中国のWebメディア「澎湃」が激伸びしている。老舗メディア企業が9年でここまで成長、何が違う?
中国情報に詳しいみなさま、「澎湃」(「ぺんぱい」、英語名はthe Paper)ってメディアは知ってますか?よく使ってますでしょうか?
ボクも同僚の研究員も、このメディアの報道やコンテンツ見る機会が多いんですが、会社のことや取り組みを調べてみると、いろいろと面白いことが多いです。メディアに限らず古い企業からイノベーションを生み出すヒントに溢れているかなと思い、せっかくなのでnoteで紹介します。
「澎湃」は2014年にスタートしたメディアで、元々は伝統的なメディアの上海報業集団、東方早報の一部としてスタートしました。ただ、伝統メディアからスタートしたとは思えないようなWebでの躍進ぶりで、今では中国のWebメディアでもひときわ注目される存在です。
個人的に注目している理由も、いわゆる伝統メディアからWebメディアを作り出し、最も成功したWebメディアと評価されるまでに進化しているところ。勢いは凄まじく、絶不調の中国経済においても2022年メディア関連投資において最も大きい規模だと言われてます。
昨年の2022年8月8日に、8周年を迎えた澎湃はBラウンド融資にて上海文化産業発展投資基金から4億元の出資を受けています。(ちなみに、Aラウンドでは2016年12月28日に久事、精文、東浩蘭生、百聯、錦江、仪電の6つの国有企業から合計6.1億元を出資された)。
中国では、新聞紙は党の機関紙だけでなく、ローカル紙も昔から国の「事業単位」として扱われ、全部財政で回されてきました。その後、市場経済の推進や新聞離れの深刻化などで、2000年代前半から企業化再建が進んでいるのと、SNSの発達によってメディア環境が激変しています。
生き残るために広告事業を剥離して上場を求めたり、不動産事業やオンラインゲーム事業に参入するところもあります。
ただ、上海報業集団の東方早報は”最も激しい”と思われた改革案を出しました。2016年、ニュースアプリサービス開始が2年未満の時点で、東方早報はすべて休紙、紙面事業を完全に畳んで、中国のメディア業界では珍しくWebへの完全移行を行ったのです。
この大胆な決断、選択と集中がよく、厳しいと思われたなかでWeb事業は成功。初期は数千万元の収益だったそうですが、2022年は年間の収入が4億元(80億円)を超える規模に成長していて、伝統的メディア企業がはじめたとは思えない成長ぶりです。
この澎湃ですが、一つのニュースメディアとは異なり、数千〜数万のメディアアカウントが入居するコンテンツプラットフォームへ発展しています。ただ面白いのは、それでいてメディアとしての強みも同居していて、毎日400本以上のオリジナルメディアコンテンツを制作(うち、映像コンテンツが半分以上)しています。
2022年6月時点で澎湃のユーザー数は2億人を超えていて、拡散力や影響力は国内の新メディアではトップクラスにあります。
客観的な評価でも、例えば過去5年間で澎湃新聞は国内外から200以上の賞と栄誉を受賞(内訳は国際賞49個、国家級賞58個)とのこと。さらに、中国で初めて外交部の日常記者会見「藍廳」に参加が許可された新メディアとして、澎湃新聞は積極的に中国の主要外交事項を報道しています。
外交部報道官に2021年だけでも97回の質問を行い、中国の声を世界に発信しているという実績が出ていました。
また、世界に発信という観点では、2016年12月28日に英語のプラットフォーム「Sixth Tone」を立ち上げ、既に1.2億人の海外ユーザーがいるとのデータが報道されています。
ご存知のように、中国は世界のWebやメディア環境とは異なります。ほとんど無料なニュースサービス。伝統メディアとしての実物販売もないし、ニューヨークタイムズや日経電子版のような2Cの有料情報サービスもなかなか展開できないです。
澎湃新聞の場合、発展初期の広告+著作権の伝統的な収益構造から、現在は広告+著作権+政務+スマートキュー+技術提供など、多様化した収益構造へと発展しています。広告ではネイティブ広告に強く、単純に広告を露出するのではなく、クリエイティブプランニング、コピーライティング、H5制作、漫画描画、ビデオプロデュース、撮影制作、多チャネル、多プラットフォームの配信拡散まで広告のほぼ全業務に対応。内部では「コンテンツ4A企業」と呼ばれているそう。
もちろんメディアの強みを活用した取り組みも頑張っていて、伝統メディアとしての経験と新たなWebメディアとしての成功でマネタイズしている。コンテンツの制作、審査、配信、ビジネス化全プロセスのエコシステム構築を提供する“一括解決策”の提供にも力をいれているそう。
中国ではここ数年、平台经济(プラットフォーム経済)の発展が盛んに注目されてきました。それこそアリババやテンセント、バイトダンスも、みんな総合的なプラットフォームとしていろんなビジネスを回し、ニュースコンテンツ配信もあります。Tec企業とニュースキュレーションなどは本来相性が良いですから取り組みも多い。インスタを作った人たちがニュースアプリへ取り組むことも話題になってましたね。
でも、それらはみんな根っからバリバリのIT企業です。そのなかで、澎湃新聞がニュースを中心とする伝統メディア生まれのニュースアプリとしての活躍が続くのか。
澎湃は波が激しく打つことと、ワクワクドキドキの意味があります。ぜひ今後も頑張って欲しいですし、注目していきたいと思います。
(参考資料)