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米国家賃高騰の裏側にあるAI家賃設定ツールの影響力

 米国では10年前から賃貸住宅の相場が高騰している。ここ数年では、大都市の家賃が高騰しすぎて、家賃が払えなくなった転居者が増えることによる「街の空洞化」も起きている。その背後ではAIの影響力が大きいと言われている。

米カリフォルニア州に拠点を置くRealPageが開発した、AIアルゴリズムの「YieldStar」は、全米の不動産データを分析して賃貸物件の家賃設定を支援するツールとして、賃貸大家や不動産管理会社から活用されている。

YieldStarは、全米家賃相場の推移、空室率、労働統計、建設工事の着工数、賃貸契約の更新率、住宅ローン金利など50以上の指標と、1300万件以上の家賃請求データを分析することで、地域別に最大利回りを狙える推奨家賃を1日毎に提示することができる。

RealPage YieldStar

AIによる家賃設定の利点は、これから需要増が見込めるエリアの物件に対しては大胆な値上げを実行できることだ。人間が行う値上げは、入居者に同情的になってしまったり、退去による空室の増加を気にしたりするが、YieldStarのアルゴリズムは空室率の上昇も厭わずに、強気の家賃設定を推奨する。そのためYieldStarを導入する不動産業者が増えるほど、リアルな家賃相場も上昇する状況が、米国では起きている。

米国調査会社のProPublica(プロパブリカ)によると、ワシントン州シアトルのある地域ではアパート物件の70%を、10社の不動産管理会社が管理しているが、その10社すべてがYieldStarを導入していることが判明した。管理会社は、アルゴリズムが推奨する家賃設定を拒否することもできるが、実際には9割が推奨値を採用している。

YieldStarのアルゴリズムは、手動で家賃設定を行うよりも平均3~7%の利回りが上昇するように設計されており、米国で最大の不動産管理会社、Greystarでも数万戸の家賃設定でYieldStarを活用しているが、AIによる家賃設定は平均利回りが4.8%上昇することを確認している。

RealPage社は2004年から家賃設定のAIアルゴリズムを開発しているが、2017年には、ホテル、カジノ、賃貸物件などの収益管理会社であるRainmaker Group から賃貸管理部門を買収しており、現在では、米国で約4500万戸あるアパート物件のうち、約1900万戸がRealPageのアルゴリズムによって管理されていることが報告されている。

米国では、直近の10年間で家賃の平均支払額が46.5%の上昇、地域によっては90%以上も上昇しているが、AIとの因果関係は強いと言われており、AI家賃設定システムの寡占化が進むと、何らかの規制がかかる可能性も指摘されるようになっている。

【家賃値上げに対抗するAIアプリの活用策】

 年1回のペースで契約更新される米国の賃貸住宅では、その度に家賃が引き上げられているため、入居者側でも対抗策を講じる必要があり、そこでもAIの力を活用するようになっている。具体的な方法は、契約書の書面を十分に理解した上で、家主との交渉をすることが正攻法になる。

Legalese Decoder というアプリは、ユーザーが契約文書をアップロードすると、AIが契約内容を読み取り、3分程度で平易な文章に要約して出力する。このアプリで不動産賃貸の契約書を要約すると、入居者に認められている権利や、契約する際の注意点、家賃交渉の攻略点を見つけることに役立つ。

たとえば、契約書に「家主はいつでも予告なしに家賃を値上げする権利がある」と記載されている場合には、入居者は安易にサインをせずに、長い時間をかけて交渉をすると、良い条件を引き出せる可能性がある。家主側は、契約更新のタイミングで退去されることは避けたため、契約書には「値上げの可能性」を含ませておき、契約後に値上げをしようと考えているが、入居者がその作戦を見破れば、有意義な交渉材料になる。

Legalese Decoder

このような契約文書の分析と要約ができるAIアプリは「法務デコーダー」と呼ばれ、法律の専門知識を持たないビジネスパーソンや一般人が、契約書のトリックや罠にかからない対抗策として活用しはじめている。Legalese Decoderは、不動産契約の他にも、住宅ローン、生命保険、医療契約、奨学金や学生ローンなど、多様な契約書の分析に対応しており、弁護士を雇うほどではないが、契約書を詳しくチェックして交渉したいユーザー層を獲得している。

Legalese Decoderの利用体系は、月間に分析する契約書の文字数によってプランが用意されており、5000ワード(約10ページ)までのホームプランが月額5.95ドル。10万ワード(約200ページ)までの分析が可能なプロフェッショナルプランが月額49.95ドルの設定だ。米国の弁護士にリーガルチェックを依頼する時間単価は、100~500ドルが相場であることと比較すると、AIの利用コストは大幅に安くなる。

家賃に限らず、価格の設定や値下げ交渉の中では、AIに任せられる領域は増えていくことが予測されている。従来の取引では、手間とコストの問題から、十分な交渉がされないまま価格が決められていた商材やサービスが大半を占めていたが、将来的にはAIがその調整役となり適正値が決められていくようになるだろう。

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