マイクロモビリティで賑わいを作る。
北米では298の都市でマイクロモビリティの利用が拡大しているという。2021年には、車両数は23万2000台となり、1億2800万回の年間利用があった。所得層、年齢、人種を問わず、誰もが利用している。徒歩からの転換、自家用車からの転換に加えて、寄り道や回遊といった新たな移動需要も生み出しているという。密を回避でき、健康的かつ環境に優しい移動手段として、ウィズコロナの新しいライフスタイルになっているのだ。
新たな街づくりへの活用も進んでいる。異なる交通手段を1つのサービスに統合する取り組みだ。予約、貸出・返却にとどまらず、決済も統合されている。さらにシームレスなモビリティを実現すべく、マイクロモビリティの貸出拠点を集約するモビリティハブへの投資も行っている。「デジタル化と合わせてフィジカルな投資を続けながら、地域に最適な交通手段の組み合わせを利用者目線で実践している」というのだ。まさに賑わいのデザインが進んでいると思う。
日本では、日常の通勤や通学で自転車の利用を推進する取り組みが増えている。専用道の整備やシェアサイクルの普及も街づくりと連携させて進めている。2020年時点の移動における自転車の占める割合は大阪府が最も高く21.1%だ。コスト意識が高いのも要因だという。2位以降は、京都府、愛媛県、東京都、高知県、埼玉県と続く。通勤や通学以外の用途としては、観光だ。サイクリングコースを作って広域の周遊を促す取り組みも始まっている。
一方、日本の電動キックボードの普及はまさに黎明期にある。2022年3月時点で、個人所有も含めて2万台程度が流通しているようだ。いくつかの事業者が都市部を中心にサービスを展開している。今後は2024年4月までの間に、時速20km以下なら16歳以上は免許不要、ヘルメット着用は努力義務となることから、普及が急速に拡大すると予想されている。
電動アシスト自転車と電動キックボードでは少し用途が異なるようだ。キックボードは手ぶらが基本で、爽快感がある。荷物はリュックで背負うので、重さは限られる。一方、自転車はカゴがあり、バッグを放り込め、通勤や通学に便利だ。椅子もあるので気楽に乗れる感じだ。ポートの設置ではキックボードが有利だ。300メートル、歩いて4分くらいを目処に設置を行っている事業者もあり、目的地までにかかる時間を短縮できると好評だ。
時間単価は、ナンバー取得にかかる費用もあることからキックボードの方が2割以上割高だという。ただ、ポートの設置密度が高いエリアで、こまめに返却することで結果的に費用を抑えることはできるかもしれない。あと、自転車に比べて、キックボードは重量が軽いことから、エリア内の車両の偏りを解消する際の労力は抑えられるだろう。溢れかえったポートから自転車をトラックに積んでいる作業をみるとかなりの重労働のように感じる。でも、座って移動できる自転車のメリットは間違いなく存在する。キックボードと自転車、それぞれの良さが生きる使い方を考えていきたいと思う。
マイクロモビリティには超小型EVというジャンルも存在する。例えば、ホンダが常総市と連携協定を結んで実証実験を行っている「サイコマ」と「ワポチ」だ。「会話やジェスチャーで意図を伝え、モビリティーも意思を提案できる。身ぶりで停車させたり、声をかけて好きな場所に移動させられる」という。「ワポチ」はユーザーの特徴を記憶して追随する機能がある。別の人が割り込んでも迷わず正確に追いかけるという。低速で市有地を走るタイプと通常の車と同様に公道を走るタイプがありそうだ。電動自転車やキックボートと比べると、前者はよりゆっくりとした移動や歩行の補助といった位置付けになる。目的地が公園やショッピングモール、工場といった広い敷地の場合の敷地内移動にとても有効だ。後者は自動運転なので導入には時間がかかりそうだが、導入されれば無人タクシーというモビリティの革新が起こりそうだ。
これまでは、自家用車、バイク、バス、電車、自転車、歩行といった交通手段が中心だったが、シェアリングのマイクロモビリティが加わってきた。その土地の住民、そして来訪者に、どんな場所でどんな過ごし方をして欲しいかを、しっかりと考え、目的地を増やし、磨き上げると共に、移動需要の創出、スムーズな移動を実現するモビリティミックスを考えていきたいと思う。賑わいづくりが楽しみになってきた。