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シンプルとミニマル。ローソンと良品計画。

2020年春、ローソンがプライベートブランドのパッケージデザインを一新しましたが、ユニバーサルデザインの観点が抜けているとして批判が多く集まりました。

私も駅前のローソンに通っているので顧客のひとりですが、たしかに冷凍食品などは如実に分別がつきにくいと感じます。

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見た目から察しやすいように「無印良品を目指したのでは?」と囁かれていましたが、先程ローソンがその無印良品を展開する良品計画と提携したとの報道がありました。

今回は、なぜローソンが良品計画と組む意思決定をしたのかという公式コメントが出る前に、今までローソンが発表してきた方針・狙いや前述したプライベートブランドなどから、これからローソンが何を目指していくのかを推測していきます。


無印良品はミニマルではない

さて、良品計画との提携で「プライベートブランド(PB)商品の開発にも乗り出す」と報道にあることから、明らかにプライベートブランドは「シンプル」路線でいくのだろうなと推察できます。

なぜならば、無印良品といえばシンプルなデザインを売りにしており、それはサイト上でもしっかりメッセージとして提示しているからです。

無印良品の商品の特徴は簡潔であることです。極めて合理的な生産工程から生まれる製品はとてもシンプルですが、これはスタイルとしてのミニマリズムではありません。
(「無印良品の未来」より)

上記のように、無印良品はミニマリズムではないと断言していますが、時折シンプルとミニマルを取り違え、無印良品をミニマルなデザインだと評する方々がいらっしゃるのを目にします。

件のローソンの新パッケージデザインも、同様に「ミニマルなデザインでいいと思う」のような意見が散見されますが、実際のところあのデザインはミニマルではないと私は思います。

かといって、シンプルなのか?と問われても言葉に詰まります。

なぜならば、たしかに以前のパッケージよりはシンプルになったのだけれども、それは結果的に、相対的にシンプルになっただけであって、そのリデザインの狙いは他にあるからです。

それではまず、シンプルとミニマルの違いをみてみましょう。


シンプルとミニマルの違い

ラフではありますが、表にしてみました。

シンプルとミニマルの違い

ひとつずつ解説していきます。

一般的な定義

辞書にのっている定義です。
イメージしにくいと思うので、他の言葉で違いを明確にしてみましょう。

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広野流定義

せっかくなので私なりの解釈もご紹介します。

シンプルもミニマルも共通しているのは、対象物に対して「引き算の美学」を適用する性質であることですが、その引き算の目的が異なるのです。

シンプルは「正のベクトル」への抗い、すなわち何か要素が足される行為そのものへのアンチテーゼとして振る舞う一方、

ミニマルは「正であること」への抗い、すなわち本質的なもの以外のものが正の数として存在することそのものへのアンチテーゼとして振る舞いをするわけです。極端ですね。

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性質

シンプルが目指すところは単純なスタイルであり、いわゆる「普通」を指向するものであるのに対して、
ミニマルは前述したように極端に振る舞うためスタイルとしては尖っている状態を指し、故に「普通」ではありません。

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少なさ

豪華絢爛な装飾を拒み削りつつ、コンテンツそのものへのアプローチは控えめなのがシンプルにするという行為だとしたら、それは「質」を少なくすると言い換えられます。

一方、ミニマルにするという行為は「量」を少なくします。コンテンツそのものにアプローチして、本当にこれが必要なのか?を強く問い続けます。

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オリジナリティ

シンプルにすることは質を省き特徴を削る行為でもあるので、どの主体が対象をシンプルにしてもほぼ一様になると考えることができます。

一方、ミニマルは極端な削り方とそれによる普通ではない尖りによって、オリジナリティを出すことが可能です。

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少しくだらない分け方ですがイメージのしやすさを優先して書きました。北欧のデザインはシンプルであると一般に言われます。それは色数の少なさや派手すぎない装飾、余白のうまい使い方などで世界中からそのデザイン性が愛されています。

では日本はどうでしょうか。いまや国としてデザインが優れているなどと嘘でも口に出せませんが、旧日本のいわゆる「わびさび」の文化はミニマルを極めた形であると世界からも評されています。
龍安寺石庭、禅、俳句、生花、盆栽など、考えてみれば究極に洗練・制限された中で配置する嗜みは分かりやすくミニマルな行為です。

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プロダクト

無印良品の商品は、当ブランドが自ら発信しているようにシンプルであることを念頭においてつくられています。

Appleの提供するiPhoneも、そのデザインのシンプル性で人気を博していますが、登場当時の設計思想はどちらかというとミニマルに近いと言えます。それまで携帯電話では当たり前であった1〜9の物理キーやその他のボタンをすべて取っ払い、ボタンひとつで操作させるように携帯をミニマルにリデザインしたスティーブジョブズは、禅と瞑想を好んでいたそうです。

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アプリ

こちらも我ながら眉唾な分類ではありますが考え方のひとつとして。

情報管理ツールであるNotionは近年IT業界を中心に盛り上がりをみせていますが、Notionは装飾という装飾を取り除き、ユーザーができるだけかんたんに早く無駄なく情報にアクセスできるように設計しています。その意味でシンプルなアプリを目指しているといって間違いないでしょう。

一方ミニマルなアプリはというと、たとえばTwitterはそれまで個人発信のテキストメディアが主にブログだった世の中で「140字」というルールでコンテンツ側を制限することで世界中の人々に使われるようになりました。
Instagramも最初は「写真のみ」投稿できるアプリという制限があり、そのコンテンツへの極端な制限がときに人を熱狂させるという意味で、今後新しいSNSをつくるにあたってこのミニマルという観点は鍵になってくるのかもしれません。

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ローソンはシンプルを目指したわけではない

シンプルとミニマルのそれぞれの特性が理解できた上で、ローソンの新パッケージデザインに目を向けてみましょう。

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明らかにミニマルには当てはまらないのがわかります。

要素の「量」が少ないわけでも、極端に要素を削って「尖ってる」わけでもなく、むしろ要素としては素材のイラストが円環状に連なっていて、色も彩度は低いものの色相のバリエーションは少なくありません。

ではシンプルか?

たしかに結果としてのこのパッケージは相対的にシンプルになりました。

旧プライベートブランドは、商品の写真を大きく載せて、それぞれの商品の色味などに合わせてテキストや全体的なスタイリングを個別最適化したデザインだといえます。

それと比較すると新ブランドは、同じカテゴリーのパッケージではすべて要素の位置やテキストのサイズなどを一緒にして、プライベートブランド全体で統一感があるように派手すぎないスタイリングを施したという意味で、相対的に「質」が削られたシンプルなデザインだとも考えられます。

しかしながら、ここで今一度ローソンのプライベートブランドの狙いをみてみましょう。

【L basic(エル ベーシック)】
(略)
価格や商品説明を店頭販促物に記載することで、購入後の生活空間に入り込む情報が減るように配慮しました。

【L marche(エル マルシェ)】
(略)
従来のパッケージにあったような大きな商品写真ではなく、優しい印象のフォントと共に中身や原材料などがわかる手描きのイラストをパターン状にあしらうことで、女性でも手に取りやすい柔らかな表現を目指しました。

(ローソン ニュースリリース「ローソン店舗に「nendo」デザインの新型コロナウイルス感染防止ポスターを掲出」より)

つまりローソンは、「L basic」と「L marche」でそれぞれ「生活空間に溶け込む」スタイリングと、「女性でも手に取りやすい」スタイリングを目指したのであって、根っからシンプルを指向してデザインされたものではないわけです。

特に戦略なしに根っからシンプルを指向するのであれば、価格や商品説明はパッケージの裏の方にそのまま記載した上で整えて配置するだろうし、手描きイラストを使ったかわいいあしらいもあえて手間をかけてしないはずなのですね。

よって、ローソンの新パッケージデザインを語るときに「ミニマリストのデザイナーがつくるデザインはやっぱりミニマル」のような言説はもってのほかですが、「シンプルにすればいいってもんじゃない」と批判することも、新パッケージデザインがシンプルを目指したものであると言えない以上、本質とは的はずれな意見に終わってしまうと私は思います。

きっと、今回ローソンのクリエイティブパートナーとなったデザインオフィス「nendo」と社長の間では、他のコンビニがやっていなくて、顧客志向のローソンらしさも出したプライベートブランドの戦略を考えた末に、「生活空間」と「女性」というキーワードが出たのであろうと考えられます。

そしてこのキーワードは無印良品が提供している価値・ターゲットと一致するのです。


ローソンと良品計画

良品計画の提携とnendoとの方針決定、どちらかが先だったのかは彼らのみぞ知るところですが、ともかくローソンは少なくともプライベートブランドに関しては無印良品的であることを意思決定したのであり、他社との差別化とブランドとしての振る舞いをそれこそシンプルに示していることから、それはれっきとした戦略であると言えます。

nendoはこの戦略に沿った戦術として今回のデザインを見事やり遂げた、いや、あえてやり遂げすぎたのだと私は感じています。

というのも、6月9日夜、ローソンの竹増貞信社長がハフポストのライブ番組「ハフライブ」に出演し、新パッケージデザインについて議論しており、私も最初から最後まで観ておりましたが、その中で「デザインとして一旦振り切ってみてから、実際のお客さんの声をきいて修正していこう、と判断した」という旨のコメントがあったことを覚えています。

きっと「やりすぎだよな…」とは竹増社長もnendoも思っていて、ある程度批判を受けるのは承知していたのだと思います。

それを承知しながら彼らがGOを出したのは、既に良品計画と共にプライベートブランドをつくりあげることが決まっていて、その取り組みによって生まれるローソンの新しい姿を信じていたからではないかと思うのです。

そして、その姿は、無印良品のスタンスと非常に合致するものがあると私は考えております。

ローソンが目指す通り、商品が「生活空間に溶け込む」ためには、その商品は主張を持ってはいけません。透明である必要があるのです。本当に物質として透明であるという話ではなく、何色にもなれるような自由な存在でなければなりません。

かたや無印良品ですが、冒頭で記載したメッセージには続きがあり、以下のように記されています。

(前略)これはスタイルとしてのミニマリズムではありません。それは空の器のようなもの。つまり単純であり空白であるからこそ、あらゆる人々の思いを受け入れられる究極の自在性がそこに生まれるのです。
(「無印良品の未来」より)

空っぽであるということ。
空っぽだからこそ、それぞれの家庭の色に染まり、そのまま彩れる存在。

ローソンがこれからなろうとしているのは、インフラとしていつもそこに当たり前にあり、いつの間にか生活に溶け込んでいて、親しみやすい友人のような、家族のような、そんな姿なのではないでしょうか。

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一般社団法人デザインシップ代表理事。デザインを軸に事業をしながら、個人でスタートアップの新規事業立ち上げをお手伝いしてます。noteでは主にデザイン×ビジネスについて発信しています。

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