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リモートワークで生産性が上がりやすい職種・下がりやすい職種!?~実験データからの検証~

 リモートワークが、様々な場所で広がっています。私自身も、メディアでの経済解説がオンライン中継に、インタビューをZOOMで、学術研究のMTGをSkypeやZOOMで、社外取締役先で電話MTGで…と、あらゆる場所で変化を感じています。周りにも、そういう方が日々増えています。実際、リモートワークビジネスを商機にと、ベンチャー企業の取り組みも目立ちます。

 しかし、最近では、リモートワークの利便性以上に、デメリットや生産性低下の懸念する声が大きくなりつつあります。下記記事にも、リモートワーク導入当初の慣れていない状況ばかりを見て、リモートワークは生産性を下げるという社内意見も出ているようです。でも、それは本当でしょうか? 今回は、その問にヒントを与えてくれる経済学の論文を紹介します。

*なぜ、リモートワークによる生産性への影響を検証するのは難しいのか?

 そもそも、なぜリモートワークによる「生産性」への純粋な影響を検証するのは難しいのでしょうか?考えられる理由はいくつかあります。

①各自の在宅勤務環境の影響:通信インフラやオフィス用家具があるかないか、家族が在宅勤務への理解があるか…etc等の各個人のインフラ環境の差が「生産性」に大きく影響し、リモートワークによる「生産性」への純粋な因果関係を測定することが難しいから。

②リモートワークを選択できる人が限られている:現状ですらリモートワークを全ての職種や企業の人が出来るわけではありません。企業によっては、リモートPCが足りないや、リモートMTGの設備がない…、様々な課題があります。そうなると、リモートワークにスムーズに移行できるのは特定の職種だけになり、そうした方々なので生産性が変わらない、または向上となっている可能性があります。

③リモートワーク特権の存在:DuBrin(1991)では、経営者や上司にリモートワークを認められている働き手は、既に高い生産性を示し、経営者に信頼されているからこそリモートワークの環境にあると報告しています。現状のような一斉リモートワークブームの前は、こういう人だけにリモートワークが限られていたのかもしれません。そうなると、リモートワークをしている人は生産性が高いという結果が出やすかもしれません。

*リモートワークが好影響をもたらす職種とは?

 上述の懸念点は、どうしたらクリアできるのでしょうか。それには、対象者の特性(能力など)を出来るだけ似たものに、恣意的にリモートワーク人材を選ぶのでなく、リモートワークグループをランダムに選択することが必要になります。つまり、出来るだけ特性の似た人たちを集めて、その人たちをランダムに、リモートワークグループと、非リモートワークグループに分けて、グループ間の生産性を比較することが必要になります。恣意性をなくしてランダムにグループ分けすることで、上記の①②③の影響を可能な限り抑えることができます。

 しかし、ビジネスの現場では、働き手の特性を考慮せずにリモートワーク組と、非リモートワーク組に分けるのは難しいでしょう。そこで、下記論文では、特性が似ているだろう同じ大学の研究室の学生を対象に、リモートワーク組と非リモートワーク組に実験的に分けています。(ここでは、研究室の外でタスクを行うグループがリモートワーク組、研究室の中でタスクを行うグループが非リモートワーク組となる)。そして、どのようなタスクの場合に、リモートワークにより生産性が向上するか、低下するかを報告しています。結果は、タイピングだけをさせる単調作業タスクの場合は、リモートワーク組の生産性は、6-10%も低下していることを報告しています。一方で、アイディア創出などの創造性が求められるタスクにおいては、11-20%の生産性向上が見られました。

 この結果の背景には、単調作業の場合は、同僚が周りにいることによる競争心や、飽きやすい仕事になりがちなだけに経営モニタリングの重要性を示唆しているのかもしれません(もちろん、単調作業かどうかは個人で差がありますし、飽きやすいかどうかは各人で違います。ここでは、あくまで実験による検証結果を紹介しており、リモートワーク導入のヒントにしてほしいということで紹介しています)。

E.Glenn Dutcher, "The effects of telecommuting on productivity: An experimental examination. The role of dull and creative tasks" Journal of Economic Behavior & Organization, Volume 84, Issue 1, September 2012, Pages 355-363

 

 この結果を見た時、肌感覚としては納得するところがありました。もちろん、この実証研究論文の全てを鵜呑みにする必要はありません。しかし、リモートワークの生産性への影響を、各社で測定する際のモデル構築や仮説構築のヒントにはなるでしょう。データ社会において、ビジネスを実験的に捉え、トライアンドエラーを繰り返すことが増えています。そんな時に、検証手法で迷ったときは、このような学術論文の知恵を借りるは有効ですし、私もデータと格闘中です!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

応援いつもありがとうございます!

崔真淑(さいますみ)

*冒頭のイラスト画像は、崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』より引用。無断転載はお控えください♪




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