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山々を颯爽と歩いているのは、牛たちだった

給食の時間、毎日のように口にしていた牛乳。私のように好きで飲んでいた人もいれば、苦手な人もいたことでしょう。

ただ、私たちが毎日飲むだけの乳量はどうやって確保していたのでしょう?それは本当に牛たちの負担になっていないのでしょうか?そんな視点を持ているようになったのは大人になってからのことです。

山地酪農」という言葉をご存知でしょうか?

牛の放牧、というと多くの人が、平原をのんびりと歩く牛たちを思い浮かべるのではないでしょうか。

「山地酪農」は文字通り、山に牛を放つ酪農です。急斜面を物ともせず、人間でものぼるのが一苦労の急坂を牛たちが軽々とのぼっていきます。牛本来の力を発揮すれば、これぐらいの斜面難はないそうです。

単に放牧をする、というだけではなく、自然的であることに山地酪農はこだわります。餌は山の野芝、それが牛の体内に入り、また自然へと返っては新たな草木の養分となるのです。なんと子どもをつくるのも分娩をも自然任せなのだそう。

(木々の間を分け入って葉を食べる牛ちゃん。目が生き生きしている。)


岩手県岩泉町、中洞牧場。ここは日本で初めてアニマル・ウェルフェア認証を受けた農場です。ヨーロッパでは広く認知されているアニマル・ウェルフェア(AW)だが、日本では聞きなれない人が多いかもしれません。一般社団法人「AW畜産協会」は5つの国際原則として「空腹と渇きからの自由」「不快からの自由」「痛みや傷、病気からの自由」「正常な行動を発現する自由」「恐怖や苦悩からの自由」を掲げています。52項目の基準に80%以上適合するとAW認証の農場となりますが、中洞牧場はこの中の51項目をクリアしています。

(牧場長の中洞正さんの周りには、自然と動物たちが集まってくる。)

(牛が元気な牧場は、他の動物たちも活発。犬も猫も。)

(夜明けと共に、搾乳をする牛舎班の仕事が始まる。)

(牛舎のストーブの上でくつろぐ猫ちゃんたち)

(中洞さんの部屋着は、酪農と牛への愛情で溢れていた…。)

乳量にこだわり、牛乳を量産しようとすればその分、牛の幸せや健康は犠牲にしなくてはなりません。結果、牛たちを限られたスペースの中で太らせ、限界以上の搾乳をせざるを得なくなることもあります。

中洞牧場では無理に太らせることもせず、体に合わない飼料も与えていません。ストレスをかけられず、健康に育った牛たちの目はどれも生き生きとした光を宿していました。そんな牛たちから搾乳した牛乳は、コクがありながらもさわやかな飲み心地です。低温でじっくり殺菌しているため、雑菌だけが殺菌され、体によい成分やほどよい脂肪分は残っていきます。

自然を利用するのではなく、自然と共に生きること。それは自然本来の力に対して、まず私たちが敬意を持って接することではないでしょうか。まるで牛と一体であるかのように、野芝にごろんと寝転ぶ牧場主、中洞正さんの穏やかな笑顔に、私たちがこれから選んでいきたい未来の姿を見たように思ういます。

(秋が近づくと、山も深く色づいていく。)

(冬の中洞牧場。人間はとても登れない斜面を、牛たちはのぼっていく。)

(自然の中で育ってきた牛たちは、極寒の地でも外で過ごせるのだそう)

▼佐藤慧が文章、私が写真を担当した『しあわせの牛乳』が、お陰様で第二回児童文芸ノンフィクション文学賞、そして第66回産経児童出版文化賞JR賞を頂きました。多くの方に手に取って頂けたこと、改めてありがとうございます。中洞牧場を取材した一冊です。

本書の主人公となった「なかほら牧場」牧場長の中洞正さんをお招きし、講演会を開催致します。特別ゲストは「なかほら牧場」で研修を積み、神奈川県山北町に「薫る野牧場」を設立、山地酪農を実践する島﨑薫さんです。

「『しあわせの牛乳』から、未来を考える」

◆日時・会場・資料代
日時:2019年6月29日(土)14:00~16:30 (13:30開場)

会場:毎日ホール
   東京都千代田区一ツ橋1丁目1番1号 パレスサイドビルB1階

詳細、お申込はこちらから。


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フォトジャーナリスト。国内外で貧困、難民問題の取材を続ける。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。J-WAVE「JAM THE WORLD」水曜日ニューススーパーバイザー。TBS「サンデーモーニング」コメンテーター。 https://d4p.world/
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