金融制裁は、米ドル覇権をどう変えるのか?〜世界が細分化されるは本当か〜
ロシアへの軍事侵攻を受けて、西側諸国がロシア系金融機関をSWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出す金融制裁を行なっています。これにより、中露関係が密になることで、世界が細分化されるのではないかと懸念されています。つまり、中露によるドル離れが加速し、中露側の国々と、西側諸国川の国に世界が分裂するかもしれないとの懸念です・・。しかし、下記の記事にもあるように、中国が主として築いた決済網CIPSは、SWIFTに依存しており、海外の銀行がCIPSに決済の指図を送るにはSWIFTを使う必要があります。今すぐ、世界が二分化されることはないと、多くの投資家は想定しているようです。ただし、じわりじわりとは、世界の決裁網の構図に変化をもたらすかもしれません。今回は、世界の決裁網で主役の米どるの影響力と、その未来について考察します。
米ドル為替レートによる企業経営への影響に関する通説と学術的エビデンス
米ドルの為替レートの変動は、世界中の経営者が注目しています。世界の決裁の主役であり、米ドル為替レートの変動は企業経営に大きな影響をもたらすからと言われています。そして、本当にそのようなことが起きているかをデータを用いて検証したのが下記の研究です。
IMFの経済レビューでは、国レベルのデータと、企業レベルのデータを用いいて、米ドル高は新興国への投資低下に関連していると報告しています。それだけ、米ドル為替レートは、投資意欲に影響しうるのです。
また、BISのワーキングペーパーでは、ドルの為替レートが世界の輸出動向に影響をもたらすことはもちろん、ドル高が諸外国の輸出に悪影響をもたらしやすいことを指摘しています。1990年代のアジア金融危機の時にも、このような現象は見られましたが、いまだにその傾向は続いているようです。
世界の二分化の可能性と米ドル覇権
さて、このように世界の経営者に大きな影響力を持つ米ドルは、ロシアへへの金融制裁によって、影響力に変化は起こりうるのでしょうか?The EconomistとFTに、非常に興味深い見解を述べています。まず、The Economistでは、もちろんCIPSがSWIFTの代替にはならないだろう。また、ロシアが中国に提供できる如何なる価値よりも、中国にとっては世界中の国々と金融ネットワークと繋がっている方がはるかに価値がある。だからこそ、中国はロシアに肩入れすることで、西側諸国による二次制裁を懸念してロシアとは距離を置く可能性もあると記載しています。これを読むと、いきなりロシアと中国が密になり、世界が二分化されて、米ドル覇権が停滞するというのは考えにくそうです。
米ドル覇権は徐々に停滞の可能性も?
しかし、FTでは、別の要因から米ドル覇権が徐々に小さくなる可能性を指摘しています。それは下記の引用部分にあるように、既に米ドルシェアが徐々に低下しつつあることや、中国人民元の影響力が本当に徐々にですが伸びてきていることを指摘しています。さらには、デジタル人民元の登場もドル覇権に影響しうることも指摘されています。
オーストラリアドルを中心とした他の貿易決裁通貨の出現により、過去20年間で外貨準備の米ドルのシェアが70%から60%に低下している。
米ドルのシェアの下落の約4分の1は、中国人民元の使用拡大によって説明でがつく。しかし、IMFデータは、今のところは中国人民元の、世界の中央銀行の準備金の3%未満しかないことを示している。
今起きている金融制裁が、世界をすぐに二分化する可能性は小さいかもしれませんが、米ドルの影響力は構造的に変化が続きそうです。さて、このトレンドは早まるのか、、
今後に注目です!
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崔真淑(さいますみ)
*冒頭の画像は、崔真淑著『投資1年目のための経済・政治ニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)より引用。無断転載はおやめくださいね♪
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