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自由化したのに、計画経済?パッチワークのエネルギー政策を正そう。電力自由化とエネルギー基本計画の不思議な関係。

エネルギー基本計画とは

政府が次期エネルギー基本計画策定に向け、議論を開始しました。
このエネルギー基本計画を定めるのは、エネルギー政策基本法に書かれている政府の義務で、少なくとも3年ごとに見直すこととされています。
エネルギー安定供給の確保は国民生活に必須のものですし、コストの低減や環境性の確保の観点も重要なので、10年先くらいまでを見据えてエネルギーについての基本的な方針を出すことが政府に義務付けられているわけです。
エネルギー基本計画は政府の委員会(総合資源エネルギー調査会)で議論され、その後閣議決定もされますが、基本的に全部定性的な文章で、定量化された表現はほとんどありません。
霞が関的な微妙なグラデーションをつけつつ、「あれも大事、これも必要」と書かれている文章です。計画に書き込まれなければ、政府として関心の度合いが低い、少なくとも当面政策の土俵に乗ってくることはないというものでもあり、また、表現の仕方(先ほどの霞が関的グラデーション)で政策議論の中での重みづけや優先順位が変わるので、大事なものではありますが、定量的な議論を進めるための土台とはなり得ない。ということで、エネルギー基本計画を具体的な数字に落としたものが、「長期エネルギー需給見通し」といわれるもので、これは経済産業省がエネルギー基本計画を反映させるかたちで策定し、発表するものです。

連立方程式の上に成り立つ長期エネルギー需給見通し

政府が現在掲げる長期エネルギー需給見通しは、下記の図の通りです。
エネルギー需要(10年後、日本はどれくらいのエネルギーを必要とするのか)を見通し、それを賄う手段をまさに1%刻みで描いています。
これはエネルギー政策の3E(安定供給・安全保障、経済性、環境性)といわれる連立方程式において、それぞれ満たすべき目標値を置いて何とか成り立つ解として描かれたもので、これをもとにパリ協定の温暖化目標(2030年に2013年比▲26%)といった目標も導き出されています(欧米に遜色のない26%という数字を言いたいということで、逆算した向きもありますが)。なので、結構この数字は大事ですし、そうしょっちゅう変えられるわけでもありません。この長期エネルギー需給見通しも含めて今回見直すのか、というところも含めて、このエネルギー基本計画の議論に注目が集まるわけです。

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パッチワーク化するエネルギー政策

ただ、ここで思い出していただきたいのですが、政府はエネルギーについてはシステム改革を進め、電力もガスも自由化をして市場に委ねたということです。
もちろん、単に市場に任せるだけでなく、エネルギー自給率や環境性など政府として関与しなければならない政策目標の達成に向けて、様々な規制的手段も採られています。特に温暖化目標が義務化する状況を踏まえ、様々な規制的手段が追加されようとしています。
その結果、市場原理の世界に多くの計画経済的規制が混在し、非常に非効率で中途半端な制度設計になっているように思います。
先日、「石炭火力発電所の廃止問題に関して検討すべきこと」という原稿に書いたのですが、自由化によっていまは、1kWhの電気を発電するコストを少しでも安くできたほうが勝つという世界になっています。

では、いろいろな発電技術が自由に競争しているのかと言えばそうではありません。再生可能エネルギーは総括原価方式の究極とでもいうべき全量固定価格買取制度で政策的に支援され(今は一部入札制も導入されていますが)、火力発電も温室効果ガス排出規制の観点から、計画経済的に管理するということになりつつあります。自由化市場に取り残されているのは、本来自由化市場とは最も相性の良くない原子力事業だけという状況。
そもそも自由化した市場で、政府が1%刻みでエネルギーミックスを定めるということが異様です。諸外国を見ても、シナリオの一つとしてエネルギーミックスが描かれることはありますが、温暖化目標策定の根拠として、電化率と低炭素電源比率などを定める方が一般的でしょう。またエネルギー事業者や国民も、幅はあるであろうが目指すべき方向性として受け止めているように思います。
日本では、政府がどんな数字を出すか固唾を飲んで見守る雰囲気があります。もちろん政府が示す方向性として重要ではありますし、それによって補助金が付くかつかないかといったことにもなりますので関心が高いのは当然ではありますが、失礼ながら、エネルギー事業者の方たちの経営の気概はどこに?政府の決める計画をいつまで錦の御旗として押し頂くのか?という気がしてなりません。

また、政府の方たちには、いつまでどこまで責任を持つのかはっきりさせてほしい、覚悟無き中途半端な市場原理導入になっていないかを問いたい気がします。

政府が定めるべきことは何か

自由化した以上、政府が果たすべき役割は何かを考えてみましょう。まず、政策ビジョンを明確にしていただきたいと私は思います。いまは様々な政策がパッチワーク的につぎはぎを繰り返しているように見えます。そのうえで、低炭素化や人口減少・過疎化、デジタル化などの社会の変化要因を踏まえた戦略を策定する。その戦略は「電源の低炭素化×需要の電化」を徹底して進めるということになるでしょう。電化を阻害する障壁になっている省エネ法やFIT賦課金などは見直さねばなりません。

政府がエネルギーミックスを定めて、その達成に向け個別規制を積み重ねるのは、自由化の趣旨にも反しますし、非効率や事業の予見可能性の棄損が激しいので、政府が示すべきなのは、将来的な1次エネルギーにおける非化石比率、最終エネルギー消費における電化率、そして炭素価格といったところではないでしょうか。

日本はエネルギー資源にあまりに乏しく、その確保は国家の最重要課題の一つであったため、1960年代から長年、政府が長期エネルギー需給見通しを描いて公表してきました(*エネルギー政策基本法の制定自体は2002年に制定されたものですが、それ以前から政府は長期エネルギー需給見通しを策定・公表していました)。慣性の法則が働いて、政府が計画を立て、事業者はそれを金科玉条のごとく受け止めているのかもしれませんが、制度設計の土台が大きく変わったのですから、考え方も変えるべきではないでしょうか。

エネルギー基本計画の見直しは、日本のエネルギー政策に多くの方が関心を持って下さる良い機会ではあるのですが、従来と変わらぬ報道に触れるたびに、日本のエネルギー政策のあり方は一度整理した方がよいのではないか、と思います。


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