見出し画像

為替介入は、金融市場に影響力を与えられないは本当か?〜33ヵ国データの最新研究で見えた動き〜

 急激な円安による物価高への影響が懸念されています。急激な為替変動は企業活動にネガティブな影響(投資に消極的になるなど)が及ぶことが先行研究でも報告されています。物価高だけではなく、日本経済停滞も懸念されています。こうした環境を見過ごすことはできないとばかりに、下記の記事が指摘するように日本政府は為替介入を行なっているようです。つまり、政府が金融市場でドル売り円買いを行うことで、円安を食い止めるようとしているのです。一部の投資家や専門家は「巨大な金融市場を、一国の政府の力だけで流れを変えようとするなど無理だし無駄」という主張がされています。私自身も、為替介入の効果など短期的にしか持続しないのでは・・と思っていました。しかし、最新研究を俯瞰してみると、「為替介入は無理無駄」と切り捨てて投資戦略や為替予想をするのは少しリスクのある考え方なのかもしれません。

為替介入の効果を測定する難しさ

 為替介入による金融市場への影響力を検証した論文は多数存在します。しかし、それはデータが取得できる国に限られたりと、「為替介入」と「金融市場の変動」との「因果関係」や「普遍的な効果」を測定するには不十分でした。例えば、A国の為替介入が成功したとしても、それは他国が同様のことを実施しても同じような結果がもたらされるかは未知数であり、たまたまA国が成功しただけかもしれないのです。為替介入の普遍的な影響力を測定するには、できるだけデータの偏りを無くす必要があります。しかし、為替介入に関するデータを開示してない国も多数存在することから、長年の課題として認識されてきました。なので、「為替介入は無理無駄」と切り捨て流には、エビデンスが足りない状況が続いていたのです。

33ヵ国データで検証した最新研究

 そうした課題をできるだけ克服しようとしたのが、経済学の学術雑誌TOP3に掲載された下記の研究です。この研究では、33ヵ国の中央銀行(為替介入は政府が意思決定をして、中央銀行が指示を受けて行うことが多い)のデータを対象に分析していますが、そのうち23の中央銀行はデータを一般に公開していません。著者達は、独自に入手したデータを活用して、為替介入データ非公開の国に対しても検証しているのです。対象期間は、1995年から2011年です。この研究では、日本のデータも踏まえて検証しています。
 研究者として活躍するには、単なる頭の良さだけでなく、こうした入手が難しいデータと、そこから意味のある仮説&検証ができるかが鍵を握るのですが、それを忠実に実施している研究です・・すごい!

Marcel Fratzscher, Oliver Gloede, Lukas Menkhoff, Lucio Sarno and Tobias Stöhr Source, "When Is Foreign Exchange Intervention Effective? Evidence from 33 Countries" , American Economic Journal, January 2019, Vol. 11, No. 1 , pp. 132-156
https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/mac.20150317

 

為替介入にも様々なタイプが存在する

 上記の論文では、まず為替介入には二種類が存在していることを報告しています。今回の日本政府が行なっているだろう「為替相場の方向性を変える為替介入」と、中国政府や香港などが導入している、ある程度の変動を許容した固定相場を維持するために行う「為替相場の動きを滑らかにする為替介入」があります。
 後者の為替介入の成功率は約80%、前者は60%とこの研究では報告しています。この成功確率を高いとみるか低いとみるかは、様々な意見があるでしょう。私は、意外にも高いと感じました。
 加えて、この研究でも報告しているように、2000年代までの為替介入の研究(Schwartz 2000 など)では、為替介入の有効性に懐疑的な研究が多かったものの、データセットが充実した現代では、そうした先行研究を覆す研究報告が増えてきています。

同じ意見ばかりの時は危険?

 私は、ビジネスでも投資でも、同じ意見や主張ばかりが並ぶ時は、ちょっと危険を感じる時があります。今回の為替介入も無理無駄という意見をよく目にしますが、こうした時ほど、様々なエビデンスに目を通しつつ俯瞰した見方が必要になるのかもしれません。と、偉そうなことを書いてしまいましたが、これも一人の意見としてみてくださいな(汗)

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
応援いつもありがとうございます!

8月に出産したばかりで、育児に全力投球中ですが、仕事も励みつつがんばります!
引き続きよろしくお願いします!

崔真淑(さいますみ)

**冒頭の画像は、崔真淑著『投資1年目のための経済・政治ニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)より引用。無断転載はおやめくださいね♪



コラムは基本は無料開示しておりますが、皆様からのサポートは、コラムのベースになるデータ購入コストに充てております。ご支援に感謝です!