エスカレートする米中貿易戦争(3)新興国への影響を整理する

前2回に続いて最後に、米中貿易戦争の長期化からの進展で予想される緩慢な人民元安はどのような影響をもたらすのか、を考えたい。

まず中国。中国の対外債務状況を見ると、対外債務残高は1兆9717億ドル(2019年3月)で、対GDP比で15%以下と相対的にかなり低い水準にある。そのうち外貨建ては66.7%でドル建ては残高全体の55%に相当する。なお、総対外債務は外貨準備高の64%であり、全体的に見て自国通貨安が外貨支払い能力に与える影響は小さい。人民元下落そのものが海外からの資本フローの流出をどれほど招くかについても、先進国政策金利および債券利回り全般の低下度合いからすれば、流出が大幅に加速するリスクは小さいと思われる。

続いて新興国全般。多くの新興国通貨がここ数年で人民元との相関度が強まっている中、中国のサプライチェーンに組み込まれている国ほど、通貨安に伴う資本フロー流出のリスクが大きいことは見ておく必要がある。成長の輸出依存度の高い国ほど成長が圧迫されやすい点にも注意が必要だ。こうした見地からはアジア全般が影響を受けやすく、中でも輸出の中国向けシェアが大きい韓国、シンガポール、マレーシアなどは気になるところ。低金利であるほど対ドル金利差も小さく売り圧力を受けやすいが、相対的に高金利のインドネシアもコモディティ輸出に依存する部分があるだけに悪影響を免れないだろう。一方で、米中貿易戦争の長期化を見据えることが一般的になる以上、タイとベトナムは中国からの製造業生産拠点のシフト観測から恩恵を受ける可能性が大きい。

グローバル景気減速の中、先進国中銀が利下げを維持する環境下が継続すると思われる中、新興国通貨とその資産からの資金流出も簡単には起こらないと思われる。ただし、それでも、エスカレートする米中貿易戦争の中で、影響が出る可能性は否定できない。悪影響が出易い国はどこか、選別しておくのは意味がある。


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