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「オンライン観光」には大きな可能性がひそんでいる

動画などで現地を見たり、交流したりする「オンライン観光」が広がっているといいます。

新型コロナウィルスで旅行に行きづらくなり、地方都市の店舗でも「県外の人お断り」などと掲示しているところもあります。駐車場に県外ナンバーのクルマを駐めていたら注意されたという話も聞きますね。そういう状況で苦肉の策として、オンラインで動画中継という対応が注目されているということでしょう。

しかし旅というのは、現地の空気感やにおい、風の肌触りまでをも含めた全体的な体験なので、テレビの旅番組を見ているのとさほど変わりがないオンライン中継にはやはり限界があります。とはいえ、コロナ禍は来年以降も収束するという保証はありません。その先に地方はどのような関係を都市と形成すればいいのでしょうか。

コミュニケーションの拡大という視点で見てみると…

ここでいったん、視点をずらして別の方向から見てみましょう。人と人のコミュニケーションというのは古来、物理的な対面が原則でした。しかし文字が発明されて手紙などでやり取りできるようになり、電話の発明で遠隔地でも音声で会話できるようになり、そしてインターネットで…と経路が拡大してきたのはご存知のとおりです。

2020年においては、人と人のコミュニケーションの経路は無数に広がっています。物理的な対面は基本ですが、メールやSNS、メッセンジャーなどのテキストによる経路、ZOOMやSkypeなどの動画コミュニケーション、さらにはソーシャルVRなど仮想現実テクノロジーを使った新しい経路。それらの経路を人々は駆使し、対面が好きな人は対面で、テキストで書くのが得意な人はSNSで、と得意不得意と相手との相性などによってうまく使い分けているのです。

これはコミュニケーション力、略して「コミュ力」というもののあり方を変化させているといえます。たとえリアルに対面してしゃべるのが上手ではない人でも、文章が上手でテキストでやり取りするのが得意であれば、人間関係を良好にできる。健康の問題や遠隔地に住んでいるなどでリアルに会いにくい場合でも、オンラインミーティングで対面するのと同等の会話もできる。コミュニケーションの経路が多様化し、コミュ力もそれにともなって多様化しているのです。

フェイスブックは人間関係を持続してくれる補完装置

これに加えて、SNSを経由したコミュニケーションの意味についても再度考えてみましょう。たとえばフェイスブック。このSNSの意義は、決して贅沢なランチや休暇で滞在したリゾートを自慢することだけではありません。それよりも重要なのは、日ごろは遠く離れた人々が互いのタイムラインで互いの存在を日々自然に確認できることによって、意図しなくても人間関係が持続できてしまうことにあります。何年かぶりにリアルで対面した古い友人に対し「いつもフェイスブックで見てるから、久しぶりの感じはしないねえ」なんて会話をした経験は、多くの人が持っているでしょう。

つまりフェイスブックはリアルの人間関係を補完し、持続可能にしてくれる装置なのです。フェイスブックがなかったころは、遠隔の友人とは年賀状のやり取りぐらいに薄らいでしまい、それも転居を繰り返せばいつかは年賀状さえ届かなくなり、フェードアウトしていくということが少なくありませんでした。ポスト・フェイスブックの時代には、人間関係は本人が意図しない限りそう簡単には消失しません。

「オンライン観光」を補完装置として捉えてみる

このような現代のコミュニケーションのありようを背景として考えてみると、「オンライン観光」のその先の可能性も見えてきます。オンライン観光は決してリアルな旅を代替することはできませんが、リアルの対面コミュニケーションをSNSやオンラインチャットが補完しているように、旅先の土地と観光客との関係を補完することができるかもしれないのです。つまりオンライン観光だけで完結させるのではなく、ある土地と外部の人との関係を持続させるための補完装置として捉えていけばいいということです。

地方創生の文脈では、移住して定住する「移住人口」だけでなく、何らかの形で繰り返しその土地を訪れてくれる「関係人口」の重要さも言われるようになってきています。一回こっきりの観光旅行ではなく、かといってそこにやってきて定住するわけでもない、ときどきやってきてくれる人たち。

そういう関係人口をどうつなぎとめ、持続する関係をつくれるかが、今後は観光のみならず地方創生でも非常に重要なテーマになってくるのです。この関係性はいったん新型コロナで破壊されたように見えていますが、逆に考えればSNSやオンライン会議などのテクノロジーを駆使することによって、その関係性を補完し補強していく非常に良いチャンスと捉えることもできるはずです。

地方と都市、地方の人と都市の人は、今後はあらゆる経路を使ってコミュニケーションを多様化させ、それらのコミュニケーションの複合的な重なりによって関係をつくっていく。その関係は多様なコミュニケーションによって支えられているがゆえにレジリエンスがあり、新たな人々を引き込む魅力を持つようになるはずです。



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