型雇用)、人に仕事を合わせるのか(メンバーシップ型雇用)の違いと言えそうです。そう言うとメンバーシップ型の聞こえがいいのですが、「仕事」を「戦略」に置き換えてみてください。さらに、「人」を「決断できない、時代遅れの人」に置き換えてみて下さい。「決断できない、時代遅れの人」に「戦略」を合わせる。確かにこれでは全然ダメそうです。

人に仕事を合わせる、ための仕組みにジョブローテーションがある、とよく言われます。幹部候補を育てるために、色々な部署で経験を積ませる、などです。このような仕組みが、ジョブ型の外資系にないかと言われると、それは誤解です。幅広い職種を経験している人は沢山いますし、特に幹部に多いのは日本と同じかもしれません。

ただ、大きな違いがあります。それは、ジョブローテも「ポスティング」で行われる、という点です。ポジションがオープンになり、職務記述書が社内に広く、もしくは一部の候補者に公開(ポスティング)されます。そこに自分の意思で応募して、社内で面接をして、合格してはじめて異動が決まるのです。そのような仕組みを「一部」採用している日本企業もありますが、グローバル企業ではむしろそれがスタンダードなやり方です。

給料は努力や労力ではなく、需要と供給のバランスで決まる

つまり、ジョブ型雇用が中心の社会では、一生同じ会社に勤めるにしても、個人が自らキャリアを切り拓いていくという意識がかかせないのです。ジョブ型雇用の社会で転職する人が多いのは、ポジションの流動性が高い(入れ替わりが早い)ということに加え、そうした個人の意識によるところも大きいでしょう。

日本にもジョブ型雇用の波が押し寄せつつあります。そうなると、対策を迫られるのは企業だけではありません。雇われる立場の個人も、それに備えなくてはならないのです。具体的には、自らキャリアを切り拓く意識を持ち、計画を立てなくてはいけません。「市場を広げる」「名前を広げる」「ネットワークを広げる」の3つの準備をするのです。

市場を広げる、というのは、自分を売り込むことができる相手を広げる、という意味です。ITエンジニアの給料が高いのは、それを求める企業が多いからです。アンモナイト(化石)の鑑定技術を極めるのは、エンジニアになるより大変かもしれませんが、だからといってより稼げるわけではありません。給料や職の安定性は需要と供給のバランスで決まります。であれば、個人がまずするべきことは、より需要が大きく供給が少ない市場、その中で自分に勝ち目がある市場を選ぶことです。

一度選んだらそれで終わり、ではありません。時代が変われば需要も供給も変わります。自身が成長すればより大きな市場を狙えるようになるかもしれません。同じITエンジニアでも、インフラからアプリケーションに鞍替えしたり、英語を身に付けて世界に打って出たりすることで、市場を広げることができます。このように、自分を売り込む市場を広げ、それを時代に応じて変化させていくプランが必要なのです。

「美味しいだけ」では、コンビニのお茶は選ばれない

PIE(パイ)という考え方を聞いたことがあるでしょうか。組織のなかで成功するために必要だと考えられる、3つの要素の頭文字をとった造語です。その3つとは、パフォーマンス(実力)・イメージ(印象)・エクスポージャー(目立ち度)です。コンビニでお茶を選ぶとき、商品の「実力」をどの程度重視しているでしょうか。もちろん大事だとは思いますが、コンビニに並ぶような商品なら、そこで大差がつくことはありません。

するとそれに加えて、印象だったり、そもそもそのお茶を知っているかどうか、が重要になってきます。後者は、お茶の立場から見ると、充分に目立っているか、ということになります。これらは、組織の中で自分が望むポジションを掴みとるにも、転職を成功させるにも重要な要素です。いかにいい意味で目立ち、いい印象をもってもらうか。つまり、いかに自分の名前を広げるか、ということです。

当然ですが、これは実力もないのに虚勢をはるべき、と言っているのではありません。まずは実力をつけ、実績を積む必要があります。ただ、どんな実力や実績でも、社内や転職市場で名を広めるのに役立つとは限りません。不採算事業のV字回復を成し遂げればインパクトは大きいですが、清算前の残務処理では注目度に欠けます。そうしたインパクトのある実績を勝ち取る。そのために必要な実力を選び取る。それが必要とされるアクションの一つです。

そのうえで、自分の実力や実績をしっかりと伝える工夫も必要です。グローバル企業の支社では、本社から偉い人が来ると、よく「タウンホールミーティング」という集会を開きます。講話の後は恒例の質問タイムなのですが、ここでの質問はいつも奪い合いです。自分の実力や実績をアピールするチャンスだからです。実力がないのにアピールしても意味はありませんが、同じ実力者同士なら、それを伝える努力をしている人とでない人どちらが勝つか。答えは明らかです。

シニアなポジションの多くはネットワーク経由で採用される

有名企業の社長が、転職サイトで求人されているのを見たことはあるでしょうか。通常そうしたポジションの求人は、「エグゼクティブ・サーチ・ファーム」と呼ばれる会社が扱います。日本ではヘッドハンティング会社、などと呼ばれますが、英語でいうヘッドハンターとは日本でいう転職エージェントのような存在です。転職エージェントと違い、エグゼクティブ・サーチの会社は、候補者を自分たちのネットワークの中から探し出します。あの人とあの人が認めているあの人、に白羽の矢をたててアプローチするのです。

つまり、そこで候補にあがるためには、どのネットワークに属しているか、が重要なのです。もし社長をおおっぴらに公募するとなると、それは公開オーディション番組のようなものになるでしょう。コンテンツとしては面白いかもしれませんが、それを会社の人事部やら取締役会が運営するのは現実的ではありません。そもそも、多くの場合そうした求人はおおっぴらにはできません。すると、信頼できる目利きに候補を絞ってもらうのが最善策なのです。

おおっぴらにはできないし、公募で候補者を集めると難易度が高い。そんなポジションは、経営者以外にも沢山あります。すると、その多くがネットワーク経由での採用となるのです。サーチファーム経由のこともあれば、リファラルと呼ばれる直接の紹介、経営者自身からの声がけもあります。そうなると、自身の仕事のネットワークを広げることが、決定的に重要となります。社内で希望のポジションを掴み取る場合は、同じく社内のネットワークが物を言うでしょう。

この「ネットワーク」は、ただお互いに知っている、というだけでは成り立ちません。一度一緒に飲んだ、名刺交換をした、というだけで築けるものではないのです。大きなプロジェクトではなくても、一緒に何かを成し遂げた、という経験が必要です。業界単位の活動やボランティア、イベントの幹事で一緒になった、などでも構いません。社内であれば、仕事の機会はもちろん、部署横断の取り組みや全社イベントでそうした経験が築けるでしょう。

ジョブ型雇用に関しては、企業はどうする? という報道が多いなか、個人はどうする? という議論はまだあまり深まっていないように感じます。


「市場を広げる」「名前を広げる」「ネットワークを広げる」。この3つを意識的、計画的に行うことが、ジョブ型雇用社会に必要とされる個人の戦略だと私は考えます。

これを一つのきっかけに、読んでいただいた皆様と議論を深めていけると幸いです。

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