
課題解決より課題設定。適切な課題を適切なタイミングで設定する“アジェンダセッティング”こそが変革のカギ。
皆さん、こんにちは。今回は「アジェンダセッティング(課題設定)」について書かせていただきます。
19年に日本財団が実施した、日本や米国など9カ国の18歳に対する「国や社会に対する意識」調査に考えさせられました。「自分で国や社会を変えられると思う」日本の子どもは18.3%で、「自分の国に解決したい社会議題がある」と答えた子どもは46.4%と、いずれも9カ国中最低で他国に水をあけられていました。日本の18歳は幼く、自分の進路を能動的に選択できていないという現実です。
この記事を読んで、「解決したい議題があるか」「解決したい議題があったとしても、それを素早く課題提起できるか」と考えた時に、それができる人は大人でも決して多くはないだろうと感じました。
よく、社外取締役に求めるものとして、“経営の監督”はもちろんのこと、経営戦略や事業ポートフォリオの見直しをはじめとする「アジェンダセッティング」への関与が求められていますが、解決すべき議題を見定め、それを提案する役割を持つ必要がある人は、本来はもっと多いのではないかと思っています。
もっと言ってしまうと、この役割を持っている人が多い組織はうまくいくし、誰も課題提起しないような組織は衰退していく一方です。
社員一人ひとりが「課題設定」をどのように行っていくと良いのか、具体的に考えてみます。
■解決したい社会議題がないのは、社会に関わる“機会”が乏しいから。
日本財団が2019年に行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」によると、「自分の国に解決したい社会議題がある」と答えた人は9ヶ国中最下位の46.4%、「社会議題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」と答えた人は、同じく最下位の27.2%という結果でした。
そもそも、「自分の国や将来が今後良くなると思っていない」こと、また、「自分で国や社会を変えられると思っていない」ことがこの調査結果からよく分かります。
日本の若者はそんなにも、自分の国の未来に失望してしまっているのでしょうか。
おそらく答えは「NO」で、失望しているというよりは、「興味がない」「考えたことがない」という人が圧倒的に多いように思います。社会に関わる機会そのものや、日本が直面している、あるいはこれから直面するであろう社会課題に対する理解が乏しいのが実情だと思います。
同じようなことが社会人にも言えるのではないでしょうか。
日々仕事に追われ、職場と自宅の行き来だけでは、なかなか社会のことについて考える余裕がありません。ニュースは頻繁に見ていても、日本や世界で起きているような社会問題を自分事として捉えている人も多くはないと思います。
もっと小さな単位の、自分が所属している組織やチーム、職場、会社全体や業界全体のことにまで目を向けて、課題を認識し、解決すべき問題として提起している人はどのくらいいるでしょうか。
組織に蔓延する問題自体は素早く察知するものの、問題点だけに目を向けて、不満や文句だけ言って、自分では何も解決しようとしない人も少なくないかもしれません。
自分が所属している組織や会社に希望を見出し、自分の力で解決しようと行動に移す人を増やすには、組織的な“仕組み”で解決していくことが重要です。組織の課題を解決していく機会を意識的に創出するとともに、経営層と同じ視点を持ちながら同じ関心事を抱き、行動することから始めなければいけないのです。
■「課題設定」する習慣がない理由
課題設定するというのは、「現状と理想の状態を的確に把握し、理想の状態を実現するためにボトルネックになるような根本的な問題を見極めた上で、理想の状態に近づける方法を考える」ことだと思います。
自分たちがこれからどんなことにチャレンジすれば、実現させたい未来に辿り着くのかを見極める力こそが、「課題設定力」です。
課題設定力が身につかないケースとしては、以下のようなパターンが考えられます。
陥りやすいワナ①「“課題設定”は上司の仕事」と捉えているパターン。
→課題設定するのは自分の仕事ではなく上司の仕事であり、上司から指示された目標を達成するために業務を遂行できていればそれで良いと考えている人が多いです。会社が何をすべきかは経営層が決め、達成するために何をすべきかを管理職が決め、それをとにかく実行するのが現場の役割であると認識しているのです。
陥りやすいワナ②「“問題解決力”があれば十分」と捉えているパターン。
→問題を「解く力」だけではなく、課題や問題を「見つける力」もそれ以上に大事です。学生時代から正解を導き出す教育を受けてきた多くの人は、答えのある問題をいかに早く、正確に回答するかが大事で、その方法論には興味がありますが、自分自身で問題そのものを作ることに対してはほとんど興味を持ったことがありません。問題解決力をスキルとして身につければそれで十分と考えている人は多いはずです。
これらの考え方自体が間違っているわけではないのですが、「上司から言われたことをただ実行するだけ」「問題を解決する力を磨くだけ」では不十分と言えると思います。
ビジネスにおいては、お題があって、これを解いたら正解ですという判定を誰かがしてくれるわけではなく、今ある状況の中から自分で工夫を施して、組織や会社に価値をもたらしてください、という仕事になります。そのためには、自らの力で課題設定ができるようにならなくてはなりません。
「どれだけ仕事で成果を出せるか」は、今自分を取り巻く周囲の期待や環境から、いかに「何をすべきかを自ら見つけて構想し、実行につなげていくか」ではないでしょうか。
■なぜ課題設定力を身につけなければいけないのか
こちらの記事では、
変革の一番のポイントはアジェンダセッティング(課題設定)にあった
とあります。
既存事業の維持にコストやパワーをかけることに終始するのではなく、もっと上の概念で「アジェンダセッティング」することが大事で、もっと言うと、「現状維持で既存ビジネスの存続を優先するよりも、たとえ既存事業が新たなビジネスに飲み込まれても、産業そのものを変えるためには必要なこと」という視点を持つことが大事、という意味だと理解しました。
そのような“課題”をそもそも“設定”していなければ、インディードの買収はできなかったはずです。リクルートさんの場合は、現状維持に満足せず、新規事業を手掛ける会社を買収して『産業そのものを変える』というアジェンダセッティングに成功したのです。
このような視点は、企業のトップでなければ持てないものなのかもしれません。ですが、誰もが意識して鍛えていくことはできると思います。
課題設定力を身につけていくためには、
このまま進んでいくと、未来にどんなことが起こりそうかを考える。
この先、環境や世の中の情勢が変わっても、確実に残したいコアな価値は何かを考える。
前提や思い込みをなくし、ゼロベースで考える。
意識的に自分の考えを批判的に捉え、自己否定する。
などのポイントを意識する良いと思います。
そして、課題設定を行う上では、“適切な課題を、適切なタイミングで設定できるか”が何より重要です。
課題設定自体が間違っていると、その問題が解決しても利益につながらず、成果も上がらず、時間を浪費するだけです。また課題設定は合っていても、今それを解決すべきなのか、他に優先的に解決すべき議題がないのかをしっかり見極めることも重要です。
組織における本質的な課題設定を行うと、皆の力を結集させて同じ方向に向かって大きな行動変容を生み出すことにつながります。それが未来を変えていくことになるかもしれないのです。
■課題設定力のある会社こそイノベーションを生み出せる
日本人は比較的、問題を与えられた時にその解決策を考えるのが得意だと言われています。たとえば、「競合のA社よりも高機能のものを作る」、「コスト削減をして低価格を実現する」などと、乗り越えるべきお題を与えられるとその解決に向けて動きやすいのです。
ですが、自ら課題を設定するとなると、急に苦手意識を持つ人が多いはずです。なぜなら、足元やるべき仕事は上司など周囲の誰かが指示してくれ、言われたことを完遂することで仕事の評価を得てきた人が大半だからです。
日本においてイノベーティブなプロダクトやサービスが生まれにくいのは、「課題設定力の欠如」が一つの要因であると言っても過言ではないかもしれません。
解決すべき課題を設定し、従来のやり方では難しいものを、全く新しい方法を考え出すことからイノベーションは生まれます。つまり、課題を設定することそのものが、イノベーションを起こすためのスタートラインなのではないかと思います。
これまで述べてきた通り、「課題設定力」はこれから求められる重要な能力の一つですが、課題設定して終わりでは当然ありません。
「課題発見」→「課題設定」→「課題提起」→「解決策立案」→「計画」→「実行」という、このループがワンセットになります。
課題を指摘するだけの評論家のようになっていないか。
せっかく解決策を実行する力があるのに、目の前の業務に追われて、適切な課題設定をすることを忘れていないか。
課題設定をしても、経営層や上司との課題認識のズレが生じていないか。
課題設定のタイミングや課題提起する先(組織や人)を間違っていないか。
など、改めて自分が会社の中で価値を発揮していくためにも、上記のような状態になっていないか振り返るとともに、適切に「アジェンダセッティング」を組織に対して行えているか、強く意識していくことが大事だと思います。