「どう変える非正規社員」

 非正規の働き方に対する捉え方、非正規という働き方のデザインの仕方で正社員というものは大きく変わっていくのではないかと考えられます。

 プロジェクトベースで複数の仕事を並行してこなす働き方であるインディペンデントコントラクターという言葉に馴染みがなく、非正規という言葉が社会に馴染んでしまったことは、柔軟な働き方、働き方改革の促進にとって不幸な下地となっているのかもしれません。非正規雇用は働き方改革という言葉に先立ち、私の世代が直面した就職氷河期からネガティブな働き方として世の中に紹介されてしまいました。正社員の働き方改革という世の中の動きが先行したなら、来る人口減少時代に備えて優秀な人材が会社から飛び出し、インディペンデントコントラクターとしてのびのびと活躍し、多くの企業でイノベーションを引き起こすような構造が生まれやすかったでしょう。しかし現実には、積極的にイノベーションを起こして生産性を高めるのではなく、人件費をカットすることで見かけの業績を高める装置として正社員でない働き方が広がってしまいました。メンバーシップ型と呼ばれる雇用形態では、職務が明確化されないがために、フルタイムで何でもできる汎用的な人材が正社員として求められ、給与は能力ではなく職位で決められてしまいます。ライフイベントなどで常にフルタイムで働くことが難しい人材は、非正規社員というポジションに置き換えられ、たとえ同じ仕事をこなしていても賃金も低く設定されるようになってしまいました。しかも、新卒一括採用の慣習の中では一度正社員から外れると正社員に戻ることが非常に難しい労働市場です。このことは人材を正社員というポジションに固執させ流動性が高まらない方向に作用しています。

 私は科学技術振興機構の未来社会創造事業において、多様な人材の柔軟な働き方を促進するために、メンバーシップ型の雇用から、能力と対応づけられたジョブ単位で人と仕事を紐付けるジョブ型の雇用へ移行するためのジョブマッチングプラットフォームの研究開発に取り組んでいます。「育てる」「育む」という意味を含み、能力の要素を表すelementや、多様な人材の一つである高齢者elderlyの語根であるelと名付けています。

このプロジェクトの中で働き方に対する自己意識が、男・女、正規・非正規の別で若手から中堅に進むにつれてどのように変化していくのかを約800名を対象に調査分析したことがあります。具体的には、コミュニケーション、自己主張、感情制御、世代伝承、変化対応、意欲、積極性の項目についてポジティブな意識を持っているかネガティブな意識を持っているかを調査いたしました。結果としては、若手正規の男性社員が感情制御以外において非常に高い自己評価を行っていました。男性は正規、非正規を問わず、若手から中堅に移行するに従って自己評価は軒並み下がり、特に意欲が顕著に下がりました。向上する項目としては、正規では自己主張と積極性で非正規では感情制御と積極性でした。女性は男性とは反対の傾向を示し、正規、非正規とも若手から中堅に移行するに従って、コミュニケーションに意欲と積極性を中心に自己評価は向上する傾向にありました。この結果は、現在のメンバーシップ型の雇用における正社員というものがシステムとして機能不全を起こしていることを如実に表しているのではないかと感じています。

 大学の研究者という組織は、もしかしたらどこよりも労働者の非正規化が進んでいる職場かもしれません。

 しかし、主に特任教員と呼ばれる任期付のポジションは柔軟に給与を設定できるため、大型の競争的資金などの財源さえ確保できれば、様々な分野から優秀な人材を集めるためと、福利厚生や退職金が得られない反面、正規の教職員よりも高い給与で雇用されることが多いです。また大学運営の雑務も少なく研究に専念しやすい環境を得ることができます。資金獲得能力の高い研究者が敢えて正規のポジションから離れて非正規のポジションを選択するように変わってもおかしくない要素があります。大学のようなところから非正規の働き方をインディペンデントコントラクターとして捉え直す動きが広がっていくかもしれません。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

21
東京大学先端科学技術研究センター講師。博士(工学)。人間拡張工学、複合現実感、ロボティクス等の基礎技術研究から、超高齢社会が直面する諸課題にアプローチする情報通信システムの研究開発と社会実装に取り組んでいる。著書に『超高齢社会2.0 ~クラウド時代の働き方革命~』(平凡社新書)。