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 未来の社会は、我々が起こすものであり、生み出すものである。だからこそ、そのための基本的な制約を知る必要がある。

 過去に社会の未来について論じてきた多くの賢人たち、即ち、古くは孔子であり、近代ではジャン=ジャック・ルソー、アダム・スミス、トーマス・マルサス、ジェレミ・ベンサム、カール・マルクス、渋沢栄一など、時代を代表する識者たち、は今のような形では、データを使えなかった。
 今、我々は、データという新たな手段で、この古くて、今も最も重要な問いに新たな光を与えることができる。
 データは、今後の社会についての基本的な制約を教えてくれる。そして、それは、今後の社会をつくるために今何をすべきか、という問いにも洞察を与えてくれるのである。
 
 現代社会における一大問題が、経済的な格差の問題である。
 格差の影響は、経済に留まらない。格差に伴う民衆の不満が、トランプ大統領を誕生させ、英国のEU離脱(ブレグジット)の引き金になった。また、低所得地域を豊かにして先進国に近づけるための開発が、グローバルな経済格差を縮めるた一方で、森の破壊を通してコロナウイルスによるパンデミックにつながった面もある。
 この格差については、多くの研究が行われている。一般向けでも、トマ・ピケティの『21世紀の資本』やノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・ユージン・スティグリッツの『The Price of Inequality』(邦題=『世界の99%を貧困にする経済』楡井浩一、峯村利哉)などの一連の書籍で論じられている。富める者が、よりよい教育を受けてより多くの富を得る構造や、高所得者に有利な税制の問題、さらには、資本収益率と成長率との差、株主資本主義による超高額所得者の出現など様々な要因が指摘されている。
 
 しかし、私は全く異なる結論にいたった。というのも、この10年、私が構築してきた理論[*](これはこれまでで最も単純で仮定の少ない分配の理論である)とシミュレーションによれば
 
 「格差が生じるのには、理由はいらない」
 
ことが明らかになったからである。
 我々は、自然に配分すれば、平等になるはずなのに、なにか理由があって、格差が生じているはずと考えてきた。従って、その理由を明らかにし、対策すべきだと考えていた。
 真実は反対なのだ。自然に配分すれば極端な格差になるのであって、平等にするには、何か特別なことを行う必要があるのだ。富の分配を平等にする努力をしない限り、極端な格差が生じるのである。
 
  平等には理由があるが、格差には特別な理由はない

のである。「自由」に配分すれば格差が生じ、意識的に平等にすることによって初めて格差が回避できるのである。
 
 フランス革命の有名なスローガンが「自由・平等・友愛」。
 ここで論じるのは、この「自由」と「平等」の関係である。実は、「自由」と「平等」は両立しないのである。平等は必然的に自由の制限を伴うのだ。自由を制限しただけ、平等は得られるものなのだ。
 「友愛」の原語はFraternite。コミュニティでの絆や助け合いを意味する。対面する相手を体で応援し、応援されるコミュニティこそが、幸せであることを別のノートで紹介した。これはまさに「友愛=Fraternite」と解釈できる。すなわち「友愛=幸せ」である。
 しかし、極端な不平等や格差はコミュニティを分断し、「友愛=幸せ」を困難にする。「自由」と「平等」との関係を正しく理解し、制御しなければ「友愛=幸せ」は脅かされるのだ。

[*] 初期の理論とシミュレーションについては拙著『データの見えざる手』の第1章に書いたが、現在では、これを大きく発展させた最新の理論を構築した。その詳細は別の機会にご紹介したい。


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