ファシリテーションの学び方 ーワークショップを参与観察する
「ワークショップの作り方を学びたい」「ファシリテーションの方法を学びたい」
このような思いをお持ちの方には「ワークショップに参加し、ファシリテーターと自分を含む参加者を観察する」という方法をおすすめします。
ワークショップ・ファシリテーションのやり方は多種多様です。多様なファシリテーターと出会いによって、自分なりのロールモデルを見つけて、ファシリテーターのイメージ像を作っていけるはずです。「この人のスタイルは自分に合うなぁ」とか、「自分とは違うけど、こんな学びや創発の起こし方もあるんだ」と、知っていくことが大切です。
本やウェブの記事などで読むだけでなく、体感的にファシリテーションの方法を学ぶために「参与観察」という方法があります。
参与観察とは、ある特定の組織や集団、地域に「入り込んで」、そこで生活したり仕事をしたりしている人々のなかに混じって、そこで怒っている会話ややりとり(難しく言えば「相互作用」)を記録する(引用元:「質的社会調査の方法 他者の合理性の理解社会学」岸政彦・石岡丈昇・丸山里美)というものです。
ファシリテーションを学ぶためのワークショップの参与観察の方法は、非常にシンプルです。
①ワークショップの大まかな活動とその活動が始まった時間をメモしておく
②ファシリテーターや参加者の行動・発言、その時間をメモする
③WS後、記録をみながら感じたこと・考えたことをふりかえる
ちょっと具体的に説明してみます。
大まかな活動と時間の記録
たとえば、こんな記録があったとします。「対話」の方法について学ぶワークショップにぼくが参加した、という設定でちょっと書き出してみます。
その時のワークショップは大まかにこんな流れで行われた(とします)。
13:00 ワークショップスタート・イントロレクチャー
13:30 参加者同士の自己紹介
13:40 対話の定義レクチャー
13:50 参加者から問い直しがおこる
14:30 ワークの流れを即興で変える
14:50 対話の定義をめぐって対話するワーク
16:00 グループで考えた対話の定義を発表
17:00 今日のワークショップを振り返る
18:00 終了
イントロがあり、参加者同士の自己紹介があり、その後レクチャーがある。ここまではわりと定番の流れだな〜と思っていたのですが、参加者からそのレクチャーへの異議申し立てがあり、ワークショップの流れが変わります。
その後、ファシリテーターがワーク内容を少し変え、変えることについて参加者全員に合意がとられました。それから、新しくその場で考案されたワークが行われます。ワークで考えたことを全体で発表し、振り返りの対話をして終了しました。
この大きな流れをつかんでおくだけでも、良いワークショップを再現するスキルを自分の中に蓄積することができます。
ファシリテーターと参加者の発言・行動の記録
さて、このワークショップの白眉は、参加者とファシリテーターが議論になったことです。
参加者のZさんが、ファシリテーターのWさんの提示した対話の定義に対して、違和感を提示したところからワークショップの進行が想定外の方向に動き始めます。対話の定義をめぐって、WさんとZさんの議論がしばらく続いたのち、全体でこの定義をめぐって話をしよう、という点が合意され、後半の対話がはじまりました。
そのときに取るメモはこんなかんじです。
13:50
Z(参加者)「対話の定義に違和感」
W(ファシリテーター)「どこに違和感がある?」
Z「対話には創造性なんて必要ないんじゃないか?」
W「でもぼくは、創造性が必要だと思っているんです」(言い返した!)
W「Zさんにとって、対話に創造性が含まれることで脅かされることってなんですか?」(いい問い!)
14:05
W(参加者全体に向き直って)「ここまでの話を聞いてみなさんはどう思いますか?」
S「創造性が必要」
G「Zさんの意見がわからない」
W(Zに向かって)「Zさんはこの状況はいやじゃないですか?」(丁寧!)(全体にむきなおって)「全体で対話に創造性が必要かどうか話すのはどうですか?」
ここに書いてある(いい問い!)(丁寧!)のように、自分の気持ちの動きもメモしておくと、あとで振り返る際に役立つと思います。
ファシリテーターの行動に対して感じたこと・考えたことを書く
こんなふうに発言や行動をメモしておき、あとからふりかえって「この発言や行動に対してこんなふうに感じたなぁ」ということを書き出します。
たとえばこんなふうに👇
・Wさんは、ファシリテーターとして自分の意見をいうことを大切にしていると感じた。
・「Aがあることで脅かされるものは何?」っていう問い素晴らしかった。自分と反対の意見を考えている人の立場にたちやすくなる!
・Zさんが孤立しそうな状況を察知して「この状況いやじゃないですか?」と確認している。参加者の心情に常に配慮しているのかもしれない。
・ちょっと緊張感のある討論モードになった場を、いやじゃないですか?と問うことで、WさんがZさんを論破しようとしているわけではないことが場全体につたわった。
さまざまなシーンで求められる「ファシリテーション」の身振り
ワークショップの進行役ということ意外にも、さまざまなプロジェクトで、関係者の意見をすりあわせてながら課題解決をうながすファシリテーションの技術とその身振りの需要は高まっています。
問いを立てながら参加者の活動をうながすだけでなく、さまざまな状況に対応する即興性など、書籍で読むだけでなくさまざまなワークショップにとびこんで、現場で肌身で感じることで学ぶことも多くあるはずです。
ぜひ、多様なワークショップに参加して、多様なファシリテーターとの出会いのなかから学びを深めてみてください。