全国の地方自治体で「複業採用」が注目されている理由
株式会社HARES/複業研究家の西村です。
あっという間に5月も終わろうとしています。5月はGWがあるせいかいつも以上に短く感じてしまうのは僕だけでしょうか…?
今月もとあるメディアから複業について取材いただいたのですが、非常に良く聞かれるのが「最近の複業・副業トレンドを教えて下さい!」という質問です。
副業と複業の違いについてはこちらの記事を参照ください。
以下、表記を「複業」に統一します。
「どんな複業が流行っているんですか?」というミクロな視点ではなく、「複業を取りまく社会全体がどう動いているのか?」というマクロな視点での質問の場合、真っ先にお伝えしているのが「自社の社員の複業を認める『複業解禁』のみならず、組織外の優秀人材を複業で採用する『複業採用』の動きが広がっている」という話です。
中でも象徴的なのが「全国各地の地方自治体が、人材難を解決しようと積極的に複業採用にチャレンジしている」点です。
記事内では、渋谷区や京都市の事例が紹介されていますが、「複業人材に熱視線」を浴びせているのはそうした主要都市だけではありません。
複業マッチングプラットフォーム『複業クラウド』を手がけるAnother worksだけでも、2020年10月の奈良県三宅町を皮切りに、埼玉県横瀬町、山梨県大月市、福岡県豊前市などの自治体が複業人材の登用に踏み切っています。
後に続け!とばかりに、大阪府岬町、香川県さぬき市、高知県宿毛市、滋賀県守山市、宮崎県延岡市も同様に複業人材の登用を進めています。
2020年以降、地方自治体で複業採用が一気に進んだ2つの理由。
上記はAnother works社との取り組みですが、神戸市が「副業人材」40名の募集をしたり、岡山県岡山市が兼業・副業限定の戦略マネージャーを募集するなど、数多くの地方自治体が複業採用に舵を切っています。
広島県福山市(2018年)、奈良県生駒市・長野県塩尻市(2019年)など、地方自治体が複業採用を行うケースは、以前からありましたが、急拡大したのは2020年から2021年にかけて。
つまり、この1年ちょっとで一気に急拡大したことになります。
2020年以降、地方自治体における副業採用が急加速したのは、言うまでもなくコロナ禍によって働き方が急変したことと強く関係しています。
まず1点はコロナ禍でさらに副業解禁に踏み切る企業が増えたことに加え、在宅勤務が進んだことで個人の可処分時間(自由に使える時間)が増加したことで、複業に興味・意欲を持つ「複業人口」が増えたこと。
通勤時間がなくなったことで、余暇にかける時間など自由に使えるプライベートの時間が増えたことがわかる。
引用元:NRI「在宅勤務活用による働き方・暮らし方の変化に関する調査」 (2020年7月)
もう1つは、ZoomをはじめとするWeb会議ツールや、SlackやChatwork、Teamsなどのオンラインチャットツールが普及したことで、時間と場所の制約があっても、気にすることなく地方自治体や地方企業の仕事に複業で従事できるようになったこと。
コロナ禍で在宅勤務を余儀なくされた結果、会社員の約半数がビジネスチャットツールを、8割がWEB会議ツールを利用していたことがわかった。
引用元:矢野経済研究所「国内のテレワーク関連ソリューション市場調査」 (2020年7月)
この2つの理由のうち、特にインパクトが大きかったのが後者の「時間と場所の制約がなくなったこと」です。
計らずも、新型コロナウイルスが日本で猛威をふるいはじめる直前、2020年1月に日テレ「the SOCIAL」に出演した際のテーマがまさに「地方の兼業・副業に交通費支援」でした。
実を言うとコロナ禍以前から、地方(自治体・企業ともに)における量的・質的な人材不足を解決する救世主として「複業人材」は大きな期待をされていました。
そこで打ち出されたのが、こんな政策でした。
政府は2020年度に、東京圏に住みながら地方で兼業や副業をする人に交通費を支援する制度を始める。20年度予算案に計上した1000億円の地方創生推進交付金を活用し、1人当たり年間50万円を上限に3年間で最大で150万円を支給する。交通費が往復で1万円を超える場合、国と地方自治体がその半分を兼業や副業先の企業に助成する。
これに対して僕は番組内でこんなコメントをしました。
「交通費の支援」が、地方での兼業・副業を促進する上でプラスになることは間違いありません。
一方で、「交通費の支援」で解決できるのは往復の移動にかかる金銭的コストのみです。それと同じくらい。もしくはそれ以上に重要なのは、往復の移動にかかる時間的なコストを解消することです。
単発で関わるだけなら金銭的支援だけでも十分かもしれませんが、継続的に地方に関わり続けるためには、物理的な時間コストをかけずとも、オンライン・リモートでコラボレーションできる仕組みづくりが不可欠です。
Zoomでもなんでも良いのですが、オンラインミーティングツールを導入すること。SlackでもChatworkでも良いのですが、ビジネスチャットツールを活用すること。
こうしたオンラインコラボレーションツールを導入して、「いつでもどこでも仕事ができる体制」を構築することが、地方における兼業・副業人材の活用には不可欠だなーと思っています。
その後、またたく間に日本でも新型コロナウイルスの感染が急拡大し、「地方で兼業する際の交通費支援」という支援策は日の目を見ることがなかったわけですが、思いもよらぬカタチでオンライン・リモートでコラボレーションできる仕組みづくりが進んだことで、2020年から2021年にかけて、地方自治体における複業採用が急拡大した、というわけです。
皮肉なものですが、これを奇貨として複業採用を進めるのはとても良いことです。
コミュニケーションのオンライン化が進んだことで、一気に地方自治体や地方企業の仕事を複業で取り組むハードルが下がり、交通費の支援だけでは実現できなかっただろうレベルのスピードで、これまではアプローチが難しかった専門性を持ったプロフェッショナル人材を複業で採用・登用することに成功しているわけですから。
一方で、複業採用に踏み切ったものの、複業人材の持つ専門性をうまく活かしきれないまま終わってしまった地方自治体や地方企業も少なくありません。
複業人材をうまく活用できている地方自治体(または地方企業)と、そうでないところのちがいは一体どこにあるのか。複業人材活用のポイントは一体何なのか。
これについてはまた機会があれば別途筆を執ってみたいと思いますが、長くなってしまったので今日はここまで!
また来月もお楽しみに!
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