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企業内スタートアップの罠とジレンマ⑥ 〜VUCA時代の子育てと新規事業

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こんばんは、uni'que代表若宮です。

さて、企業内新規事業について書いてきました。おさらいをすると、

・1.事業のミッション:

新規事業は起業ではなく「他由」。「事業で会社にどういう貢献をするか」がすり合わせできているか?

・2.事業のコアバリュー:

その事業には他でもない「自分たちならでは」のバリューがあるのか?

について書いてきました。理想的にはこれら2つは事業の立案段階で明確になっているべきなのですが、今回はそのあと、”事業運営”のためのもう少し具体的なお話として「事業のフェーズ」ということについて書きたいと思います。

「事業は生き物である」?

「事業は生き物である」というような話を聞いたことはあると思います。ですが残念なことに、多くの場合その本質はあまりちゃんとは理解されていない気がします。

この連載で、再三「これは教科書ではありません」とお断りしてきてきたのも実はそのためなのですが、「事業は生き物」は言い換えると「無時間的な真理はない」ということです。

たとえば、企業の新規事業マネージャーや担当者で、名著『リーンスタートアップ』を読んだ方は多いと思います。前職でも前々職でもそれはそれはバイブルのように読まれた本で、これは本当に参考になる本ではあるのですが、同時におそらくかなりの新規事業の現場で「毒」になった本でもあります。

以前の連載で、「赤ちゃんは来年1千万稼ぐようにはならない」という話を書きました。

https://comemo.io/entries/10813

これは事業を人間にたとえると0→1型の事業はまだまだ「赤ちゃん」で、いくら英才教育をほどこそうと時間はショートカットできないし、もし短期のリターンを期待するなら赤ちゃんより養子とかも考えた方がいい、ということです。いつもいつも『リーンスタートアップ』が有効なわけではない。要はものごとには目的に応じて適切なタイミングがあるのでそれを間違ってはいけないよ、ということを言いたかったのです。

「生き物」とはどういうことでしょうか。

それは無機物や人工物とはちがい、「変化する」ということです。

時間によって状態が変わるし、関係性も変わる。パンタレイ。

「無時間的な真理」というのは実はありません。ある時には正解だったものが、ある時には誤謬になる。ですから大事なのは、常に「時間」というファクターを意識することで、それを考慮せずにどんな時でも教科書のように形だけそのまま適用してしまうと、それはむしろミスリードになるし、とても危ないのです。

教育は年齢で変わる。

たとえとしてイメージしやすいので、もう一度、事業を人の成長に倣って考えてみましょう。

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赤ちゃんに対する教育の目的やケアと、大学生に対するそれがちがうように、事業のフェーズによって重視すべきKPIと採用すべき戦略は異なります。

たとえば「0→1の事業をつくれ」と言いながらロンチ後すぐ、「広告でブーストさせろ」とか「マネタイズどうなってる?」とかいうマネージャーが少なからずいます。

これは赤ちゃんが生まれたばかりなのに「よしプロのコーチをつけよう!」とか「この子は1億円プレーヤーにするぞ」といっている親のようなものです。

将来どうなるか、や親の期待より、赤ちゃんの時には赤ちゃんの時なりのもっと大事なことがあります。

それはまず元気に育ってるかな?ということとです(シード期)。何歳でしゃべりはじめたとか歩いたとか、「うちの子天才じゃね?」「オリンピックとかでちゃう?」とかその時には一喜一憂しますが、子育てを終えた方ならわかるように、赤ちゃんの時の差はほとんど意味がありません。ある程度大きくなるにつれて、サッカーをさせてみたりピアノをさせてみたりしながら、本人に合うものが少しずつわかってきます。(プロダクトマーケットフィット)

そしてやりたいことが見えてきたら「進路」を決めて大学に行ったり留学したり、さらにそれを伸ばす環境を整えます(グロース期)。就職や年収のことを考えるのは、さらにその後です(マネタイズ期)。

KPIや戦略をフェーズごとにまとめるとざっくりこんな感じになります。

・赤ちゃん: 【元気さ】→熱量、アクティビティ指標
・幼少期: 【向き不向き】→プロダクトマーケットフィット、 RR
・成長期: 【才能を伸ばす】→ユーザー規模、MAU成長率
・壮年期: 【年収】→売上・GMV
・シニア期: 【貯蓄】→利益、利益率

しかしこういう時間軸というのは、残念ながらなかなかちゃんと意識できない。

(ちなみにここでいう「時間」は「事業を始めてからの期間」とは必ずしも一致しません。それよりはその事業や市場の成熟度と考えてください。後発参入や買収の場合、いきなり成長期から始める、というケースもありえます。)

子育てをしていても起こることなのですが、壮年期になると自分が赤ちゃんだった時のことは忘れてしまっているので、自分が「正解」だと思いがちです。「成功体験の罠」や「イノベーションのジレンマ」「さよなら、おっさん」、これらはすべて時間が違うことを忘れ、自分の正解を押し付けるために起こることだと僕は考えています。

またその逆の罠もあります。赤ちゃんから幼少期まで進んだスタートアップが、いつまでも同じKPIを見続けて成長のための戦略を取るタイミングを逃してしまう。中学生になっても小4の時のドリルをやり続けてちゃいけないんです。事業の成長とともにギアチェンジしなくちゃいけない。

「サービスを後ろからみるな」

DeNAで新規事業をしていた頃のボス、元mixi副社長の原田明典さんからは本当に多くのことを教わり、毎日目から5、6枚うろこが落ちる日々でした。中でも衝撃的なほど開眼させてくれたのが「サービスを後ろからみるな」という言葉です。

企業が新規事業をする時、特に大企業では規模が大きな事業をつくろうとします。そうするとたとえばAmazonとか大きくなったサービスをみて、あれもこれもと機能に盛り込み、「総花」的なサービスになってしまう。

ですが、これは成長しきったAmazonを見て惑わされた誤解なのです。成功者をみて彼が結果的にMBAホルダーだったり英語を話せたりすると、英語を話せなきゃとか経営学学ばなきゃとかスポーツもできなきゃとか親はあれもこれも求めますが、実は事後的に獲得されたものも多いし、そもそも成功と因果関係がないこともあるのです。

よくAmazonの成長モデルの話をします。Amazonはご存知の通り、世界随一の巨人で、いまでは扱っているものがないほど取り扱い商品は多岐にわたります。

Amazon NowもAmazon Dashもある。Kindle Unlimitedもあるし、なんなら「バチェラージャパン」だって観ることができる。

ですが、これは最初から揃っていたわけでは全くありません。

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いまはなんでも売っているAmazonですが、最初は「本」から始まりました。そして書籍のうちでも、初期のAmazonがECの蓋を開けたのは、「希少本」という、なかなか書店では売っていないレア本へのニーズだと考えています。

僕はよく、「バリューの収支」という話をするのですが、ユーザーがサービスを使いつづけるのは、「サービスによって得られるバリュー」と「サービスを使うためのコスト」(お金だけでなく、手間や心理的コストも含む)の収支を考えた時に、それがプラスである時です。

そしてこの「バリュー」や「コスト」は時間とともに変化します。特にコストは社会への浸透や企業努力によって時間とともに下がっていきます。(「使いやすくUIを改善すればニーズが生まれる」という考えがありますが、僕はコストをさげてもバリューは増えないと思っています。いくら綺麗な水飲み場を用意しても、喉が渇いていない馬に水を飲ませることはできません。僕はやはり第一にバリュー/熱量で、その裾野を広げるためにコストダウンがあると考えています)

いまや当たり前になったインターネットECですが、Amazonが始まったばかりの頃、webサイトにクレジットカード番号を入れるというのはとても抵抗のあることだった。0→1型の事業ほど、"世の中にまだないもの"を提供するのでこのコストは異常に大きいのです。

なのでスタートアップや新規事業が使い続けられ、成長の次のステージへと生き続けていくには、初期の大きなコストを乗り越える、強いバリューがなければいけないのです。

書店を10も20も探しても見つけられなかったようなレアな書籍がAmazonで検索すると2秒で見つかる。この感動は大きな熱量を生みます。クレカをいれるのが怖かろうが納期が遅かろうが、「Amazonでしか買えない理由」があるからサービスを利用する。そして一度それでコストをぶち抜いてクレカを登録しECを経験すれば、次回利用のコストは大きく下がります。そうなれば書店で買える本も一緒に買ってしまう方が便利です。

Amazonは、「本」のあと「CD」、「DVD」と、趣味性が高く、希少性が生まれる領域にカテゴリを展開していきます。そしてユーザーのスケールが十分大きくなり、不安もなくなり、オペレーションも洗練された頃、コストが十分に下がった後で洗剤などコモディティの販売を開始したのです。

これは熱量とその時間的変化というのを意識していないと取れない戦略です。Amazonは初期からECのジャイアントを目指していたでしょうが、熱量があるところから攻め、時間とともに戦略を変えユーザーを広げたわけです。よく大企業の新規事業でありがちな「希少本欲しい人なんか何人いるんだよ?洗剤の方がスケールするだろ」という、ボリュームが多い方を優先する考えをもし初期にしていたら、どこでも手に入る洗剤から販売をはじめ、初期のコストをバリューが上回らずECの蓋は開かないままに死んでしまったかもしれません。

「ユーザー数」はたしかにマス層の方が多いのですが、熱量としては低い。「9割の人が欲しがるサービスより100人に1人が熱狂するサービスを」というのは「少数でいい」ということではなく、マスグロースを目指すために初期こそ熱量の高さが大事、ということに他なりません。

変化の時代こそ「時間」が重要になる。

事業に限らず、「時間」という成分は実は忘れがちです。

教科書や科学的事実も、実は時間とともに変化するのです。鎌倉幕府が「イイクニ」ではなく「イイハコ」になったりしますし、ティラノザウルスは羽毛でふさふさだったかもしれません。

変化するのが当たり前のはずなのに、教科書やロジックとして提示されると、人はそれを”無時間的に適用可能な真理”のように考えがちなのです。

事業を始めるタイミングの方、もしくは今事業をされている方も、いわゆる教科書に惑わされる前に、自分の事業がいま一体どの何歳くらいで、どの時間軸にいて、「今」は何が大事で、どういうアクションが必要なのか、子育て中の親になったつもりでぜひ今一度考えてみていただけたらと思います。

そしてまた、もし一度正解を出せたからといって、それが2年後にも同じく正解とは限らない、ということにも気をつけましょう。むしろ、2年後に同じく正解である確率の方が低い。「VUCAの時代」と言われる時代にあっては、固定より変化こそがますます重要となってきます。

その時にポイントとなるのは「時間感覚」だと僕は考えています。

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さて、「事業のフェーズ」まで書いたところで、連載も終盤となりました。次回は全編のまとめ。ぜひ最後までお付き合いいただけたらうれしいです!ラストスパートの声援もお待ちしてます!

↓9月からKOLとして不定期で投稿しています。興味持っていただけたら他の記事も読んでいただけたら嬉しいです

https://comemo.io/user/13928

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